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親友とは何か?

兄:ヨリ(主人公)

妹:ハヅキ

親友:タケシ

親友の妹:チエちゃん

 落ち着け!


 俺は自分に言い聞かせる。

 落ち着くんだ!

 もしかしたら、俺の聞き間違いかもしれない。

 俺の勘違いかもしれない。

 でも――


「また、会える?」


 俺の脳裏に、チエちゃんに最後に会ったときの記憶が蘇る。

 俺は遊び相手でしかなかった銃を手に取る。

 まだ助けると決めたわけじゃない。

 様子を見に行くだけだ。


 ホントにそれだけ?


 悲鳴を上げたのがチエちゃんじゃなかったとしても、相手は少女だ。

 それを、俺は見殺しにできるのか?

 俺は視線を下ろし、手の中の銃を見つめる。

 そしてこいつに、こう語りかける。


「お前も、俺の遊び相手は、もう飽きただろ?」


 俺は銃をスライドさせ、灰家の玄関に向かう。

 それからドアを開ける。

 ドアを開ければ、道の真ん中で尻餅をついた少女が――


「いやああ!」


 少女は泣きながら叫ぶ。

 少女の前には、2体の〈レオ〉と1体の〈ガルディア〉。

 〈そいつら〉が少女の命を狙っている。

 俺は早歩きで少女と〈そいつら〉の間に立つ。

 すると俺の“(チート)”が発動し、〈レオ〉と〈ガルディア〉は静止。

 弱点が赤い光となって闇の中に浮かび上がる。

 俺はそれらを銃で破壊する。


 戦闘とも言えない戦闘が、わずか数十秒で終わった。


 そして俺は少女の方に歩み寄る。

 少女は、やっぱりチエちゃんだった。

 チエちゃんは涙を流しながらも、俺の顔を見て驚いている様子だった。

 そんなチエちゃんは涙で震えた声で、


「ありがとう……ヨリお兄ちゃん……」


 とだけ言った。

 俺はチエちゃんの頭にポンと手を乗せる。

 もう大丈夫だ。

 チエちゃんを襲うものは、もういない。

 しかし、俺は違和感を覚える。


 どうしてチエちゃんは、一人なんだろうか?


 人類が滅亡しかけている状況だ。

 幼いチエちゃんが一人でいるなんて危険すぎる。

 普通に考えれば、常にタケシが傍にいるはずだ。

 なのにいないと言うことは、もしかして――


「タケシは……お兄ちゃんは、どうした?」


 考えたくない予感を抱きつつ、俺はチエちゃんに聞いた。

 すると――


「ヨリ!」


 向こうで声がした。

 それと同時に、誰かがこちらに走り寄ってくる。

 声の主は知っている。

 だから俺が抱いていた嫌な予感は、杞憂に終わった。

 しかし、別の危機が俺に迫っていた。


「助かったよ、ヨリ。おかげでチエの命が救われた」


 闇の中からタケシが現れた。

 普通だったら、感謝の意を表すために、握手だったりハグだったりするもんだ。

 でも、そうじゃなかった。


 目の前に現れたタケシは、俺に銃を向けていた。


 それを見た瞬間、俺は悟る――


 ――ハメられた。これは、罠だったんだ。俺をおびき寄せるための。


「クソッタレ!」


 俺は走る。

 タケシから逃げるために。


「待て! ヨリ!」


 しかし後ろから、俺を呼ぶ声と、迫る足音が聞こえてくる。

 タケシは俺を追っている。

 俺を狩るために。

 とにかくだ。

 俺は目についた灰家の中に逃げ込む。

 玄関に飛び込み、そのまま1階のリビングダイニングに上り込む。

 そして身を低くして、カウンター式の台所の陰に身を潜める。

 そこからそっと、玄関の方を覗き込む。

 玄関に向かって銃を構える。

 玄関から来るタケシを待ち構える。

 でも、いつまで経ってもタケシは玄関に現れない。

 諦めた? まさか……

 その直後だ。

 隣の部屋から、窓ガラスが割れる音が聞こえた。

 俺は銃を玄関から隣の部屋の方に構え直す。

 しかし既にタケシは隣の部屋から俺のいるリビングダイニングに侵入。

 タケシは台所に身を潜める俺を発見。

 と同時に、俺が持っていた銃を蹴り飛ばしてしまう。

 俺は一歩さがる。

 台所の下の棚を開く。

 そこに包丁入れがある。

 その中から一本の包丁を手に取る。

 立ち上がって、それを前に突き出す。

 するとタケシは吊るされていたフライパンを手に取り、銃を構えながらフライパンを盾にする。

 俺はフェンシングのように包丁をタケシに向かって何度も突き出す。

 でも、本気で刺すつもりはない。

 というか、刺す勇気がない。

 小学校で会ったガキの言った通り、俺の本能が殺人へのブレーキをかけている。

 だから包丁を何度も突き出しても、それがタケシに届くことはない。


 しかし、タケシはどうだろうか?


