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聞かなくちゃ。孤児院の場所。
「赤ちゃんの……その……まだミルクが必要なんですけど」
って、私、何を言っているの。孤児院の場所を聞かなくちゃいけないのに。
「ああ、なるほど。生んだわけじゃないから、乳母が必要ってこと?んー、確か、3件向こうの家から赤ちゃんの泣き声がしてるから、行ってみたらどうかな?」
孤児院の場所を……今からでも遅くない。尋ねないと。
「はい。ありがとうございます。あと、その、おむつとか赤ちゃんに必要な物って、どこで買えますか?」
馬鹿、何を聞いてるんだろう。
だ、だけど、孤児院に預けるにしても、おむつとかあっても邪魔にならないだろうし……。
「あー、ちょっと待って、そういうことなら母さんの方が詳しいはずだから」
と、店員さんが奥に引っ込んでいった。
母さん?家族経営のお店なんだ。
その間にパクパクと残りのご飯を食べる。少し冷めてしまったけれど、薄切り肉なのでそれほど固いと思わずに食べられた。スープも冷めても美味しく食べられた。
それから一口大にちぎられたパンは、スープに浸したり、お肉と一緒に口に入れたりといろいろ楽しんで食べられた。
パン自体は、少し酸味がある。もしかしたらドイツパンのように、ライ麦を使ったサワーイーストで作られているのかもしれない。
チーズやワインと一緒に食べたら美味しいんだよねぇ。どこかにチーズやパンもあるのかな。
この店でお酒と言っていたものは、他の人のテーブルを見た限りビールっぽかった。エールというやつなのかな?
「おむつがいるってのは、あんたかい?」
店の奥から、恰幅の好いエプロン姿の女性が出てきた。
「あの、急に赤ちゃんのお世話をすることになってしまって……」
「おやおや、それは大変だね。おむつは腹帯……ってわかるかい?お腹に赤ちゃんがいるときに巻く布なんだけどね、ソレから作ることも多いんだよ。周りの人達が、使い終わったおむつをくれることも多いね。あと足りなきゃ着なくなった服をおむつにしちゃうこともある……おむつとして売っている店となると……」
ああ、そうだ。
紙おむつなんて当然ない。布おむつは、布であれば代用できる。そして機械で織物ができないと、布もそこそこ高価な代物だろう。
となれば、布おむつも、新品を買って使うことなんてほとんどないんだ。……人の使ったおむつか……。
現代日本人からすると、なんだかすごぉく抵抗感があるんだけど、そんなこと言ってられないよね。
初めての赤ちゃんが生まれるときだけ、腹帯から新しく布おむつを作るっていうのも分かる。その先は上の子のおむつ、近所のおにいちゃんおねえちゃん、親戚の人とか、おむついるかい?なんていわれるのも……普通。うん、普通。
よし。腹をくくろう。
「腹帯は、布屋に行けばおいてあると思うよ。おむつカバーは、変えが必要ならそのときに一緒に買えるだろうし。おむつの形になってるのは、そうだねぇ、古着屋あたりにあるかどうか……」
「はい。ありがとうございます。あの、早速探してみます。えっと、食事の代金を」
と、巾着を取り出すと、おかみさんが店員さんの娘を振り返った。
「ああ、もう旦那さん……じゃない、えーっと、お連れの方からいただいてますよ」
え?
割り勘でって言ったのにな?
「ごちそうさまでした。スープは野菜の甘味がとても美味しかったです。お肉の味付けも素晴らしかったです」
ぺこりと頭を下げて店を出る。
あれ?
いない。




