〈新型ガルディア〉
〈ガルディア〉が、いきなり俺に向かって攻撃を開始したんだよ。
屋上にいる〈ガルディア〉は、俺に向かってライフルを構え、なんと発砲した。
なぜだ?
なぜ俺を攻撃するんだ?
というか、なぜ俺を攻撃できるんだ?
まさか、この“力”の効果が切れたって言うのか?
――銃弾がタイヤのすれすれのところで地面に突き刺さる。
ダメだ。
考えても無駄だ。
俺はバイクのハンドルを切り、降ってくる銃弾の雨を何とか躱す。
そして屋上に〈ガルディア〉がいるビルを通り過ぎる。
諦めたか?
俺は振り返る。
すると、予想だにしない光景が、目の前にあった。
――〈ガルディア〉が、空を飛んでいた。
まるでムササビだ。
またはバットマンだ。
〈ガルディア〉は両腕を大きく広げ、その両腕でウイングスーツのような羽を広げ、飛行しているのだ。
俺はバイクを加速させる。
そして逃げる。
全速力で。
空を飛ぶ〈ガルディア〉なんて、今まで見たことがない。
見た目も〈ガルディア〉よりもスリムなシルエットで、塗装はデジタルの迷彩柄ではなく、純白の塗装が施されている。
もしかしたら、〈あれ〉は〈新型〉なのかもしれない。
そして〈新型〉は、俺の“力”が通用しないのかもしれない。
だから〈あれ〉は、俺が相手でも平気で攻撃してくる。追跡してくる。
「畜生……!」
どうであろうと、今は逃げ切ることしか考えない。
俺はさらにスピードを上げる。
するとバックミラーに映る〈新型〉が、徐々に小さくなり始めた。
うまくいっている。
俺はうまく〈新型〉を引き離している。
この調子でいけば、振り切ることができる。
そう思った矢先だった――
――後方からエンジン音。
それも一つじゃない。
複数だ。
と同時に、バックミラーに〈影〉が出現する。
俺は思わず振り返る。
すると後方には、〈影〉が5つ。
そのどれもが白い〈新型〉で、〈そいつら〉は見たこともない四輪式の細長くて大きなバイクに乗っている。
俺の乗っているオフロードバイクより、〈新型〉が乗っているバイクのエンジンは、何倍も性能がいいに違いない。
その証拠に、俺がフルスロットで加速しているにもかかわらず、どんどんと俺を追い上げてくる。
俺との距離を、どんどん詰めてくる。
スピード勝負じゃ勝てない。
瞬時にそう判断した俺は、脇道に反れる。
そして分かれ道があれば、片っ端に曲がる。
それを何度も繰り返す。
そうすることで、〈新型〉どもを捲く作戦だ。
まあ、思いつきでやっているから、作戦と言えないかもな。
しかしその作戦と言えない作戦も、あながち侮れない。
俺を追っていた〈新型〉は5体から4体、3体へと、徐々に数を減らしていく。
「俺を舐めんな」
やがてバックミラーに見えていた〈新型〉の姿が、見えなくなった。
つまり俺は逃げ切ることに成功した。
それがわかったとき、突然緊張が途切れてしまったせいで、テンションが弾けた。
壊れた玩具のように、乾いた笑いが思わず漏れる。
「ケケケッ! また鬼ごっこがしたかったら、いつでも相手にしてやるぜ!」
しかしだ。
この余裕も、一瞬で霧散する。
次の角を曲がろうとした、そのときだった。
いきなり、その角から〈新型〉が乗った四輪バイクが飛び出してきた。
俺は浮かれていたのと、調子に乗ってスピードを出し過ぎてしまっていたのとで、止まることができない。
だから――
――――――っ!
世界から上下の区別が吹っ飛んだ。
俺は〈新型〉の乗ったバイクによって、横から突き飛ばされてしまったのだ。
全身を強く打ったと思う。
しかし、痛みは感じない。
痛みを感じられるほど、俺は肉体に意識を留めておくことができない。
目の前はぼやけ始め、視界には倒れた俺のバイクのタイヤがクルクルと回っている光景。
そして灰色の空を飛ぶ〈新型〉。
それだけがある。
どうやら、空を飛んでいた〈新型〉が、俺を上空から監視していたのだろう。
そして索敵ドローンみたいに、俺の位置を常に〈こいつら〉は共有し、俺を追い込んだんだ。
だが、そんなことを今さら知ったところで、何になる?
やがてどこから姿を現した5体の〈新型〉が、俺に歩み寄ってくる。
それをぼんやりと眺めながら、俺は溜息をつき、こう言ってやった。
「殺すなら、早く殺せよ」
しかし〈新型〉は俺を取り囲むだけで、止めを刺す様子はない。
確かにライフルを俺に向けて構え、俺が抵抗しないよう制してはいるが、発砲する様子がない。
こいつらは、一体何がしたいんだ?
まさか、集団で俺を犯すつもりか?
なんて思ったりもしたが、どうやら違うようだ。
そんなつまらない目的をもって、〈こいつら〉は“地球に来た”わけじゃない。
なぜなら、俺には見えるからだよ。
これが夢でも、幻でもなければ、空の彼方に、黒い巨大な影が……
……つまりUFOが、
見えるからだよ。
なんだ?
かつて地球を支配していた人間が、滅亡の危機に瀕しているときを狙って、地球を侵略しに来たか?
このクソ宇宙人どもが。
そして俺は、生き残った地球人としてサンプリングされ、標本にでもされるのか?
もしそうなるんだったら、ルーブル美術館並みの豪華な場所で展示してくれ。
じゃねーと――
――――――っ!
肉が強く叩かれる音が聞こえた。
肉の音は、俺の腹から鳴った。
〈新型ガルディア〉だと思っていた宇宙人の一人が、俺の腹を一発、思いっきり蹴ったんだ。
そのせいで、俺の意識は、闇に沈んだ……。




