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妹が人類を滅ぼしかけていて、ヤバい。  作者: 束冴噺 -つかさしん-
第4章 やっぱり、人類は滅亡するしかないのですか?
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ブリーフィング

「ハヅキを確保しろ」


 オールバックの男は、確かにそう言った。

 確かに、それは俺の望みでもある。

 あいつには、言いたいことがいっぱいある。

 だが“病院”での出来事以来、俺はあいつに会っていない。

 会えていない、と言った方が正しい。

 あの日以来、あいつの〈ラジオ〉は鳴っていないし、今、あいつがどこで何をしているのかなんて、わからない。全く。


「どうやって探す?」


 俺はオールバックの男に聞く。

 すると彼を含めた、ここにいる男たちは全員、片方の耳だけにイヤホンを入れた。

 きっと彼らも翻訳アプリを通じて、俺と会話するつもりなのだろう。


「手はある」


 オールバックの男は言った。


「我々はもう何世代前の電子回線のシステムを再構築し、この“ノア”を作り上げた」

「ノアってのは、この乗り物か?」

「そうだ。そして破棄寸前だった古い人工衛星をハックし、監視衛星として利用していた。量子ネットワークではなく、旧回線、つまり電子ネットワークで起動する人工衛星」


 そこまで聞いて、俺は何となく想像がついた。

 つまり、


「その人工衛星で、ハヅキの形跡を発見した」


 俺の言葉に対し、オールバックの男は無言で頷いた。

 その通りという具合に。

 それから女のアメリカ人に指示し、ホログラムディスプレイに一枚の衛星写真を投影させた。

 ただし、


「確かな確証はない」


 オールバックの男はそう言った。「だが、可能性はある。人工衛星が捕えたこの画像は解像度が低く、高度な分析に耐えられるデータではないが、推測を裏付ける状況がある」

「……というと?」

「ここだ」

 オールバックの男が、ホログラム上の写真を指さす。

 そこにはまるで宇宙人が残していったミステリーサークルを彷彿とさせる、複雑な曲線を描いた庭。

 その中には大きな池もあって、大きな〇の形をした巨大な社屋もある。

 そんな巨大な社屋から少し離れた場所に、黒いホクロのような粒が見えた。

「ここはインドにある《Q-TeK》本社。そこに一機のティルトローターが着陸した。数ヶ月前のことだ」


 《Q-TeK》……その言葉を聞いて、俺の胸がざわつく。


 その企業名を知らない人間は、ほとんどいないだろう。

 なぜなら、《Q-TeK》はハヅキの名ビジネスパートナーで、あの量子Wi-Fiをとんでもない投資で実用化し、さらには大人気VRMMOFPSゲーム『THE WAR LEFT -残された戦争-』の開発費までハヅキに提供した、いわばハヅキの最強の出資者だ。

 きっと、親よりも信頼していただろう。

 だから自ら人類を滅亡させる状況を作っておきながら、《Q-TeK》だけは守ろうとしているのかもしれない。

 もしくは、この状況を作り出しているのは、もしかしたら《Q-TeK》の仕業だってこともありうる。

 そしてハヅキは、《Q-TeK》に利用されているだけなのかもしれない。

 ……わからない。

 いずれにせよ、今から《Q-TeK》に向かう以外の選択肢は無いわけだ。

 少なくとも、こいつらには。


「オーケー。わかった。お前らが《Q-TeK》に行くのは勝手だ。でも、何で俺が必要なんだ?」

「《Q-TeK》の社屋には、相当数の〈レオ〉と〈ガルディア〉が配置されている可能性がある。衛星の解像度が悪くて正確な数字は出せないが、恐らく、数百単位だ」


 オールバックの男は、女に指示を出し、衛星写真をズームアップさせた。

 ○の形をした社屋の中心部、中庭の部分が拡大される。

 そこに映ったのは、黒い影だった。

 いや、影と言うよりは、黒い粒子の集まりだ。

 まるでドーナッツの中心に群がっている大群の蟻のように、黒い粒子がギッシリと《Q-TeK》社屋の中庭を埋め尽くしている。

 それを見て、俺は口笛を吹いてみる。

 映画とかでアメリカ人がよくやる、あれを真似したつもりだった。

 しかし俺のパフォーマンスは完全にスルーされる。

 乾いた口笛が、虚しくこの場に響いた後、消えた。

 だからと言って、俺は動じない。むしろ、


「お前らの考えは、わかった」


 俺ははっきりと言ってやった。


「すごく単純な考えだ。つまりお前らが《Q-TeK》に行きたいがために、俺はお前らの盾になる。そのためにお前らは俺を拉致った。どうだ? 俺の脳ミソは“優秀”だろ?」

「そうだ」


 アメリカ人は言った。

 しかしそれはオールバックの男ではなく、女の方だった。


「人類を救うために、お前は我々アメリカの盾になるんだ」


 それを聞いて、俺は鼻で笑う。

 人類を救う……これでホントに、人類を救えるのか?

 確証はない、全ては推測でしかないのに。


「もし、俺が嫌だと言ったら?」

「断る権利が、お前にあると思うか?」


 突然、女は俺に銃を向けた。


「確かに、〈レオ〉や〈ガルディア〉はお前を殺せない。だが、我々はお前を殺せるんだぞ。それも、簡単にな」


 ああ、わかってるよ。

 どうせ俺に、選択肢はないんだ。

 あったとしても、どうせ俺は放射能に蝕われてしまったこの体で、あと数年しか生きられない。

 もう俺に、幸せを手にすることなんて、できやしないんだ。

 だったら、ほんの少しでも可能性があるなら、こいつらに利用されたっていい。

 だから俺は、こう言ってやった。


「なんて平和な国なんだ。アメリカは」


 するとオールバックの男は、


「ブリーフィングは終わりだ!」


 と言って手を大きくパンパンと叩いた。

 声も部屋中に響き渡るほど大きい。

 そんな声で、彼はもう一言だけ付け加えた。


「さあ、出撃の準備を始めろ!」

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