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手をのばせば  作者: 長岡青
5/11

応援してくれる?

 待ちに待った週末。海に行くことだけを楽しみに生きている一週間。日曜日に海から上がった瞬間から、次に海に行くことしか考えていない。そんな生活になってもう何年が経ったんだろう。

 

 決して朝一から行くことはなく。もちろんいい波の時は行くけれど、同じことを考える人は多いもので、朝一の波がいい時なんて、まさに混雑のピークって感じの時が多い。だから、今日みたいな一日波がありそうな日は、たいてい朝二出動する。まあ、起きれないから、というのもあるけれど。朝一組が終わりかけの頃がいいタイミング。

 海に向かう途中、ショップから海に向かって歩く哲弥さんとスクールの集団を自転車で追い抜いた。 

「おはよ!」

「おう!」

 今日は女の子が多いみたい。みんな同じ色のラッシュを着て、二人一組でスポンジのファンボードを運ぶ姿は、この地域のなじみの光景だ。その集団を自転車ですっと追い抜いて、私は海へ向かう。

 

 海に着くと、うん。今日も人いるね。でも私も入らせてもらえそう。ロングとショートがアウトとミドルで分かれてるってことは、サイズいいのかな。

 あ。祥さん入ってる。今日、早いじゃん。祥さんもあまり朝一から入ることは多くない。

 他にも見知った顔がちらほら。目が合えば挨拶するし、なんとなくそこに誰がいるのかは感じ取りながらラインナップする。ほら。今日の波だったら、この人はこういうライン取りのライディングするだろな、とかあるわけで。なんならいいライディング見たいし。うまい人のは見るだけで相当に勉強になる。今日みたいにいい波の日。すごく貴重。ありがたい。

 そんな休日のいいサーフィン日和。




「来週、試合ですね。」

 海から上がってぼーっとしていると、ちょうど祥さんも上がってきた。今日は白い板に乗っていた。ストリンガーの左右にカーボンを貼っているけれど、それ以外は真っ白で本当にきれいな板。シングルフィンではないけれど、きっと絶妙なフィンセッティングしているんだろな。

「なんで知ってるの?」

 板を持ち直しながら、驚いたように祥さんは私を見た。

「なんでって。言ってるじゃないですか。私は祥さんのファンなんですって。」

「うわー知られてたか。」

 ちょっと苦笑いをして笑った。

 祥さんはプロサーファー。プロサーファーの試合スケジュールは、私みたいなファンはチェックしてるわけで。

「応援してるから。」

「一緒行く?」

 笑いながら冗談っぽく聞いてくる。

 それもそのはず。今回の会場は、地元からは片道三時間くらいかかる場所。今シーズン2戦目、だけど祥さんは1戦目に出てないから、祥さんにとっては一戦目。年間5戦、場所を変え、プロの試合が行われる。その5戦のトータルポイントの合計でグランドチャンピオン、いわゆるグラチャンが決まる。はっきり言って、祥さんはグラチャンを取れるようなバリエーションがあるタイプのサーファーではない。でも、私にとっては、グラチャンとる選手より、祥さんのライディングは魅力的だ。

「行っていいなら。付いてってもいいなら。私いると便利だよ?運転できるし。」

「マジで言ってる?」

 びっくりした顔で聞いてきた。自分で言ったクセに。冗談で言ったつもりが真に受けられてびっくりしたって感じ。目を見開いちゃってる。

「はい!」

 祥さんの一番のファンは私だ。私が応援しないでどうする。

「えっと。選手は金曜集合だから、金曜の2時くらいに出るけど・・・」

「付いていっていいなら行く!」

「・・・まじで?」

「・・・祥さんの邪魔にならないなら?」 

 ここまで控えめに言われると、迷惑な申し出だったんじゃないかと気が引けてくる。あ。やばい。祥さん困ってる?困らせるつもりなんて全くなかったんだけどな・・・

 少し空を仰ぐようにしてから、私と目を合わせないまま、祥さんは口を開いた。

「応援きてくれるなら嬉しい。」

「おっけ。行く!」

 祥さんはやっぱり驚いたような顔で今度は私を正面から見てくれた。そして今度はにっこり笑ってくれた。

「最強だね。悠がいたら。」

「もちろんですよ。私以上に最強なファンはなかなかいないかもよ?」

「間違いないわ。んじゃ、後で連絡するね。」

「待ってマース。」

 やった。祥さんの応援行ける。地元じゃないとこでの応援は初だな。うわ。楽しみ。テンションあがるわ。やった!!!!!

 すごくうれしいけれど、それを外には出さない様に、必死に取り繕う私。でも、心臓バクバクで、なんならジタバタしたいくらい嬉しい。

 祥さんの。試合に。一緒に行って応援できる!!!

 祥さんの試合を、仲間として応援できる!!!

 これって本当に嬉しい。

 そんな私の喜んでる内心をしるよしもなく、祥さんは、それじゃ。と去っていった。

 そんな祥さんの背中を見送りながら、私も一回帰ることにした。この心臓のバクバクは、一回落ち着かないとどうしようもない。ちょうど昼頃。お腹もすいてる気もしてるし、一時退散。またあとで。



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