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八月の夢見村  作者: 狼々
12/31

都会

「そういえば、貴方は本当はどこの駅で降りるつもりだったんですか? 眠ってしまってこの村に来たんでしょう?」

「あぁ、終点で降りようと思っていたんだよ。どこの駅かも忘れた」

「えぇ……それって大丈夫なんですか?」

「いや、大丈夫じゃないだろうけど、元々目的地らしい場所もなかったからな」


 小説に使えそうな要素を見つけるプチ旅行。

 思わぬ形で、プチではなく普通の旅行となったものだ。


 終点で降りようという考え自体は事実。

 しかし、彼女に告げた駅の名前を忘れたということは、嘘。

 切符に書いてある駅名は、どれだけ確認しようとも夢見村前ではない。

 されど、買った切符で行ける先が、終点の駅であることは確か。


 そうなると、この夢見村前は終点の駅のさらに一つ先の駅。

 どういう、ことなのだろうか。見当もつかない。

 そもそも、開通している列車が夢見村に辿り着く頻度が、一日一回というのも怪しいところだ。

 本当にここまで列車が通るのならば、夢見村前だけが異常な頻度の少なさ。

 夢見村がいくら村だからといって、ここまで激しく運行ダイヤに差があるものなのだろうか。


「だったら、ここが終点なので丁度よかったんですね?」

「あ~、そういうことになるな」


 列車の中に響いた、車掌のアナウンス。

 あれは間違いなく、終点と告げていた。

 俺が買った切符での終点、実際に運行された列車の終点。

 食い違う現実と夢が交錯し、俺を狂わせる。


 カバンの中のそれか、それとも車掌と彼女の言葉か。

 真実として確定されてあるのは、どちらなのだろうか。

 俺には、いくら考えても答えが出さなかった。


 出せるはずがないのだ。絶対に。

 二つの真実が選択肢になって、どちらかが不正解。

 けれども、俺にとっては両方が経験した現実で、決して否定できるものではない。

 不正解がある時点で、俺の見たものは現実ではないと、真っ向から拒絶されることになる。

 そんなことが、あり得るのだろうか。


「ということは、私達が会えたのも何かの縁なのかもしれないですね。そうだと、私は嬉しいです」

「そうだな。本当に」


 会うべき運命を辿っているのか、本当は確信が持てなかった。

 自分とその周囲の成したことを全て運命だとするならば、この瞬間は運命だと言えるのだろうか。

 無軌道な弾道が、空回りした結果なのではないか。


 この結ばれた縁は、絡まっているのかもしれない。

 それとも、その線は不可視状態にあるのか。

 その判断さえも、俺にはできなかった。


「……なあ。君ってさ――」

「はい。え、っと……どうしました?」

「――いや、何でもない」


 言えるはずもない。

 この村が、俺にとって嘘なのかもしれないと。

 それはつまり、彼女の存在自体も嘘だということになる。

 告げてはならないことは、真実だろうと予測だろうと、可能性だろうとも同じだ。


 さらに言えば、俺の恋も嘘になる。

 自分自身で、それを否定したくはなかった。


「もう、そうやってするのが一番気になるんですよ? 何ですか?」

「本当に何でもないんだって」

「嘘ですよ! 何もなかったら、あんな言い出しはしません」


 妙なところで勘がいいのか悪いのか。

 強い口調で、やや不満げに言われた。

 ただ、そんな彼女さえも可愛く見えて仕方がない。


 思えば、まだ恋の行方は決まったわけではない。

 巻き返し、というのも変だが十分に可能だろう。

 諦めが付かないなら、それでいいんじゃないかとも思う。


 勿論、彼女に包み隠さず言うわけにもいかない。

 突然に存在否定されても、訳がわからない上に単純に失礼だ。

 適当に誤魔化す選択肢を取ろうか。


「あ~、じゃあ、君は都会は好きなのか?」

「え……」


 末、訪れたのは会話の応酬ではなかった。

 ただ、一瞬の静寂。瞬く間の、静けさ。

 (たちま)ちに広がってゆく、言の葉のない世界。

 モノクロの世界に飛ばされたような、色素の抜けきった景色は、殆ど映らない。

 意味成す物は、片っ端から消え去るように。


 恐れた感情は、溢れる。

 俺の口からではなく、彼女の口から。

 口調こそ普通のそれだったが、不安の色がついた揺れる声にはどうしても気付いてしまった。


「わた、しは……都会は、嫌いなんです」

「そうだったのか? でも――」

「はい。祖父母と都会には出かけたことはあります。正確に言うと、車が嫌いなんでしょうね」

「車……?」


 彼女の言葉に、オウム返しによる疑問しかできなかった。

 楽しげに、そして寂しげに祖父母との都会への外出を、夜に話してくれた。

 だから、俺はてっきり好きなものかと思っていた。


 その分、重圧を含む雰囲気が流れたことに、俺はひどく狼狽えたのだろう。


「この村に、車という移動手段は必要ないですからね。この村の中で暮らすならば、徒歩でどこでも行けてしまいますから」

「普段見ないってのはわかったけど、どうして車なんだ? 他の見ない物じゃなくて」

「単純に危険だからですよ。信号は、ただの電気暗号です。守らない人は、少なくないでしょうから」


 車を見ない、即ち信号も少ないということだ。歩行者用・車両用関係なく。

 この村の住人には、信号という存在は理解していても、それに判断を依存することは危ないことに思えるだろう。

 警察をないものと考えたとき、言い方は悪いがいくらでも信号無視はできる。

 しかし、警察のある現在でも信号無視は多発してしまった。


 都会では、車両は特に多く見られる。

 事故の危険は、常に正面にも背後にもつきまとわれることになるのだ。


「まあ、わからないでもない。俺も、あまり運転はしない方だ」

「へえ、意外と車に乗っていそうですけどね」

「通勤に使うくらいさ。プライベートは殆ど乗った覚えはない。こうして夏休みに出かけようと考えて列車を使ったのも、それが影響しているのかもな」


 列車を使うという判断は、ほぼ無意識だった。

 ドライブしようという考え自体、既に消去されていたのかもしれない。


「ただ、運転は慣れてきたときが一番危険だ。中途半端な技術で余裕を感じてしまうからな」

「何となく、わかる気はします」

「乗る必要がないのなら、乗らないに越したことはないさ。環境にも、安全にも悪い面が増えるだけだ」


 車に乗ることが悪いこと、とまでは言わない。

 だが、よく考えずとも少しでも乗る必要がないならば、やはり乗らないべきだ。


「貴方は――」


 彼女がそこまで呟いて、口を閉じた。

 俺が続きを促そうとしたときに、彼女の声が重なる。


「あっ、もう昼ですね。昼食を軽く食べてしまいましょう」

「え? あ、ああ、そうだな」


 まるで、その先を隠すかのような被せ方だった。

 俺の勘違いかもしれない。

 が、どちらにせよ俺には、その先の答えが何なのかは、わかるはずもなかった。

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