 タケシはと言うと、あいつもまた、手に持った銃のトリガーを引けないでいる。

 タケシにもまた、ブレーキがかかっている。

 そんなときだ。


「止めてよ! お兄ちゃん!」


 タケシの後ろで、チエちゃんが叫んだ。


 ――こんなところにいると危ない!


 と、一瞬だけ俺の集中力がタケシから逸れた。

 その一瞬の隙をタケシは狙った。

 盾にしていたフライパンを、俺に向かって思いっきり叩きつける。

 咄嗟の判断で、俺は頭だけは守ろうと思った。

 俺は両腕で頭を覆う。

 そこに固いフライパンが直撃する。


 痛さより、痺れが俺の腕に走った。


 そして殴られた衝撃でバランスを崩し、俺は倒れる。

 そこにタケシが馬乗りになる。

 持っていた包丁は、フライパンで殴られた衝撃で手からこぼれてしまっていた。

 だから馬乗りにされてしまっては、もはや何も抵抗できない。

 タケシは無力化した俺の額に、銃口を突きつける。

 ここまでか?


「なあ、タケシ?」


 俺は銃を突きつけるタケシに、言った。


「何だよ? ヨリ」


 チエちゃんはタケシの傍に駆け寄り、「止めてよ! お兄ちゃん!」と何度も叫んでいる。

 だがタケシはそんなチエちゃんを無視し続けている。


「この“力”を手にして、何がしたい?」

 俺は聞く。「また軍隊でも作るか? 形だけの」

「そうじゃない」

「じゃあ、何だよ?」


 するとタケシは、奥歯を一度強く噛みしめた後に、こう言った。


「妹を……チエを……守るためだ……」


 その言葉を聞いて、俺はこう思う。


 ――親友とは、何だろうか?


 俺とタケシは幼稚園のときからの付き合いで、進学する度に学力が引き離されていった。

 にも関わらず、タケシは俺と一緒にいてくれたし、成績の悪い俺をずっと気にかけてくれていた。

 そんな優しかった奴が、俺の妹がしでかしてしまった人類滅亡の危機という状況下で、心が追い込まれ、生き残るために、無敵の“力”を得ようと、俺を殺そうとしている。

 結局、親友って言っても、そんなもん。

 やっぱ自分が一番大切で、自分のために裏切ったりするもんなんだ。

 なんか、シラケるぜ。

 そんな脆くて儚い、まるで砂で作ったお城みたいな親友という幻を、俺が愛おしく、大切に思っていたのかと思うと、バカらしくなってくる。

 そして人間っていう存在に、酷く嫌気が刺す。

 と、最初はそう思ったのだが――


「……やっぱ、できねーよ……」


 タケシは、そう言った。

 そしてタケシの瞳から、涙が毀れた。

 それが、俺の頬に落ちる。

 タケシは涙を流しながら鼻をすすり、俺に押し付けている銃が震える。

 タケシは続ける。


「できねーよ……お前を殺すことなんて……でも、こうしないと、俺もチエも……生き残れないんだ……」


 そしてタケシは片手で銃を持ちながら、もう片方の手で、傍にいるチエちゃんの頭を撫でる。


「なあ、ヨリ……俺は……どうすればいい……」


 そんなの、俺に聞いてどうすんだ?

 俺の偏差値は40以下。

 お前は70以上。

 これだけ頭脳スペックに差があるのに、教科書に書かれていないことになったら、お前にはわからないのか?

 だったら、教えてやるよ。

 俺だったら、こうする。


「やれよ」


 俺はそう言って、タケシが握る銃に、そっと手を添える。


「タケシ。早く、その引き金を引くんだ」


 そうだ。

 これでいいんだ。

 どうせ俺には何もないんだ。

 チエちゃんのように、守るべきものもない。

 むしろ俺の妹のせいで、人類が滅ぼしかけている。

 その責任は、俺にだってある。

 生きている価値なんて、ないんだ。

 それに、人類から命を狙われ続けて生きるのも、もう疲れた。

 ぶっちゃけ、もう終わりにしたいって、心の隅で思ってただろ?

 だからこの機会に、タケシが俺の人生を終わらせたって、いいんじゃねーのか?


 俺は銃を持つタケシの手に添えていた手に、力を込める。

 銃を持つタケシの手を、俺は力強く握る。

 そしてタケシに、こう言った。


「さあ、タケシ。俺を殺せ」

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