謝るな。全ては俺の意思だ。
兄:ヨリ(主人公)
妹:ハヅキ
親友:タケシ
親友の妹:チエちゃん
「さあ、タケシ。俺を殺せ」
しかし、タケシはトリガーを引こうとしない。
引くことを躊躇っている。
だから俺はそれを助けるように、自分の親指をトリガーに添える。
あとは親指でトリガーを押せばいい。
「ヨリ……」
タケシから、また涙が毀れる。
さっきと同じように、またそれが俺の頬に落ちる。
「すまない……ヨリ……」
謝るな、タケシ。
お前は何も、悪いことなんかしていない。
これは全て俺の意思だし、お前と、チエちゃんを救うためなんだ。
だからタケシ、謝るな。
俺は、ゆっくりとトリガーにかかった親指を押す。
「止めてー!」
チエちゃんが叫ぶ。
心配するな、チエちゃん。
これでいいんだよ。
君はこれで救われる。
これからは無敵になった頼もしいお兄ちゃんに守られながら、立派に生きていくんだ。
俺の妹が人類を滅ぼしかけている碌な世界じゃないから、碌な未来が待っていないかもしれないけど、大丈夫だ。
二人なら、きっとうまくやれる。
だから、
これで、
いいんだよ。
じゃあな……
――銃声。
……待て!
ちょっと待てよ!
俺はまだ親指でトリガーを押していない。
タケシだって、トリガーを引いていない。
なのに、なのに……なんで銃声が鳴るんだ。
何でこんなことになるんだ?
どういうわけか、
俺の目の前で、
タケシの頭蓋が――
――撃ち抜かれた。
銃弾はタケシの側頭部を貫通。
だから銃弾が突き抜けたタケシの側頭部から、大量の血が溢れ出る。
そして一瞬で力が抜けたタケシの上半身が、俺に覆いかぶさる。
その光景を、チエちゃんは見ている。
目が、今にも飛び出してしまいそうなほど、大きく開いている。
そんなチエちゃんの背後に、人影が――
「逃げろ!」
俺はチエちゃんに叫ぶ。
それと同時に、チエちゃんも後ろの存在に気付く。
それからチエちゃんは逃げる。
でも――
――銃声。
それにチエちゃんの悲鳴が重なる。
人影は何の容赦もなく、チエちゃんに発砲する。
俺は台所の陰に倒れている状態だから、チエちゃんの様子を伺うことができない。
しかし悲鳴と共に床に倒れる音がしたから、きっとチエちゃんは被弾している。
クソ! 何でだよ!
何でこんなことに!
「止めろ!」
俺は人影に向かって叫ぶ。
すると人影は俺を見下ろす。
そして俺の方に歩み寄ってくる。
俺はタケシの手から毀れた銃を拾い、その銃口を人影に向ける。
人影も俺に銃を向ける。
だが――
「止めなさい、ヨリ!」
人影は、そう叫んだ。
しかも信じられないことに、その声には聞き覚えがあった。
でも、聞き間違いかもしれない。
「銃をおろしなさい! ヨリ!」
また人影が叫ぶ。
それを聞いて、俺の疑惑は、確信に変わった。
間違いない。
俺はこの人影の正体をよく知っているし、この人影もまた、俺のことをよく知っている。
それもそのはずだ。
何だってこの人影の正体は――
「……お、オカン」
そうだ。
なんだって人影の正体は、俺の産みの親なんだから。




