豚に失礼だよね、ごめんね、豚さん。
なぜ、人は時として自分が正しいと疑わず相手に無理な要求をするのだろう。
患者の自分は、医者に診てもらえて当たり前。見捨てる医者は悪だ。SNSで拡散してやる。
客の自分の要求は、店に受け入れられて当たり前。客は神様だから。店の対応が悪いとレビューしてやる。
子供のやったことは、大目に見てもらえて当たり前。子供は宝でしょう。許せないとは大人げないと批判してやる。
――。
世界を救う力をもった聖女は、世界を救って当たり前。
はっ。
冗談じゃない。
私は聖女になりたいなんて言ってないし、聖女になったからって、救う救わないなんて私の自由。誰かに命じられて無理やり奴隷のように命を削って危険を冒して働くつもりなんてこれっぽっちもない。
そりゃ、目の前で死にそうになっている人がいれば助けたいと思うけれど。
見えない場所の知らない人のために財産投げうって寄付する人がいないように。聖女だからって、助ける義理はないし義務もないし見捨てるのかって呪いの言葉で心が傷つけられる言われはない。キリストさえ、世界中の人を救ったわけじゃないんだから。パンをどれだけの人に配れた?
もちろん、教えが人々の心を救うという話はまた別。
「聞こえませんでしたか?早く帰してください」
豚面の男を睨み付ける。
「今この瞬間も、苦しんでいる人間が大勢いるというのに、見捨てるというのですか?」
はい、来ましたね。見捨てる見捨てないの話。
「国の最高責任者はそこに座っている人では?国民を救うのはその人の役割でしょう?苦しんでいるのは私のせいじゃない」
「だから、陛下はお前を呼んだんだろうが!何も手をこまねいているわけではないっ!」
狐面がキンキンとうるさい声で怒鳴る。
「詳しい話を聞くつもりはありませんが、苦しんでいるという人の中には、貧しくて食べるものがなくて苦しんでいる人もいるんじゃないですか?じゃぁ、あなたは、その人を救うために食事を提供しますか?国中に貧しくて苦しい人がいるはずですよね?国中の苦しんでいる人を救おうと思えば、そんな立派な服を買うお金は残らないんじゃないんですか?あなたも、そっちの人も、陛下も。苦しんでいる人を見捨てている人たちが、なぜ、私に苦しんでいる人を見捨てるのかと問うのか疑問です」
豚面の男がふっと笑った。
「ああ、そういうことですか。お金でしたら望むままとはいきませんが、一生豪遊して過ごせるだけはご用意させていただきますよ。領地がほしいのであれば、豊かな土地を与えましょう」
は?何をいっているのか全く分からない。
お金があるなら国民救えよって話をしたんで、お金をくれれば聖女として救ってやるなんて話はしてない。
そもそも……お金があったって……亡くなった父は生き返らない。お金の問題なんかじゃない。「金を払ってやるんだから文句ないだろ」というやつは嫌い。
金で命が買えるとでも思っているのかっ!