【十四、行動開始】
毎年七月七日の七夕にSF短編を投稿するという『七夕一人企画』を実行しています。今年もなんとか「星に願いを・2016」をお届けできそうです。七夕の「織姫と彦星の物語」に因んだSF短編をご堪能くださいませ。【七夕一人企画・2016】
オレンジ色の空に青味が少し加わり始めた頃、私たちは行動を開始した。風もなく穏やかな夕暮れ前で、ネペンドンに動きはまだない。
「皆々様、準備はよろしいですかな?」
ヘッドセットからアクティの雄弁な声が流れる。
コンテナ船に備え付けられたクレーンのマストを高くしてジブの横にあるコントロールキャブにアクティが陣取っている。アクティは、この高所から「ブタドックリ」の制御を行い、さらに罠場全体を把握して作戦を指揮、私たちに適切な指示をしてくれる手はずなのだ。
「準備は完了、定位で待機中」
あくまでも冷静なキーン。
「いつでもいいわよ。ドンと来い!」
やる気も気力もあふれているルキァ。
「私も大丈夫ですぅ」
私はそう返信したけれども、正直に言って私のヒザはガクガクと震えていた。
私とルキァ、そしてキーンはバックパックタンクを背負い、ニードルホースショットガンを装備して罠場の適当な位置に展開した。
染料採集の主力はもちろんブタドックリなのだが、私たちも罠場で行動する。それは少しでも多くの染料を採集するため……というのが建前。本当のことを言えば、ルキァの「草木染めの材料は手で採集しなければ!」という信念のため、と言うべきかもしれないけど。だから、私たちはチャンスがあったら「節」にニードルホースを撃ち込めばよくて、無理やりに採集する必要はない。特に私の場合は『危険な目に会うことだけは避けてほしい』とアクティからは申し入れられているので、私は「逃げ回ることに専念すればいいのかな」と思いながらショットガンを抱えて待機している。
空の色がパープルに変わり始めて、ネペンドンの葉が揺れだした。
「あれ? 風が吹き始めたの?」
フェイスガードをした私の肌に空気の流れは感じられなかった。遠くで首を降るルキァの声がヘッドセットから流れてきた。
「違うわよ。ネペンドンが活動を始めたの。アクティ、ブタドックリを起動して」
「了解です。それでは皆様、採集作戦のお時間です。ブタドックリを起動します。ポチッとな」
軽い機械音が響いた数秒後に、四体のブタドックリはネペンドンの周りを歩き始めた。軽い足取りで罠場を徘徊するブタドックリたち。その動きにルキァは目を見張る。
「すごいわ。完璧に調整されたロボットたちね。その動きを見ただけで十分に分かるわ」
「今は『ウォーク』です。『トロット』にしてみましょう」
アクティがそう言うと、ブタドックリたちの脚の動きが速くなって速度が上がり、軽快感が増した。
「戦闘に入ると『ギャロップ』に走り方を変えて増速します。走るだけなら馬やチーターと違って疲れを知りませんから、エネルギーがなくなるまで分速四百八十八メートルで走り続けますよ」
私はアクティの説明を聞きながら、ブタドックリが左手からこちらにタッタッタッと軽やかに向かってきて目の前を通過、そして右手に去っていくのを見送った。
「ネペンドンが第一フェーズに入ります」
観察していたキーンからの報告が耳に入る。私は慌ててネペンドンを見上げた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
【七夕一人企画の宣伝】
毎年七月七日に個人で勝手に騒いでいる『七夕一人企画』です。
今年で十年の節目を迎えるこの企画、一人で勝手に七夕SF企画なのですが、自分の小説が毎年一つずつ積み重なっていく楽しい企画です。




