墜落
――ミサイルが、レイベンに直撃したんだ。
機体がバランスを崩し、大きく傾く。
リザが何かを叫んでいる。
しかし日本語じゃない。英語だ。
だから何を叫んでいるのかはわからない。
一人の兵士がシートベルトを外した。
そして嵐のようにGが荒れ狂う中、誰もいない操縦席へと向かう。
AIの無人運転から、手動運転でこの場を乗り切ろうってところだろう。
だが、そんな彼に対してリザは「ストップ!」と叫ぶ。
「ストップ! ストップ、ジャック!」
リザは何度も叫ぶ。
しかしジャックと呼ばれた兵士は言うことを聞かない。
操縦席のフロントガラスからは、地上と共に《Q-TeK》の社屋が急速に接近している光景が覗ける。
このままでは、レイベンは《Q-TeK》の社屋に突っ込んでしまう。
それはいわば、墜落だ。
ブラックホーク・ダウン。
そうなれば、俺たちは死ぬのか?
だとしたら、どうやって止める?
止める術なんて、あるのか?
あったとしても、考える時間も、実行する時間も、ない。
俺は目を瞑る。
覚悟を決める。
そして――
体を粉々にしてしまいそうなほどの激震。
それに、
金属が拉げる音、
コンクリートが砕ける音、
窓ガラスが突き破られる音、
そして悲鳴、
それら一切が一つの大きな塊となって、鼓膜だけでなく、全身にぶつかってくる。
あまりにもおぞましい悪魔の雄叫びのように。
それに俺の肉体と精神は耐えきれず、いつの間にか俺は気を失ってしまった。
それから、どれくらい気を失っていただろうか?
次に目を開けた時には、俺はめでたく地獄に招待された後だと感じた。
でも五感から染み込んでくる現実感に、まだ俺は生きているのだとかろうじて理解する。
目まいに加えて、鈍い痛みがランダムに全身のいたる所で駆ける。
俺の前に座っていた2人の兵士と、隣に座っていた1人の兵士は、シートにぐったりと体を沈めている。
でも、僅かながらに体が動いていることから、まだ生きているようだ。
しかし、操縦席に向かったジャックと呼ばれていた兵士は、
「……ジ、ジーザス……」
俺じゃない誰かがそう言った。
それもそのはずだ。
だってジャックは、フロントガラスを突き破った金属の太い杭によって、心臓を貫かれてしまっているからだ。
きっと即死だろう。
一方で、リザはどうだろうか?
リザは俺の隣に座っている。
でも体がピクリとも動かない。
まさか、死んでるんじゃないだろうな?
気絶しているだけだといいが。
俺はシートベルトを外し、リザの前に立つ。
そしてリザの首の後ろにあるスイッチを押す。
ヘルメットは縦半分に割れ、そこからリザの顔が現れる。
しかしそこにあったリザの顔は、目を閉じて、肌は青白かった。
一瞬、まさかと思い俺の背筋に冷たいものが走る。
だがかろうじて、彼女が息をしていることがわかった。
「おい! リザ! 目を覚ませ!」
俺はリザの頬を叩きながら叫ぶ。
「パーティーはもう始まってるぞ! せっかくのパーティーを、寝て過ごす気が?」
でも、リザに反応はない。
いくら叫んでも、リザの瞼は固く閉じられたままだ。
ったく、こんなんでよく軍人が勤まるもんだ。
これだったら、猫でも入隊できるんじゃねーのか?
まあいい。
しばらくすれば、目を覚ますだろう。
そして俺はもう一度、シートに体を預けようとした、そのときだった。
突然鳴り響いた、爆発音。
場所はレイベンの後方部にある、エンジンから。
それだけだったら、まだいい。
嫌なことは、続けて起こるものだ。
エンジンが爆発したせいで、きっと燃料にも引火した。
だから炎は一気に成長し、その炎は、俺たちのいる場所にまで侵入してくる。
「逃げろ!」
俺は叫んだ。
その他の兵士たちも、英語で同じ意味ことを叫んだ。「ラン!」と。
俺はリザのシートベルトを外し、リザを持ち上げようとする。
しかし強化外骨格を身に纏ったリザの重量は優に100キロを超えているだろう。
貧弱な俺の筋肉だけでは、リザを持ち上げることができない。
しかも最悪なことが起きる。
さっきも言ったが、嫌なことは、続けて起こるものだ。
一人の兵士が外に出るためのハッチを開こうとした。
でもそのハッチは、壊れてしまったのか、全く開かないのだ。
開閉レバーを操作しても、何の反応も示さない。
つまり俺たちは、逃げることができない。
炎が、すぐそこまで迫っているというのに。
俺たちは、レイベンに閉じ込められてしまった。




