【八、ブタドックリ】
毎年七月七日の七夕にSF短編を投稿するという『七夕一人企画』を実行しています。今年もなんとか「星に願いを・2016」をお届けできそうです。七夕の「織姫と彦星の物語」に因んだSF短編をご堪能くださいませ。【七夕一人企画・2016】
「ところで、今回の『疑似餌』は大丈夫なの? 前回の《デコイ》はネペンドンの触手葉で簡単に壊されちゃって。おかげで、ネペンドンを倒すためのツル刈り込みに時間が掛かっちゃって相当な苦労をさせられたからなぁ」
ノッポをガツガツと食べるルキァがノッポから目を離さずにアクティへ質問を投げた。
「あ、いや、まぁ、前回のことは平身低頭、おわび申し上げます。あの時の映像記録や機器からのフィードバックデータを詳細に解析して、十分な投資をして研究開発をしました。ご満足していただける自信は、まぁ、九十五パーセントくらいですけれども。あ、だって、ルキァさんからのお褒めはなかなかいただけませんからね。だから、われわれもやり甲斐を感……」
「能書きはいいわ。今回の採集方法の手順と装備を手短に説明して」
雄弁に語りたがっていたアクティの言葉をさえぎり、ルキァは結論を急がせた。
「今晩のうちに、この『罠場』まで誘い込みたいの。できれば、七夕までには終わらせたい。オーリヒがね」
ルキァは目だけを私にチラリと向けた。
「わ、私のことはどうでもいいの。今の私はルキァの弟子。だから、私は師匠に従うわ」
アクティが私の方を向いて、まだ雄弁さが足りなくてそれを補うかのように語り出した。
「大丈夫ですよ、オーリヒさん。ドーンとスペースカウ・テクノロジー社にお任せください。われわれの持っている豊富な経験と確かな技術がオーリヒさんにデートの遅刻をさせるなんて事態は絶対にありえ……」
「んだから、能書きはいらないって言ってるでしょっ!」
ルキァの恫喝にアクティの動きがピタリと止まった。
「……はい。では、第二次ネペンドン捕獲作戦を説明しますですぅ……、まずは装備から」
シュンとして声のトーンが下がり切ったアクティは、ビジネスバッグから取り出した簡易立体映像装置(マイクロ3Dビューアー)をテーブルの上に置いて起動させた。すると、横倒しになった銀色で太めの徳利に四本の脚が付いたモノを映し出された。
「前回の教訓を踏まえて、『疑似餌』はデコイ的な置物ではなく、歩き回って攻撃を回避するロボットに変更しました。短い脚は安定性と方向転換性を重視していますが、自走速度は最高分速四百八十八メートルと逃げ足は充分に速いです。また物理的破壊や化学的破壊にも耐えるように表面はチタンコーティングで内部はハニカム構造、ずんぐりと凹凸のないフォルムは触手葉に捕捉されないようになっています。ちなみに、開発チームはこれを『ブタドックリ』というコードネームで呼んでおりました。そして、この『ブタドックリ』の最大のポイントは、横倒しになった徳利の、その「注ぎ口」の部分から先端がニードルになったホースをネペンドンの節に向けて発射、触手葉の攻撃を回避しながらネペンドンとの間合いを一定に保ち、このブタドックリ自身が『カラフルグラヴィトン・マジカルレインボー』を採集するのです」
テーブルの上に映し出された3D映像では、横向きの銀色徳利の口から細い針のようなものが出たり引っ込んだりしていた。
「ブラボー! すごいモノを持ってきてくれたのね、アクティ」
ルキァは立ち上がり、ノッポ焼きで汚れているにもかかわらず両手を打ち鳴らしていた。
「お褒めに与り、光栄です。でも、ルキァさん。驚くのはまだ早いです! われわれの開発チームは、ブタドックリに仕込んだ『ニードルホース発射装置』をなんと、ハンディなタイプにも落とし込んで作り上げました」
アクティが指し示す方を見ると、いつの間にかキーンが何かを背負ってライフルみたいなものを構えていた。
「背負っているのは、『カラフルグラヴィトン・マジカルレインボー』を収納するバックパックタンク、そこにつながれた『ニードルホースショットガン』はおよそ二十メートルの射程ですが、節に向かって発射し、命中したらショットガンのインジケータにある「バキュームサイン」が点灯、『カラフルグラヴィトン・マジカルレインボー』を酸素に触れることなく自動的に背中のタンクへと送り込みます。しかもニードルが命中さえすれば、回収率は九十九・九九パーセント以上、酸化率は〇・〇一%未満で収納します。素晴らしいでしょ?」
不敵な笑みをこぼすアクティだったが、ルキァは喜々とした目で、キーンの装備、ブタドックリの3D映像、そしてアクティの顔と、グルグルと順番に見回していた。
「素晴らしいわ、全く素晴らしい! 二度目の協力体制でここまでの進展を遂げるとは……」
ウットリするルキァ、誇らしげなアクティ、その横でキーンが誰にも聞こえないほどの小さな声でつぶやいた。
「オーリヒが一緒でなければ、ここまではやらせなかったよ」
かすかに聞き取った私が問い返す。
「え? なに? 私が何ですって?」
キーンはひどく慌てた様子で知らない顔をした。
「い、いえ、なんでもありませんから」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
【七夕一人企画の宣伝】
毎年七月七日に個人で勝手に騒いでいる『七夕一人企画』です。
今年で十年の節目を迎えるこの企画、一人で勝手に七夕SF企画なのですが、自分の小説が毎年一つずつ積み重なっていく楽しい企画です。