毎月、少しずつお金を貯めていきなさい。 そうすれば、年末にはびっくりするでしょう。 あまりの少なさに 2
「誰って失礼ね!金のことしか考えてないと幼馴染のことすら忘れるわけ?」
声と顔をよ〜く見て脳内検索をかける。いやかける必要すらなかったわ。俺幼馴染なんて一人しかいないし。
「小袖。また変身してんな」
この声をかけてきた女は雨宮小袖。幼稚園から、いや正確にはもっと前、公園デビューからの付き合いだ。ちなみに、幼馴染にもかかわらず俺が一瞬誰かわからなかったのには理由がある。こいつはことあるごとに、いや何もなくても自分の容姿を大きく変化させる癖がある。と言っても整形をするとか、ポ◯モンのように進化するわけじゃない。シンプルに衣服や髪型、化粧を変えているに過ぎないのだが、この変化が毎回大きすぎて本当に別人にしか見えないのだ。
「変身じゃなくてイメチェンよ」
もはや最近では家族と俺ぐらいしか素顔を覚えていないのではなかろうか。ていうかあなた中学生ですよね?なんで化粧も金髪も怒られないの?
「今度はギャルかよ…。お前つい一昨日ぐらいまで黒髪ショートの清楚な感じだったじゃん」
俺あれ結構好きだったのに…。
「うーん、まああれも悪くなかったけど。なんか変な男が寄ってくるのよ。だから真逆な感じにしてみた」
確かに一部の人々が好みそうな感じではあったな。でも口開けばこんな感じだけどな。小袖はこのサバサバして明るい性格で友人が多い。それに毎度毎度化粧やらで別人に変身するとはいえ素が良い分美人であることに変わりはないから男からのウケも良いようだ。
「あんたは今日もバイトよね?」
「そうだな。今日から三日連チャンで稼ぎ時だぜ!」
今からワクワクしちゃうね!
「なんであんたは金のことになるとそんなにポジティブなの…」
「お前はまだ働いたことがねえからわからんのよ。働いてみたらわかるぜ!通帳の中に少しずつ少しずつ数字が増えて行く幸せがな!」
「さすが守銭奴ね」
「違う!俺は守銭奴じゃねえ!ただ純粋にお金が好きなだけだ!」
「それを守銭奴っていうのよバカ」
失礼な!働き者になんてことを言うんだ!やれやれみたいな態度やめろ!
「さすがに働きすぎじゃない?お母さんも心配してたわよ。京太の体が心配だって」
「ふーん。鏡を見て言えって言っといて」
何言ってんだあの人は。パートに内職で一番働いて体壊しそうなの自分じゃねーか。すぐ自分のことを棚に上げやがる。あー貧乏てヤダヤダ。
「それに将来のことも考えてるのかしらって言ってたわよ」
「将来ねぇ。」
将来のことなんて考えたところで、俺には選択肢がすくない。というのも俺がまだ小さかった頃に親父が自身の事業で失敗して多額の借金を抱えたことに由来する。以降それまで専業主婦だったお袋も働くようになり、父は借金を返すために外国で資金繰りの毎日。そんな家庭を考えたら自ずと選択肢なんて限られてくる。しかも俺は勉強なんてほとんどしたことないしな。あ、社会経済の勉強はしたけど。
「ま、とりあえず高校ぐらいには行かねえとな」
今すぐにでも働いて金が欲しいところだがさすがに中卒でまともな仕事なんてつけないしな。私立に行く金はもちろんないし、近くにないから働きづらくなるからな。せっかく合法的にアルバイトできるようになるのに。
「ふーん。じゃあ、夏休みに入ったらちょっとぐらい勉強教えてあげるわ」
そうか、この試験が終わってちょっとしたもう中学最後の夏休みか。ってなると普通は受験勉強も本格化するわけだけど…
「いや、夏休みはバイト漬けだからなぁ」
まあ俺もさすがに勉強しなきゃとは思ってるけど、二学期からで大丈夫だろ。何より長期休暇は稼ぎ時なのだ!
「ねぇ本当に大丈夫?」
「さすがにひど過ぎない?」
そんな真顔で心配されると傷つくわ。
「そうじゃなくて、そろそろちゃんと考えないと…」
「でーじょぶでーじょぶ。じゃ、俺急ぐわ」
イカンイカン。また時間を食ってしまった。ったく、母ちゃんみてーなやつだなほんと。
「あっ。ちょっ…たくっほんとに大丈夫なんでしょうね」
まだ後ろでなんか言ってる気がするけどダッシュで職場に向かう俺。急がねえとマジで遅刻だぞ。