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擬態

兄:ヨリ(主人公)

妹:ハヅキ

〈フーム〉:人類を滅亡の危機に追い込んだ謎の生命体

 俺はゆっくりと、後ろを振り返る。

 するとそこには、俺と同じ格好をした、もう一人の人間がいた。

 そして案の定、そいつは俺の背中に、日本刀のような長い刀を突き刺している。

 俺の着ている強化外骨格は、そう簡単には貫けない。

 だが装甲車の機関銃に背中が被弾して、その綻びた装甲を狙われた。


「な……なぜだ?」


 そんな言葉が自分の口からこぼれている途中で、俺はある結論に行きつく。それは――


「お兄ちゃん! そいつは人間じゃない! 〈フーム〉よ!」


 俺と同じ結論に至った妹が、そう叫ぶ。

 それと同時に、妹はアサルトライフルの銃口を俺に向ける。


 ――何だ? こいつと一緒に、俺も道連れにするつもりか? ハヅキ!


「お兄ちゃん! 伏せて」


 ……だよな。


 俺は妹に従い、伏せる。

 しかし剣が体に刺さっているせいで、うまくいかない。

 少し前かがみになるのが精一杯だ。

 それでも、人間に擬態した〈フーム〉の頭部が、妹にさらされたはずだ。

 そこを妹が狙い撃つ……はずだったのだが――


 パンッ!


 俺の足元で、何かがはじけた。

 と思った時には既に、俺の視界は真っ白だ。

 激しい光量が一帯を満たす。

 その光が、瞳孔を突き刺して痛い。

 だから目を開けることができない。


 閃光弾だ。


 人間に擬態した〈フーム〉が、閃光弾を使った。

 そのせいで俺たちの視界は奪われる。

 当然、妹は発砲ができない。

 こんなんだから、次に来る状況なんて、言わなくてもわかるだろ?


 目を開けたときにはもう、〈フーム〉は姿を消していた。


 つまり逃げられたということ。

 まあ、それだけなら、まだいい。

 妹のウサ耳で索敵を行い、後を追えばいいだけの話だ。

 問題は、俺の体に突き刺さった、この剣だ。

 夥しい量の血が、傷口から流れ出る。

 まるでワインの樽に穴が開いてしまったかのように、止めどなく赤い液体が体から漏れ出す。

 そして体から出ていく血の量に比例して、俺の視界が暗くなる。


「しっかりして! お兄ちゃん」


 妹が俺に駆け寄り、体に突き刺さった剣を抜き取る。

 それからスプレー缶のようなものを取り出し、それを俺の傷口に吹き付ける。

 傷口に付着した液体はすぐに固まり、傷口を塞ぐ。

 どうやら、そのスプレー缶は止血材のようだ。


「立てる?」


 妹は俺の背中を優しく摩りながら言う。


「ああ……」


 俺は頷く。「何とか……な」

 立ち上がるも、膝に思うように力が入らず、ガクガクと震える。


「無理しないで。お兄ちゃん」


 よろける俺の体を妹が支えるが、


「大丈夫だ」


 俺は寄り添う妹をどけて、自力で立ち上がる。

「人類の存続をかけた戦いも、あともう少しで終わる……そうなんだろ? じゃあ、それまでは自力で戦うさ。俺の介護は、それから頼む」

 すると妹は短い溜息をついた後、

「言っとくけど、私の介護を甘く見ない方がいいよ、お兄ちゃん。容赦なく密着するから、覚悟しておいてね」

「ああ、わかったよ」


 そして俺たちは、〈フーム〉が逃げたであろう、トンネルの奥へと足を進めようとした。

 だがそのとき、突然、天井に稲妻が走った。

 いくつもの鋭い閃光が、素早い蛇のように、トンネルの天井を這う。


 その直後だった。

 天井が、崩落し始めた。

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