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【四、ネペンドン】

 毎年七月七日の七夕にSF短編を投稿するという『七夕一人企画』を実行しています。今年もなんとか「星に願いを・2016」をお届けできそうです。七夕の「織姫と彦星の物語」に因んだSF短編をご堪能くださいませ。【七夕一人企画・2016】

 ノッポを刈り取った広場の中心で野営をしながら、私はルキァの武勇伝に耳を傾けていた。

「やっと倒したと思って節を切り取ったら、染料が全部流れ出しちゃってさ。あの時は途方に暮れたわよ!」

 酸素酸化反応である「第一の火」の『たき火』で焼いたノッポを頬張りながら、身ぶり手ぶりを加えて語るルキァはとても楽しそうだ。

 ネペンドンはツル種の動物系植物で、複数の「(コア)」と呼ばれるいくつかの球体を中心にたくさんのツルが伸びている。それが手足の代替として動き、節を支えて全体を移動させる。そのツルの途中から小判の形をした葉が、らせん状に生えていて、基本的にはそれで光合成をして養分を摂取する。

 しかし、動物でもあるネペンドンは必須アミノ酸を摂取しなければならない。そこで、八本の太いツルの先端にはつぼ状の大きな捕獣袋が付いていて、その袋に動物を追い込む。捕獣袋のすぐ上に、ふた代わりに袋を閉じる手のような「触手葉」が対になって生えている。これでこのケケモモに生息する、猫ウナギやウサギ亀、イヌ猿やねずみムカデを捕まえ、袋の中の消化液で溶かして養分にする。

 完全に夜行性生物で昼間は全く動かず、一見すると地球の「ウツボカズラ」のように見えるが、夜になると「節」を高々と持ち上げ、ツルを上手に操ってすばやく全体を移動させて動物を誘い込み、触手葉を使って動物を捕獣袋に追い込んで捕まえる。

 このネペンドンのどの部分に『カラフルグラヴィトン・マジカルレインボー』という染料が存在するのかというと、その「節」の中にあるのだ。ネペンドンは、ツルや触手葉に触覚器官を持っているが、目、耳、鼻といった感覚器官を持たない。視覚も聴覚も嗅覚も持たないのに動物を正確に追い込んで上手に捕獣袋で捕らえられるのは、節に「重力検知器官」を持っているからなのだ。人類がかなりの設備装置を用いないと測定すらできない重力波を、直径三十センチメートルほどの大きさの「節」という生体器官で検知する。重力波のわずかな変動を捉えて触手葉やツルにフィードバックして捕食行動をとっているのだ。

 この「節」の詳細はまだ解明されていない。節を切り取ると中なら液体がドロリと流れ出して溶けてしまうからだ。そして、その「ドロリと流れ出した液体」が『カラフルグラヴィトン・マジカルレインボー』という染料なのだ。流れ出した液体は鮮度が命である。とにかく密閉容器に注ぎ込み、すばやくふたをして酸素を遮断しなければならない。酸素に触れるとグラビトンを検知しなくなって灰色にしか染まらなくなるのだ。

 ルキァはそれに長い時間をかけ、その方法を編み出したのだ。そう、ルキァは、ネペンドン狩りと『カラフルグラヴィトン・マジカルレインボー』という染料採集の第一人者なのだ。そして、これが宇宙で最高峰の『草木染』なのであった。

「そこからよ、この染料の保存方法を見つける苦難の時間が始まったのは!」

 焼いたノッポはとてもおいしかった。熱を加えることで外側の金属膜がペロリとむけて、内側の白い身が露出する。それにかぶり付くとホクホクとした食感がうま味とともに口の中に広がり、クールアルコールとの相性はピッタリだ。

「三年よ、三年! え? 何の三年って? 採集装置の開発期間よ! 改良に改良を重ねて、今じゃ九十パーセントを回収できて酸化率は一パーセント以下になったのよ!」

 ルキァは語るだけ語ってすぐに寝てしまった。私は初めて見る「たき火」のオレンジ色を見ながら、少しだけケーンに思いをはせた。

「楽しいわよ、ケーン……あなたもここに居て欲しかったな」

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


【七夕一人企画の宣伝】

 毎年七月七日に個人で勝手に騒いでいる『七夕一人企画』です。

 今年で十年の節目を迎えるこの企画、一人で勝手に七夕SF企画なのですが、自分の小説が毎年一つずつ積み重なっていく楽しい企画です。

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