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妹が人類を滅ぼしかけていて、ヤバい。  作者: 束冴噺 -つかさしん-
第4章 やっぱり、人類は滅亡するしかないのですか?
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再会

 俺たちは細心の注意を払いながら、これまで以上にゆっくりとした足取りで、社長室の中へと足を踏み入れる。


 しかしそこで見たのは、くの字型のデスクの奥にある、椅子の背もたれだった。


 兵士の一人がフラッシュライトをつける。

 そしてそのライトが照らし出したのが、それだったのだ。

 椅子は革張りで、背もたれが1メートルはあろう立派な社長椅子だ。

 だが椅子は後ろを向いている。

 だから、こちらからは誰が座っているのかがわからない。

 俺はその椅子に向かおうとするも、リザが無言で止める。

 それからリザは、俺の後ろにいた兵士の一人にハンドサインを送り、椅子を調べるよう指示する。

 その兵士はライフルを前に構えつつ、銃口を微動だにせず固定したまま、ゆっくりと足を進め始める。

 やがて兵士は後ろ向きになっている椅子にまでたどり着く。

 それから背もたれにそっと手をかけ、その椅子を慎重に、ゆっくりと180度回転させる。

 椅子は無音で回転する。

 そして座っていた者の正体が明らかになった。

 それを見た瞬間――


「……シィット!」


 リザが溜息交じりに、そう言った。クソだと。

 まあ、リザがそう言うのも無理はない。


 だって椅子に座っていたのは、死体だったからだ。


 それもかなり腐敗した死体。

 白骨化が始まり、髪はほとんど抜け落ちている。

 かろうじて男だったということはわかる。

 そして額には、小さな穴が一つだけ開いている。

 まさに額を銃で一撃ち。

 そんな感じ。

 じゃあ、誰の死体だろう?

 よほどこじれた事情がない限りは、社長以外に社長室(ここ)が死に場所にならないだろう。

 でも、一体誰がこんなことを?


「ノックもしないで勝手に人の部屋に入るなんて。失礼な人たちだよね」


 声がした。

 俺たちの後ろからだ。

 だから俺たちは、一斉に振り返る。

 そして俺たちは目にする。


 ――ドアの傍で、一人佇む少女の姿を。


 それが誰なのか、俺たちは知っている。

 でも少女の名前を口に出す前に――


 ――突然、左右の壁が破られた。


 壁がまるで障子でできていたかのように、いとも簡単に破られる。

 そして破られた壁から出現したのは、なんと――


 ――2体の〈ガルディア〉。


 左右の壁から1体ずつ。

 計2体の〈ガルディア〉が出現する。

 しかもその〈ガルディア〉たちは、何の容赦もなく、俺たちを攻撃し始める。


 なぜそんなことができる?

 盾である俺が、目の前にいると言うのに。


 答えを探す暇はない。

 咄嗟の判断で、俺は床に伏せる。

 それからは、何が起きているのかがわからない。

 だって俺は床に伏せたと同時に、頭を両腕で覆いながら目を瞑ったからだ。

 それでも無数の銃弾が俺の頭上を飛び交っていることは、空気が切り裂かれる音でわかる。

 その空気と一緒に、いつ俺の肉が、骨が砕かれてしまうのか、恐怖しかない。

 だから俺はこう叫ぶしかない。


「止めてくれ!」


 それは本心からの願いだ。

 だって俺は、こんなところで死にたくはない。

 だから、


「頼むから、止めてくれ!」


 俺は叫び続ける。

 たとえそれが、意味のないことだとしても。

 しかし、どうだ?

 どういうわけかは知らない。

 でも実際、銃声が止んだ。


 突然訪れた静寂。


 俺は目を開け、頭を覆っていた両腕を解き、ゆっくりと顔を上げる。

 すると、そこには倒れた兵士が見えた。

 二人だ。

 強化外骨格を身に纏っているにもかかわらず、二人の兵士が、床に倒れている。

 その中に、リザがいる。

 でも、それ以外に兵士はまだ二人いる。

 そのうちの一人だ。

 勇敢なその兵士は、脇腹を被弾しながらも、少女の背後に回り込み、ハンドガンを少女のコメカミに突きつけている。

 それがここにいる〈ガルディア〉たちを牽制させているのだろうか?

 でも、少女は参ったという表情を一切見せていない。

 むしろ笑っていた。

 そこには、ダメだったら、またやり直せばいいか、なんて余裕も見え隠れしている。

 ゲームに負けても、またやり直せばいい、そう言いたげな表情。

 その表情を、俺は知っている。

 それは“あのとき”、病院で見たものと、全く同じ表情。

 やがて少女は床に伏せている俺をじっと見つめ始める。

 俺は少女の瞳から目を逸らしたかった。

 だが、できなかった。

 まるで体が金縛りにあってしまったかのように、全身の筋肉が硬直し、眼球さえも動かすことができない。

 そして少女の視線が、俺の心の奥を覆っていたベールを少しずつ剥がしていくような感覚に見舞われる。

 その感覚が収まらないうちに、少女は俺に向かって、こう言った。


「久しぶりだね。お兄ちゃん」

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