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6.二度目の初恋


翌朝、僕たちは部屋で目覚めた。不思議なことにあの夢を見ていない。それはもう、夢を見る必要が無くなったからなのだろう。



「僕の気持ちを聞いてくれ」

由美は緊張してるのか、神妙な面持ちで僕を見る。


「昔、赤いリボンをしていた少女の事が誰よりも好きだった。僕の初恋だったけど、記憶を無くしてしまった。そして飲み会のあったあの日、運命の出会いをした」

僕は一呼吸してから話を続けた。


「由美、お前が僕の運命の人なんだ。今まで忘れていてゴメン、いっぱい待たせてゴメン。辛い思いをさせてゴメン。今度こそ、僕に2度目の初恋、叶えさせてくれ!!」

僕は自分でもどうして良いか分からず、涙が溢れてしまった。


「はい!!」


こうして僕たちはお互いにキスをした!




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 みんなで朝食をとり、母と彼女は二人で出掛けて行った。どこに行ったか分からないが、僕は留守番を頼まれた。僕はせっかくだからピアノを弾いていた。そこへ誰かが訪ねてきた。


(ピンポ〜ン)


「はい、どちら様でしょうか」

「あの、天野です」

「ゆかりちゃん?ちょっと待ってね」

驚いた、突然ゆかりちゃんが訪ねてきたのだ。彼女は僕のピアノの生徒である。


「どうしたの?突然」

「はい、ちょっとレッスンではないのですが、曲の事で聞きたい事があります」


「玄関じゃ話せないね。とにかく上がって!」

「失礼します」


「どんな事を聞きたいのかな?」

「この部分がうまく弾けなくて」


「トリルの箇所ね、ここはこう弾くんだよ」

僕は手本を見せた。


「そのタイミングで弾くのですね!ありがとうございました」


僕は曲を弾いてみせた。


(ショパン作曲 ノクターン第2番変ホ長調Op.9-2)

(ショパン作曲 ノクターン第1番変ロ短調Op.9-1)


2曲弾き終わると、彼女に意見を聞いてみた。


「ゆかりちゃん、感想はどう?」

「とても綺麗です。まるでCDを聴いているようでした」

「ありがとう、他に何かあるかな?」


「あの、最初に先生が弾いて下さったあの曲を聴きたいです」

「分かった」


(ショパン作曲 エチュード Op.25 No.1 エオリアンハープ)


「やっぱり、綺麗な曲ですね。羨ましいです、そんなうまく弾けるなんて」

「ありがとう、いっぱい練習すれば、ゆかりちゃんも弾けるようになるよ」


「他に、先生が好きな曲はありますか?」

「もちろんあるとも。これとかね」


(ベートーヴェン作曲 ピアノソナタ 第8番 悲愴)


「やっぱり、どの曲も綺麗ですね。他にはありますか?」


「面倒だから、先生のミニリサイタルをしちゃおうか?(笑)」

「本当ですか?お願いします」


調子づいてピアノを引き続けた。


(リスト作曲 巡礼の年 第一年スイス  ジュネーヴの鐘)

(リスト作曲 巡礼の年 第一年スイス  泉のほとりで)

(リスト作曲 巡礼の年 第二年イタリア ソネット123番)

(リスト作曲 コンソレーション第三番)

(リスト作曲 ラ・カンパネラ)


「どうかな?」

「驚きました、先生はプロのピアニストを目指しているのでしょうか?」

「どうして?」

「プロの方々が演奏する曲があったもので」

「そんなことないよ、ただ好きなだけ」

「ありがとうございました」

「どういたしまして、何かあればいつでもどうぞ」

「はい」


ゆかりちゃんを玄関まで見送りに出ようとしたところ、母と由美が帰ってきた。


「あら、ゆかりちゃんじゃないの!珍しいわね。今日はどうしたのかしら?」

「江梨子先生、久しぶりです。今日は先生にピアノの事で質問に来ました」

「あら、そうだったのね。解決したかしら?」

「はい、とても参考になりました。先生には沢山の曲を演奏していただき勉強にもなりました」

「そう、また来てね」

「はい、失礼します」


ゆかりちゃんは満足そうに帰って行った。僕は母と一緒に居た女性を見て驚いてしまった。


「母さん、そちらの人は?知り合い?」

「バカな事を言ってるんじゃありません。ゆみちゃんでしょ!」

「嘘だ、いくら僕でも、そんなことで騙されないって」

「あの、私だよ」

「・・・本当に由美?」

「うん、別人に見えたかしら?(笑)」

驚いた、どこの美女かと思う程、面影が無い。


「凄いでしょ、母さんの行きつけの美容院に寄った後、お洋服も見て、一緒にランチをしてきたのよ。母さん、娘が出来たみたいで嬉しいわ!」

「メガネは?」

「実は、あれ伊達メガネだったの。目立ちたくなかったから・・」

「なるほど、でも今のお前が街中を歩いたら、目立つなんてものじゃないぞ!!」

「そうかしら?それほど目立たないと思うわ」


「そうそう、あなたのお昼、カップ麺を買ってきたから、お湯を入れて召し上がってね」

「さいですか・・・」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




日も暮れて茜色に染まるころ、僕たちは家族写真を撮る事にした。


「母さん、記念写真を撮ろうよ」

「良いわね、ゆみちゃんも来てきて!」

「はい!」

「ハイ、チーズ!!」


(カシャッ)


「今度は、二人でとってあげるから。ゆみちゃん、もっとくっついてね(笑)」

「あっ、はい」


(カシャッ)


時間を超えた2枚の写真、僕たちは新たな想い出を作ったのであった。


「由美、今日も泊まって行けよな」

「うっ、うん。でも良いのかな?」

「母さんだって良いって言ってるんだから、気にするなよ」

「はい!」


明日からの大学は、色々な問題で騒然となる気がした・・・のは僕だけであろうか。



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