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妹が人類を滅ぼしかけていて、ヤバい。  作者: 束冴噺 -つかさしん-
第4章 やっぱり、人類は滅亡するしかないのですか?
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逃げたハヅキ

 つまり、ハヅキがここにいないのだ。


 だが、ハヅキの笑い声が聞こえた。

 それは近くではない。

 爆発によってぶち破られたドアから遥か遠くで、その笑い声は船内を木霊しながら、微かにここに届いているに過ぎない。

 それでも、ハヅキがどこに向かっているのかはわかる。

 木霊の痕跡は、明らかにノアの機体後方から伸びてくるものであり――


「ケヴィン……」


 切迫した表情と口調で、リザがそう囁いた。

 そうだ。

 ハヅキが向かっている場所。

 それはケヴィンがいる場所だ。

 正確には、リザの愛おしき恋人の《人間株》が保管されているDNAストレージ・サーバ・ルーム。

 そこにハヅキは向かっている。

 目的は明らかだ。

 人類滅亡を完遂するために、人類の、いや、アメリカ人の希望を断ち切るためだ。

 立ち上がったリザは、肩で大きく息をしながらも、ケヴィンのいるDNAストレージ・サーバ・ルームに向かった。

 俺も自分の肉体を叱咤しながら何とか立ち上がり、リザを追った。

 が、思うように前に進めない。

 船内中に充満したガスは、次々と爆発を引き起こしている。

 その度に足元は大きくグラつき、倒れそうになってしまう。

 しかもその足元には、死体がたくさん転がっている。

 爆発に巻き込まれてしまったのか?

 それともハヅキが殺してしまったのか?

 恐らく、両方だ。

 爆発による炎上で焼き爛れてしまった死体もあれば、焼跡が無いのに、体に大きな穴が開いてしまっている死体もある。

 ハヅキとまた会えば、俺とリザも同じ目に遭うのかもしれない。

 怖いか?

 そうだな。

 俺は怖い。

 でも、あいつを放っておけば、ノアの方舟は地上のゴミとなる。

 それも壮大な粗大ゴミだ。

 そのゴミの中に、俺とリザの死体も含まれるだろう。

 そうなる前に、あいつを止めなければならない。

 どうやって止めるかなんて、まだ思いついちゃいないが……


 そして、ようやく俺とリザはDNAストレージ・サーバ・ルームにたどり着いた。

 しかし目の前の光景に、俺たちは絶句するしかない。


 DNAストレージ・サーバ・ルームは、既に炎の海だ。


 中には入れない。

 エンジンから発火した炎が、充満したガスに引火したことで、狂ったように燃え盛っている。

 まるで暴走したオーブンレンジだ。

 そんな中に人が入ったら、丸焼きじゃ済まない。

 きっと灰になる。

 でもだ。

 そんな炎の中に、リザが入って行こうとした。

 俺は思わず、


「止めろ!」


 と叫んでリザを後ろから抱きかかえる。

 しかし、女とは言え、筋力はリザの方が上だ。

 リザはエルボーを俺の腹に一発かまし、俺はそれで呆気なくダウンしてしまう。

 その隙に俺の腕を振り解き、リザはDNAストレージ・サーバ・ルームに駆け入る。

 ところが、そんなリザの足も、すぐに止まってしまう。

 あまりにもの高温で、肉体が耐え切れなくなってしまったのか?

 いや、そうじゃない。

 そうじゃ、なかった。


 リザの行く手を、ハヅキが遮っているからだ。


 リザが行こうとするその先に、ハヅキが立っている。

 しかもハヅキの手には、一人分の《人間株》の容器が握られている。

 ハヅキはその容器を、リザの前に突きつけてみせる。

 炎が空気を熱し、立ちくらみが起きた時のように光を歪ませているが、その容器には、確かにこう書かれているのが、俺にも見えた。


 ――Kevin W Truman


「それを返せ!」


 リザは炎の中で、ハヅキに向かって叫ぶ。

 これまでの言動から、ハヅキが素直にリザの言うことを聞くようには思えない。

 しかしだ。

 予想に反して、ハヅキは素直にリザに従った。

 ハヅキが、リザに向かってケヴィンの《人間株》の入った容器を投げ渡したのだ。

 当然、リザはそれを受け取ろうとする。

 持っていた超振動ブレードを床に落とし、両手を広げ、それを受け取ろうとする。

 天から舞い降りてきた天使を、これから抱きしめようとするように。

 そして、その願いは叶った。

 ケヴィンの《人間株》の入った容器は、リザの胸の中で、しっかりと抱きしめられたのだ。


 でも、幸せは一瞬にして幕を下ろした。


 リザの体に異変が起こった。

 異変は、見るからに明らかだ。


 だってリザの体に、大きな穴が開いたからだ。

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