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手をのばせば  作者: 長岡青
3/11

朝一サーフ

朝一サーフ


 目覚ましがなった瞬間に、バチッと叩いてアラームを消した。ただいま朝五時。冬でも夏でもこの時間に起きる。

 まだ日が昇るには早すぎて、部屋は真っ暗。この時の布団の中が気持ちよすぎるから、なかなか抜け出せないのは冬あるある。

 枕元に置いた携帯を手に取り、半分も目が開いていない状態なのに、波情報をチェックする。

 風。オフ。サイズ予想0.8m。中潮。いけそうじゃん。

 でも布団の中が気持ちよすぎる。

 けど、ここで二度寝したら、朝、海行けない。そしたらイライラする。・・・起きなきゃ。

 昨日のビールが若干残っている気がしないでもないけれど、身体を無理やり起こして、フリースをはおる。さむ。

 エアコンのスイッチを押し、コーヒーメーカーをセットする。

部屋が暖まるまでに顔を洗って、日焼け止めを塗る。

冬とはいえども、紫外線は侮れないから常に日焼け止めはかかしちゃいけない。特に冬なんて、ウエットから出る部分は顔しかないわけで、顔だけ日焼けすると、それはそれで仕事着をきたときに、顔だけ黒くて変な印象になってしまう。三〇歳も近づいた頃から、シミが目立つようになってきた。いまさら遅いかもしれないけれど、気にはなるわけで。ま、日焼け止めをどんなに塗ったところで、結局は海に入ってばっかりいるから、効果があるんだかないんだかわからないけれど。塗らないよりはマシでしょう。何にせよ、日焼けは防ぐぞ、という心意気が大事。


 ワックスアップして、出来たてコーヒーをすすりながら、カーテンを開けると期待を裏切ることなくまだ暗い。暗いわけですよ。そりゃね。でも東の空が少しずつ明るくなりそうな気配を感じる。今日も晴れそうだな。

 朝ごはん代わりにバナナを一本。コーヒーをもう一杯飲んで、いよいよ目が覚めてくる。

 半乾きのウエットに、半乾きのブーツとグローブをつけて、いざ出陣。

 くっそ寒いわ!!

 

 ホームに着くと、哲弥さんがタバコを吸いながら波チェックをしていた。もちろんウエットを着こんで自転車に板を装着してきている。

「おはようございます。どう?」

「おう。和也いったよ。」

 じゃあ、いい感じってことだ。

「お。」

 指指した方向を見るとセットを捕まえた和也がテイクオフした。ちょっと速めかな。ボトムに降りずに走って、お。フローターもどきで抜けて・・・からの・・・はい。リエントリ―。

 いい。なかなか素晴らしいぞ和也。

 和也のライディングを見届けてから、二人して海へ向かう。顔に当たる風は冷たいけれど、身体になじんだウエットのおかげでさほど寒さは感じない。

 特に会話をするでもなく、黙々とビーチを歩く。やっと太陽の光がまともに届き始め、ほっとさせられる。

 私が肩まわしをしながら波を見ていると、哲弥さんは早速入っていく。決して慌てているようには見えないけれど、尻尾がついていたら ぶんぶん振り回しているだろうな、といった足取りで。子供か。

 私も行こう。



 ラインナップへついて、まずは和也のところへ。

「おはよ。」

「おう。」

「波残ったね。」

「昨日来たんだっけ?」

「うん。」

 周りを見ると、見知った顔がちらほら。ちょっと離れたところにいるオヤジ様サーファーと目が合って軽く手を挙げると、オヤジ様も手を振り返してくれる。

 ちょっとアウトにはロングの面々。特に仲がいいわけでもないけれど、それでも顔なじみは結構いる。あの人はグーフィーに行くから、とか、フェイクがちにテイクオフしてくから、とか。彼らの邪魔はしないよう、一応避けたところにポジションする。

 セットが来るまでの間、ゆるりとした波が流れていく。ぱっと見ると、いけそうな波に見えるけれど、いやいや。騙されないよ。セットじゃないとパワーないからだらっとしちゃって全然乗れないことは知ってるんだから。

 それでも何人かが騙されてパドルしているのが目の端っこに見えた。そしてその何人かが動いたところに、すーっと移動する人も見える。私も少し移動して、うまいこと波待ちポジションを見つけた。和也の左で哲弥さんの右。波の向きがどっちなんだろ。ピンポイントで私のところにピーク来なきゃ、私、二人に波取り負けるわ。・・・ま、いっか。

 

 きた。セットきた。ライト?誰ピーク?私もいける?

 パドルで私が前に出れて、周り、誰もいない。私の波・・・

 ボトム降りきらないようにレールをセット・・・ここで板返す!!


