旅のお方でしょうか?
どうも、狼々です!
こちらの方では、短めということもあり、八月の夢見村を先に上げます。
まだ投稿中ということもあり、不定期になることをご了承ください。
さらに、まだこちらのサイトでの作品投稿には慣れておらず。
追加・変更した方がいいキーワードとか、ジャンルを間違えている、とかあったら教えていただけると幸いです。
では、本編どうぞ!
列車の車窓から覗く向日葵畑が、夏の陽光が眩しい。
こうして列車に揺られながら、小説の内容を考えるのもいい。
――そんなことを考えていた時期が、私にもありました。
「あぁぁああ~……」
気だるげな声を無意識に漏らす声が、暫くの間自分のものだとは感じられなかった。
俺は、現在進行系で小説家をやっている。
さすがに兼業しないと食べていけないので、しがないサラリーマンも同時進行。
収入は……まぁ、聞かないでくれ。
仕事の合間に文字を書く。それを毎日、機械的とも思える程繰り返してきた。
つまらないわけではなく、それが日常となるほど楽しんでいた。
現在、八月の半ば。夏の休暇をもらったので、こうして田舎を列車でプチ旅行。
旅行と言っても、一泊二日か二泊三日で、適当に列車で色々な場所を回るだけなのだが。
さて、俺が呻き声を発していた理由。それは、単純明快なものだった。
「……ネタがない」
切れた。それはもう、使い終わった乾電池の如く。
飲料物がなくなってしまった、空のペットボトルの如く。
しかし、それではおかしい。乾電池は充電できるものもあるし、ペットボトルにはもう一度何かを注げばいい。
俺には、乾電池の充電器も、替えの飲料物も手元になし。完全に手詰まりだ。
と、いうわけで。こうやって列車でのプチ旅行に来ている。
自然に触ると、何かネタが舞い降りるとも思ったが、そんなこともなかった。
現に、こうして向日葵畑を見ているが、黄金比の種の並びがさらに並んでいるようにしか見えない。
「……暑い」
炎天下の中での、熱のこもった列車にて。そんな感想を抱きつつ。
あまり使っていない頭脳に疲労を感じ始め、座席の背もたれに深くかける。
ふと、この暑すぎる中で微睡みに誘われる。
普段の疲れが、ここにきて回ってきたのか。
全く、列車で何をしに来たのだろうか。
その微睡みに勝てるはずもなく、俺の意識は闇に落ちた。
夢を見るように、落ちていった。
「……んぅぁ……」
眠い眼を擦りつつ、腕時計を見る。
十の位置を回っていた短針が、既に十二を回っている。
……時計が、壊れたのかな?
「次は~……終点、夢見村前です――」
「夢じゃなかった。壊れてもなかった」
夢だけど、夢じゃなかった!
そんなこともなかったが。結局夢も見ていないし。
それに、俺は田舎を列車で回る予定だったが、何も終点まで乗る予定ではなかった。
まぁ、ここで降りるしかあるまい。降りるしか選択肢が残されていない。悲しきかな。
列車の到着と共に、降車して。周囲を見回して、気付く。
他の誰も、この駅で降りていない。あまりにも静かだった。
そこは、田舎の村をそのまま絵にしたような風景が広がっていた。
一面が緑に囲まれていて、小さな家々が点在している。
吹き付ける風は周囲の木々から漏れ出したもので、暑いはずなのに、どこか涼しく感じる。
なるほど、ここが電車の中で流れた、夢見村、ということか。
蝉の大合唱がそこかしこから聞こえるのも、夏の代名詞だろう。
照りつける真夏の日差しも、今は心地よくも感じてしまう。
さて、ここからが問題だ。……民家しかないのだが。
どこにも、何もない。コンビニもなし。
7と11のあれも、ミルク瓶のあれも、文字通り何も。
強いて言うなら、民家のほぼ全てに畑がある。それだけ。
見えないところにあるのかもしれないが、少なくとも見える位置にはない。
「えぇぇぇえ……何か、すげぇな。帰りのホームは~っと……」
暫くそこから歩いて、帰りのホームを見つけた。
ホームに入って、時刻表を確認――
「――はぁっ!?」
時刻表には、縦に数字が一列……時間の欄の数字と。
横には――たった一つの数字だけが書いてあった。
そのたった一つの数字は、先程列車から降りた時間と同じくらい。
それが示すこと。即ち――
「帰りの列車が、ない!?」
もう、今日の帰りの列車はなし。
つまるところ、帰る手立てが残されていない。
「え、え、やべ、今日の宿どうすんのさ……!」
夏の暑さに汗が出る。いや、これは冷や汗の方だろうか?
ここは、本当に何もない村だ。ホテルなんて、あるはずがない。
ひどく落胆した様子でホームを出ると――
――そこには、一人の女性が立っていた。
透き通った雪の様な白肌が、清楚な純白のワンピースから露出している。
彼女の華奢な体が、ワンピースと相まって最上級の魅力を醸し出している。
ワンピースと同じく白いハットを目深に被っているが、口元の笑顔が眩しい。
ホームに吹き付ける涼風が、彼女の艶やかな長い黒髪を上品に揺らす。
一言で言い表すのならば、美女。そうとしか、言えなかった。
表情は、ハットではっきりとは見えない。が、絶対に美女であるという確信があった。
「……こんにちは。貴方は、旅のお方でしょうか?」
鈴の様な凛と澄んだ声は、この暑すぎる夏の日差しを和らげてくれた。
涼しげなその女性は、本当に魅力的で、夏が似合っていた。
「は、はい、そうですが」
「ふふっ、ここには何もありませんからね。私の家でよければ、宿として提供しますよ?」
鼓動が妙に早くなり、落ち着かない。
あまりの暑さに頭がやられたのだろうか。そう思った。
「……いいの、でしょうか?」
「えぇ。では、行きましょうか。案内しますよ」
そう言って、彼女は俺に手を差し出した。
……繋げと、いうことなのだろうか。
意図を汲み取りつつ、手を繋ぐ。
その瞬間に彼女との距離が近くなり、笑顔がすぐ近くにくる。
爽やかな匂いが隣からして、心臓がバクバクとして静まらない。
手が柔らかくて、意識がほぼ全て手に集中する。
「……? どうしました?」
俺が戸惑って立ち止まっていると、先行しようとした女性が立ち止まる。
「あ、あ……いえ、何でもありませんよ。行きましょう」
なるほど。そういう、ことか。
――俺は、この女性に一目惚れしたんだ。
ありがとうございました!
元々短編での投稿予定だったので、これくらいの文字数でいこうかと思います。
短編と言っても、一話終了ではないのですが。
ではでは!