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妹が人類を滅ぼしかけていて、ヤバい。  作者: 束冴噺 -つかさしん-
第4章 やっぱり、人類は滅亡するしかないのですか?
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ミッション・コンプリート

 ミッション・コンプリート――


 そう……なるのだろうか?

 とにかく、アメリカ軍の生き残りたちの目標は達成された。

 つまり、遊間(アスマ) 葉月(ハヅキ)を確保するという目標が達成されたのだ。


 《Q-TeK》の社長室でハヅキを確保した後、俺たちはランデブーポイントとなっていた《Q-TeK》の中庭でレイベンによって回収され、ノアに戻った。

 ノアへ帰還中、ハヅキは特に抵抗しなかった。

 でも、それはイタズラがバレて拗ねてしまった子供の様子とは違う。

 むしろ大人たちをバカにしている。

 隙さえあれば、またイタズラしてやる、そんな表情。

 それはノアに帰還した後も変わらなかった。

 だから、


「修学旅行に来たつもりか?」


 そんなセリフを、リザがハヅキに吐き捨てた。

 リザは生きていた。

 《Q-TeK》のエントランスでトラップにかかったときも生きていた。

 しかし、エントランスの時とは違い、社長室での〈ガルディア〉の襲撃では、それなりのダメージを負った。

 実際、一人は死んだ。

 リザは運が良かった。

 左肩を貫通し、もう二度と左腕と左手を動かせないかもしれないほどの重傷だが、幸いにも命に別状はなかった。

 今のリザは治療を受けた後で、左肩から左手の指先まで、固定具と包帯でグルグル巻きにされている状態だ。

 安静に寝てた方がいいんじゃないのか?と言っても、リザは言うことを聞かない。

 鎮痛剤を投与しているとは言え、完全に痛みを抑えることができていないはずなのに、汗ひとつかかずに佇んでいる。

 そういう女なんだ。リザは。


「修学旅行にしては、生徒への扱いが乱暴なんじゃないの?」


 一方、ハヅキは両手と両足を金属の拘束具で拘束され、身動きが取れない状態でパイプ椅子に座らされている。

 そんな状態のままで、ハヅキはリザに言った。


「こんなんだったら、私、不良になっちゃうよ。センセー」


 さすがに頭にきた。

 だからリザは、右手に持っていた超振動ブレードをハヅキに向かって振る。

 何でも斬り裂ける超振動ブレードを使えば、ハヅキの首なんて簡単に斬り落とせる。

 それも一瞬で。

 でも俺は思わず、その瞬間だけ目を瞑ってしまった。

 怖かった。

 例えハヅキが人間ではない“偽物(アンドロイド)”であっても、死を目の当たりにするのは気持ちのいいものではない。

 さっきの戦闘で兵士が犠牲になってしまったときもそうだったし、”あのとき”の病院でも、そうだった。。

 かと言って、いつまでも目を瞑っているわけにはいかない。

 いつまでも現実から目を背けているわけにはいかない。

 俺は仕方なく目を開く。

 だが、そこには斬り落とされたハヅキの首は、無かった。

 ハヅキの首はまだ繋がったままの状態で、彼女の鼻先にリザの超振動ブレードの刃先が止まっている。

 だというのに、ハヅキに怯えている様子は全くない。

 むしろ鼻先に蝶々が止まっているかのように、おどけた表情を見せている。


「随分と余裕だな」リザが言う。「死ぬのが、そんなに楽しみか?」

「さあね」

「お前はもう終わる。今からお前の頭蓋をかち割って、その中にあるニューロンチップを解析して、軍事システムを掌握しているハッキングコードを割り出す。そうすれば、この状況は終わる」

「どうかな? っていうか、そう簡単に私を殺せると思ってるの?」


 それからだ。

 突然、ハヅキの右側の瞳が、赤く光り出した。

 そして――


『――あなたたちには私を殺せない。だって私は、どこにでも行けるからね』


 声がした。

 それはハヅキの声だ。

 しかし、音源は一つではない。


 二つだ。


 一つは、当然ハヅキの口から。

 そしてもう一つは、なんと俺の後ろからだった。

 俺の後ろには壁に埋め込まれたモニターがあり、俺が気付かないうちにそれが点灯していた。

 しかもそのモニターにはハヅキの顔がアップで表示されていて、その中のハヅキが、椅子に拘束されているハヅキとシンクロして同じセリフを喋ったのだ。


『私からすれば、この世界は小さな箱庭ゲームに過ぎない。しかも適度にグロテスクシーンが規制(マスキング)された“CERO C”のゲームのようなもの。そして余剰次元に格納された私の(ソースコード)は、この箱庭をどこにでも行けて、時間をいつでも遡ることさえできる。今の体は単なる器に過ぎないし、要らなくなったり、壊れたりすれば、乗り換えることもできる。私の魂はこの体の中には無いから、そもそも、あなたたちは私を殺すことも、ハッキングコードを私のニューロンチップから取り出すこともできないんだよ。残念でしたー』

「デタラメを言うな」

『デタラメなんかじゃないよ。お姉ちゃん。全て本当。だからあなたたちの行動なんて監視するのは簡単なわけで、今から何をしようとしているのかも全部知ってるよ。そしてリザさん、あなたの夢もね』


 鋼鉄の仮面を被ったようなリザの表情に、一瞬だけ狼狽が霞んだ。

 リザはハヅキの前で、名前を名乗っていない。

 なのにハヅキは、リザの名前を知っていた。


『《人間株》。あなたたちは私を殺した後、それを使ってアメリカ人の――それも白人だけを復活させ、その復活した白人たちを地球にばら撒こうとしている。そしてアメリカが完璧に地球を統治した世界を作り上げようとしている。まさにあなたたちが目指してきた理想郷。付き合いが面倒だった共産主義国家もいなければ、面倒なイスラム教徒の過激派組織もいない。貿易摩擦で多国間で揉めることもない。なんて素敵な世界なのでしょう!

 そしてリザさん。そんな理想郷を作り上げるカギとなる《人間株》の中には、愛おしい恋人ケヴィンさんの《株》もある。あなたは人工胎盤でもなく、豚の子宮でもなく、犬の子宮でもなく、自分の子宮でケヴィンさんを産む。そのために今戦っている。

 そんな大切な大切な《人間株》が保管されているDNAストレージ・サーバは、ノアのエンジンの近くで大事に保管されている。

 ねえ、リザさん。

 ここまで知っている私は、次に何をすると思う?』


 リザの顔が、既に蒼白しているのがわかる。

 鋼鉄の仮面は、全て剥がれ落ちている。

 ハヅキの鼻先に突きつけている超振動ブレードも、カタカタと震えている。

 そんなリザをニヤリと見つめながら、ハヅキはこう言った。


『ドカーン』


 それと同時だった。

 機内に凄まじい爆発音が起こり、ノアの機体は大きく揺れた。

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