 最後はインサイドのダンパーに巻き込まれないようにちょっとジャンプしてプルアウトした。足の裏のボードを蹴った感覚と板を胸で受けたゲホっとする感覚。よしよし。下手こいてないぞ。いい感じにライディングできたぞ。思わず頬がゆるみそうになる。

 パドルバックする時、レフト側のインサイドから同じようにパドルアウトしようとしているロングが見えた。多分、あれは祥さんだ。あのボードの色といい、アタマの感じといい、間違いない。それにしても冬でも坊主って、寒くないのかな。そんなことを思いながら、祥さんに手を振った。向こうも振り返してくれる。そして、すーっとこっちにパドルしてきてくれた。

「おはよう。早いね。」

「祥さんこそ。」

「波なくなりそうじゃん?」

「ですね。」

 にこっと微笑んで、祥さんは来てくれたのと同じく、すーっとアウトに向かってパドルをしていった。彼はグーフィー。ちょっと混んでいるショートばっかりのここより、アウトのレフトのピークにラインナップするんだろう。私は祥さんとは違って、ライトのピークを目指してパドルをしていく。途中ドルフィンで波をこえながら、なんならセット来るな、と思いながらパドルアウトしていく。そして、だんだんラインナップが近づいてきた時、哲弥さんがテイクオフするのが見えた。うわーこっち来ないでー・・・って思いながら避けるのも毎度のこと。邪魔してごめんって思うけれど、哲弥さんなら避けてくれる。・・・ただし、思いっきりスプレーかけられることは必須。・・・凹むけど。


 ラインナップについて、左側にラインナップした祥さんを見ると、祥さんもこっちを見ていた。ロングの知り合いが多いわけではないけれど、祥さんはよく会うから、気づいたら挨拶するようになっていた。

うーん。祥さんのライディング見たいな。うん。見たい。このサイズのロング、特に祥さんのライディングは絶品なんだから。乗らないかな。乗らないかな。


「悠、じゃま。」

哲弥さんがパドルバックして近づきながら私に水をかけてきた。

うわ。やば。

「ごめん!」

「うっそー。全然避けられるところでした。むしろスプレーかけてごめん。」

 ニヤニヤしながら哲弥さんが言ってくる。スプレーかけた自覚あったのね。

「いいですよー。私が変なとこ板のが悪いんだし。がっつりスプレーかけられて凹んだけど、ぜんっぜん大丈夫!」

「いやー悪いねー。」

絶対悪いって思ってないな。これ。

そして、哲弥さんはメインピークへパドルしていく。私もそれについていくように少し移動した。

 日曜だからか、見たことのあるメンツの他に知らない顔もちらちらいる。邪魔をしないように、私がいるんだよーというのをアピールしつつ、出来るだけアウト側から移動するように。前を通過するときはあまりパシャパシャしないように。無意識にしているように見せかけてるつもりだけど、実は最低限のマナーを守っているつもり。特に女子なんて、なめられるとは言わないけれど、何しても許されるって思ってんだろ?と思われがちだから、なおさら。そこそこ乗せてもらえるようになっているから、なおさら。意外と気を使ってサーフィンしている。礼儀を忘れず。波に乗せてもらえたらありがとう。邪魔をしたらごめんなさい。当たり前のこと。これを忘れちゃいけない。


 レフトピークの方で、祥さんがテイクオフしたのが見えた。

 キレイなテイクオフから、ハングファイブ。ステップバックしてカットバック。からのもう一回ハングファイブ・・・でラストはテールを蹴りあげてプルアウト。

 ・・・美しい・・・

 祥さんのライディングを見ながら、私は自分の顔がゆるむのを感じた。仲間がいいライディングするのは嬉しい。


 祥さんのライディングを見るまで、ロングはあまり興味がなかった。良さが分からなかった。でも、見ているうちに、じわじわと惹きつけられた。でも、やっぱり、祥さんのロングが好きだ。他のロングの人のライディングもカッコイイと思うけれど、私の仲のダントツはやっぱり祥さんだ。

 そんな祥さんがプロサーファーだと知った時、私はすごく舞い上がったのを覚えている。


 パドルアウトしてくる祥さんと目があった。

「見てた?」

「うん。」

 知り合いになる前から、祥さんが乗ると私はじっと見てしまう。祥さんは、初めはとまどったけれど、今では人に見られる免疫がついた、といつか言っていた。おかげで今では祥さんのライディングをじっと見るお許しが出ている。

「かっこいい。」

「ありがとう。」

 この会話もいつも毎度のこと。多分、祥さんの一番のファンは私だ。

 すーっとパドルアウトしてレフトのピークへむかう祥さんを私はじっと見ていた。


 二時間経ったか経たないか。寒さの限界がきた私があがると、哲弥さんもあがってくるのが見えた。

「店開けなきゃ。」

「早くない?」

「スクール予約あるんだよね。」

「この寒いなかでスクールやるの?」 

「ビデオ撮り。」

「それはそれは。お疲れ様。」

 そんなことを話していると、英太が原チャリ登場してきた。何て言うか。ものすごい格好で。

「おはよ。」

 私と哲弥さんは笑いながら英太に近づいた。原チャリと板で英太だとわかるものの、顔にはフェイスマスク、ウエットの上にベンチコートを着込み、マフラーを巻いている。

「まじ原チャリ寒いから!サイズ落ちた?」

「うーんちょっと落ちたかも。でもまだ全然持ってる方じゃん?」

「人増えたけどね。」

「確かに。和也まだ入ってるよ。」

「お。え、何時から?」

「六時半くらい。」

「はやっ。全然起きれなかった・・・」

「昨日そんな飲んでないし。」

「ま、いっといで。」

「もう一回入る?」

「俺スクール。」

「私寒い。」

「悠、なにそれ。笑。」

 自己申告をすると笑われた。だって寒いもんは寒い。

 よし、と気合を入れながら英太はもこもこのベンチコートを脱いで、海に足早に向かっていった。

「帰るか。」

 哲弥さんの一言で、私と哲弥さんは帰ることにした。


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