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月が赤い夜に

 俺と妹は、絶体絶命の危機に瀕していた――


「どうしようか? お兄ちゃん」

 俺の背中で、妹の葉月(ハヅキ)がそう問いかける。

 俺と妹はお互いの背中と背中を貼り合わせながら、アサルトライフルを構えている。

 そしてアサルトライフルの銃口の先にあるのは、いくつもの黒い〈影〉――


 ――それは〈フーム〉と呼ばれる、人類を滅亡の危機に追い込んだ謎の生命体。


 大きさは人間と同じくらいで、人間と同じように、手も、足も、二本ずつある。

 だが人間と全く同じではない。

 〈奴ら〉の“形”は人間に似ていても、皮膚が漆黒の闇に染まってしまっているかのように黒い。

 しかも〈奴ら〉は〈奴ら〉なりに銃などの武器を手にしている。

 だから夜になると完全に闇に溶け込み、夜な夜な俺たちを狙ってくる。そうやって人類を滅亡に追い込んできたんだ。

 〈奴ら〉の正体を知っている者は、誰もいない。

 宇宙人かもしれないし、異世界からの侵略者かもしれない。

 とにかく〈奴ら〉の正体を確かめる余裕は、今までの人類にはなかった。

 だから〈奴ら〉は〈(WHOM):フーム〉と呼ばれているのだ。


 そんな〈フーム〉が、1体、2体……6体――全部で6体いる。

 6体の〈フーム〉たちが、俺と妹を取り囲んでいる。

 そして〈フーム〉たちは空に浮かぶ赤い月のように――いや、それ以上に、殺気を帯びた眼差しで、俺たちを睨みつけている。


 張りつめた空気が、今にも引き裂かれそうなほどの緊張感。


 次の瞬間には、〈奴ら〉が俺たちに襲い掛かってくるかもしれない。

 考えている時間は、もうない。


「なあハヅキ。お前ならこの危機を切り抜ける策くらい、もう考えついてんだろ?」

 俺はアサルトライフルのトリガーにかかる指に力をこめる。

 だがハヅキの答えは、こんなものだった。


「は? そんなもん、あるわけないじゃない!」


 言うまでもなく、俺の頭の中は真っ白だ。

「っていうか、お兄ちゃん! 本来、妹を守るのが、お兄ちゃんの役割でしょ? 妹に頼り過ぎないでよ!」

 妹の言う通だ。

 だが、ここで反省している暇なんてない。


 だって〈フーム〉たちは既に、俺たちとの距離を一気に詰め、襲い掛かってきている最中なんだから――

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