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妹が人類を滅ぼしかけていて、ヤバい。  作者: 束冴噺 -つかさしん-
第4章 やっぱり、人類は滅亡するしかないのですか?
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宇宙人の目的

「……は?」


 宇宙人は確かに日本語を喋っている。

 でも、言っている意味がわからない。

 アメリカの、盾になれ……俺が? どうやって? つーか、何で?

 しかし宇宙人は俺の返事や質問の機会すら与えることなく、


「立て!」


 と言って俺をこの白い部屋から連れ出そうとする。


「ちょっと待てよ!」


 俺は抵抗する。が、宇宙人は俺の腕を強く掴み、離さない。

 離そうとしても、離れない。

 まるで手錠並みの固さだ。

 きっとこの宇宙人は、服を脱いだらゴリラの格好をしているに違いない。

 それからどこに連れて行くのかも告げられないまま、俺たちは部屋を出る。

 パイプが剥き出しの狭い廊下を抜け、いくつかの階段を上り下りした末に、広い部屋にたどり着いた。

 しかし、そこは普通の部屋ではなかった。

 壁一面は小さなモニターで埋め尽くされていて、中央にはビリヤード台のような大きなテーブルがある。

 そのビリヤード台のようなテーブルの周りには、なんと、見覚えのある軍服を着た、男の姿をした宇宙人たちが、5人ほど立っている。

 しかも全員が白人。

 おまけに、みんな俺を睨んでやがる。


 なんだ? お前らは地球人のファンか?

 だから地球人(おれ)をさらい、地球人のコスプレまでしてんのか?

 能天気な連中だな。

 ここは宇宙人のコミケのコスプレ会場か?


 だがコミケのコスプレ会場のように愉快なムードは皆無で、例えるなら、不良少年が職員室に呼び出されて、指導教員に囲まれ、これから説教されるかのようなムード、と言えばいいか。


「何だよ? 今から体罰か?」


 俺は言った。

 しかしここにいる宇宙人たちに、俺の言葉を理解している様子はない。

 怪訝な表情のまま、黙って俺を睨んでいるだけだ。

 俺は苦笑いをして誤魔化そうとしていると、俺をここに連れてきた女型の宇宙人は、何かを喋った。

 でも、その言葉を俺は理解できなかった。

 理解できなかったけど、これだけはわかった。


 女型の宇宙人が喋ったのは、英語だった。


 すると、ここにいる男型の宇宙人たちもまた、女型の宇宙人に対して英語で返事をした。

 つーことはあれか? ここは宇宙人の英語サークルなのか?


「おい! だったらせめて、俺を日本語サークルに呼んでくれ」


 俺は言う。「そこだったらあんたら宇宙人に、ネイティブの日本語ってやつを教えてやるよ。ついでに“燃え”と“萌え”の違いについても教えてやってもいいぜ。丁寧にな」


 すると俺をここに連れてきた女型の宇宙人は、二つの眉毛を激しく歪めながら、


「なにか、勘違いしているようだな」


 と言った。

 それから溜息が漏れる。


「いいだろう」


 女型の宇宙人は言った。「お前のような“優秀”な奴には、1から全てを説明する必要があるからな」


 気に入らない言い方だ。

 しかし俺は言い返したいのを我慢し、言葉を飲み込んだ。

 ここでケンカを買っても、俺にメリットはない。

 お前らが思っているほど、俺は“優秀”じゃない。

 女型の宇宙人は、ビリヤード台のようなテーブルに取り付けられているタッチパネル式のキーボードを操作し始める。

 すると突然、テーブルの上に光が浮かび上がってきた。

 浮かび上がってきたのは、なんと地球上で一番有名なパソコンのOSの名前だった。

 しかし、バージョンはだいぶ古い。

 そしてそれが消えた後には、いろんな画像が浮かび上がってきた。


 燃えるホワイトハウス。

 上半身が折れてしまった自由の女神。

 死体が積み上がったセントラルハウス。

 HOLLY WOODの「OLL」と「WOO」が欠けた看板。

 街を埋め尽くしているサイネージが、全て暗く消灯してしまったタイムズスクエア。

 ……


 それらは全て、アメリカを象徴する光景……だったものの残骸だ。


「これが今のアメリカだ」


 女型の宇宙人は言った。「これが……今のアメリカなんだ……」


 もう一度、同じことを言った。

 その後、さらに言葉を続ける。


遊間(アスマ) 葉月(ハヅキ)という、天才を再現したたった一つの〈疑似人格AI〉が暴走してしまったが故に、世界が、アメリカまでもが、滅亡に瀕している。だが!」


 突然、女型の宇宙人はテーブルをドン!と叩いた。

 俺を睨みながら。

 そして、言った。


「このままでは終わらない! 我々は――アメリカは、遊間(アスマ) 葉月(ハヅキ)には屈しない!」


 ああ、そういうことか。

 俺はようやく理解した。

 つまりこいつらは宇宙人ではなく、アメリカ人なんだ。

 それも、やっとの思いで生き残った、アメリカ軍の兵士たち。

 ということは、ここはUFOじゃなくて、アメリカの飛行機なんだ。

 とてつもなくバカデカい、アメリカサイズの飛行機。

 デカいステーキとデカいハンバーガーばっか食ってたら、飛行機までデカくなったのか?

 知らねーが、


「で?」


 俺は問う。


「俺は、何をすればいいんだ?」


 すると男が英語で何かを言った。

 この中で一番ガタイが大きく、短い金髪をオールバックに整えている男。

 しかし俺には英語がわからない。

 そんな俺に、女型の宇宙人、改め、名前の知らないアメリカの女から、何かを渡された。

 それはビリヤード台のようなホログラムディスプレイの上を、それこそビリヤードの玉のように滑り、俺の手元に届いた。

 それは、俺のケータイだった。

 しかもケータイは、既に翻訳アプリが起動していた。

 翻訳アプリでは、他の言語を検知すると、自動で和訳され、スピーカーから音声が流れ出る。

 だから俺は、それを耳に当てながら、もう一度男を見つめた。

 男はさっきと同じ英語を喋った。

 それを、翻訳アプリは和訳し、俺にこう告げた。


「ハヅキを確保しろ」

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