トラックの中
兄:ヨリ(主人公)
妹:ハヅキ
親友の妹:チエちゃん
……――鼓膜を突き刺すような痛みで、目が覚めた。
「ぅ……」
息苦しさに耐えながらも、俺は体を動かそうとする。
しかし、思うようにいかない。
少しでも体を動かそうとすれば、まるで電流が体中に流れるように、全身に鈍い痛みが走る。
だが痛みがあるということは、まだ生きているということ。
そして生きているのは、チエちゃんも同じだ。
チエちゃんは俺の傍で高い声を上げながら泣いている。
俺たちは核爆弾の衝撃波に巻き込まれた。
そこまでは覚えている。
でもその後どうなったかは、わからない。
わかるのは、俺たちの乗っているトラックはひっくり返り、天と地が間逆になっているということだけ。
だからチエちゃんは、天井にペタンと座り、そこで大きな声で泣いているわけだ。
俺はというと、シートベルトに固定されているから、頭に血が溜まって今にも割れてしまいそうだ。
一方で、トラックの窓ガラスは既に全て割れてしまっている。
そこから黒い灰が車内に入り込んできているので、俺の体は真っ黒だ。
灰は鼻の穴と口の中にまで入ってきているから、息をしようとすれば咳が出る。
とにかく、いつまでも逆さまの状態でいるのは辛い。
俺はシートベルトを外す。
当たり前だが、シートベルトを外した瞬間、俺の体は重力に従って天井に落ちる。
しかも頭から。
だから俺は天井に頭を打ちつけてしまう。
「ったく、最悪だ」
そして俺は、自由になった体で外に出ようとした。
しかし――
「待て……行くな……」
今にも消えそうな弱々しい声が、俺の隣から聞こえた。
俺は声のする方を見る。
ああ、そうだったな。
俺はこいつが運転するトラックに乗っていたんだったな。
――俺に似た男の。
「大丈夫だ。置いて行ったりはしないさ」
だが改めて俺に似た男を見た俺は、あごが外れてしまうんじゃないかってくらい、口を開けて驚いた。
なぜなら、いまだシートに逆さまの状態で固定されている男の頭蓋は、半分が欠損し、そこから黄色い液体がポタポタと天井に毀れていて、それなのに、まだ生きているからだ。
いや、“生きている”という言い方は、間違っているかもしれない。
まだ起動している――そう言った方が正しいだろう。
だってこいつは、俺の妹と、同じだ。
つまり、ロボット……
「おい、冗談はよしてくれよ」
気味が悪い。
だから俺は泣き止まないチエちゃんを抱えて、慌ててトラックから出て行こうとする。が――
「待て……」
俺と同じ姿をしたロボットは、俺の腕を掴む。
「離せよ! 俺はお前のメンテナンススタッフじゃないんだ!」
「いいから……待て……」
「何でだよ! これ以上、俺に構うな!」
「静かに……しろ!」
「何でだよ? 俺を脅迫するつもりか?」
「そうじゃ……ない。いま外に出たら……死ぬぞ」
「何が死ぬだ! 何度も死にかけた! 今更なんだ!」
でもだ。
男の言っていることは正しかった。
――ドンッ!
いきなり俺の頭上で、重たい何かが飛び乗ってくる音が聞こえた。
それだけじゃない。
長い槍のような物が、頭上にあるシートから突き出てきた。
そしてそれが、俺の胸の中にいるチエちゃんに伸びる――




