トンネル
兄:ヨリ(主人公)
妹:ハヅキ
〈フーム〉:人類を滅亡の危機に追い込んだ謎の生命体
俺は愕然とする。
まさかハヅキ――お前は俺を見捨てる気か?
シャッターは既に半分閉まりかけている。
畜生! 俺の走る速さじゃ、間に合わない!
俺はここで終わるのか?
人類を滅亡に追い込んだ〈フーム〉の撲滅。それが、あともう少しで完遂するというのに! そして人類が待ち望んだ平和が、ようやく訪れようとしているというのに!
俺はこの無念を胸に抱えながら、この大地に身を沈める……
「……なんてな」
俺は網膜スクリーンに表示されている“あるコマンド”を実行させる。
「足が遅いなら、翼を使えばいい。だろ?」
背中から振動。
それは俺の背中に取り付けられたブースターのハッチが開いた証拠。
直後、ブースターが点火。
と同時に、俺の体が一気に前に出る。
この強化外骨格には翼がある。
と言っても、鳥みたいにずっと空が飛べる翼じゃない。
高い場所にジャンプするために、一時的に浮力を得られるブースター。
それが翼の正体だ。
でも、捨てたもんじゃない。
このブースターを使えば、2~3階くらいまでの高さならジャンプできるし、何より、今のような状況には打ってつけだ。
なぜなら、ブースターの出力を上ではなく、横に向けて行えば、移動速度が一気に上がるからだ。
その機能を使って、俺はトンネルに飛び込む――
トンネルのシャッターは、3分の2が閉まっている。
立っている姿勢では、その隙間に入ることができない。
だから俺は、ヘッドスライディングする要領で姿勢を低くし、頭から突っ込む。
だがシャッターが、今にも閉じようとしている。
――間に合え!
俺は願う。
そしてその願いは、通じた。
シャッターが閉まる直前、ギリギリのところで俺の体がトンネルの中に滑り込み――
――ゴンッ!
勢いよくシャッターが閉まる音がした。
俺はブースターのスイッチを切る。
だが一度ついてしまった体の勢いは、すぐにはなくならない。
俺は地面に体を強打し、そのままカーリングのように地面を滑る。
そして10メートル以上滑ったところで、俺の体は、ようやく止まった。
「ったく……」
俺はゆっくりと体を起こしながら言う。「一生分のスリルは味わったぜ。もう、いいだろ……」
しかしだ。
すさまじい轟音が、閉じたシャッターから響く。
――どうやらこの戦場は、俺を追い込むことに、まだ満足していないらしい。
轟音と共に、シャッターが突き破られた。
そしてそこに現れたのは、例の装甲車だった。