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初めてまして。ワタクシの名前はベール、何処にでもいるしがないリッチです。今ワタクシの目の前では召喚した元村人達と王国騎士団がバトルを展開しています・・・どうしてこうなった。
誰か教えて下さいお願いします。
ワタクシの生まれ育ったライス王国は人口一万人程の小国でございました。王国の下町に生まれ両親の愛情に育まれワタクシはすくすくと成長しておりました。
ワタクシの人生の最初の転機は六歳の春の事でございました。
まぁ大体何処の国でも一緒なのですが、子供達は六歳の春に魔術師の才能が有るか無いかの診断を受けます。
診断等と言ってもさして難しい事もなく魔力に反応する石を触るというだけの、まぁ一寸した春の子供達のイベントでございました。
両親や近所の友達と連れ立ち神殿でお役人の立ち合いの前、皆して順番に石を触っていきました。
そしてワタクシが触った時、魔法石は淡いブルーの光を放ちました。
結果から申し上げればワタクシは強制的に地元から引き離され魔法学校に通う事となりました。
残念ながら両親はワタクシと離ればなれなる事をさして哀しみもせず、それ処か息子の就職先が公務員に決定した事を大変喜んでいました。
公務員、はい、ワタクシはチョー早い青田買いの結果六歳で王国魔術師の就職が決定いたしました。
魔法学校の成績は中の上、得意分野は死霊系魔術でした。死霊系は余り人気のある魔術では無かったのですが才能と単位の関係によって死霊魔術師として魔法学校を卒業する事となりました。
魔法学校を無事卒業したワタクシに待っていたものは波瀾万丈の生活等ではなく王国魔術師としての事務仕事でございました。
分かっては居たのです!魔法学校に通っていた生徒の殆どは国の紐付き、未来のお役人、国も高い学費を払い子供達を学校に入れる以上、元は取らなきゃなりません。
何よりそこで知り合った学友達も将来は相手国の役人になるのです。
学校で為す事は学業以上に交友関係を持ち人脈を拡げる事にあるのです。
その点で云えばワタクシは大変優秀な生徒だと自負しております。
そんな訳でワタクシの10代20代はお国の為に差し出す事になりました。
大概の魔術師は10代20代をお国に捧げた後、自分の人生を見直す事を致します。ある者は家族を持ち、またある者は学究の徒となって第二の人生を歩むのです。
しかし中途半端に使い勝手の良かったワタクシを国は中々手放そうとはしませんでした。
結婚してる訳けでもなく、また学究の徒となるほど勉強熱心な訳でもなく、人脈だけは人並み以上と云うワタクシは流されるまま40の春まで王国魔術師を勤めてしまっていたのでした。
普通の魔術師が10代20代で国との貸し借りをチャラにする所ワタクシは30代も国に捧げてしまいました。
周りを見て見れば、結婚して子供処か孫がいる仲間もチラホラ、振り向いてワタクシと云えば肩書きだけの王国魔術師長・・・あれっ?
ワタクシ完全に負け組じゃね?
物事は得てして気づいた時には遅いと申しますが、ワタクシも他の例に洩れず独りボッチな魔術師街道を爆走しておりました。
その日ワタクシは慣れない強いお酒を飲みながら少しだけ泣いてしまいました。
その後鬱々とした日々を過ごしていたワタクシに1つの転機が訪れました。
魔法学校を首席で卒業した友人のマールン君が死の壁を超えたと云う情報が入って参りました。
死の壁、我々死ぬ定めを持つ生き物にとっては避けれない絶対の掟。しかし優秀な魔術師の中にはその壁を超えて、不死者となるものが、非常に少数ながらおります。
友人のマールン君がその偉業を成し遂げたと聞きワタクシ共当時の同級生はお祝いを兼ねて同窓会を開く事に致しました。
同窓会の当日ワタクシはマールン君の姿に驚きを隠せませんでした。
基本的にワタクシ達は机の前での生活が殆どの為、非常にぽっちゃりさんが多いのです。中にはフィールドワークを趣味とする少数派もおりますが、大概はぽっちゃりさんになります。ましてや40にもなれば頭の方もだいぶ寂し毛になって来る者です。
しかし!マールン君の姿形は10代の頃卒業した頃の彼のままだったのです。
最初ワタクシはマールン君のご子息と思っておりました。
彼がワタクシに話し掛けてくれる迄は・・・
「お久しぶりベール君。」
「その声は本当にマールン君なのですか?」
「あぁ驚くよね。久しぶりに会ったら子供の姿になってたら。」
「はい。正直今も驚いてます。おもわず看破の術を唱えてしまいました。」
「どうだった。」
「はい。間違いなくマールン君です。しかしワタクシの力では種族迄は分かりませんでした。」
「うん。今の僕の種族は長命者、だよ。」
「なんとまぁエターナルと云えば地方によっては亜神じゃないですか!」
「あくまで一部の地域だけね、大概の国ではお尋ね者さ。」
彼の言うことは事実です。恐らくマールン君の種族がバレたら世界中の国々はマールン君を災害指定種に指定する事でしょう。国や王族は自分達の立場を脅かす者を極端に恐れる。例え相手に攻撃の意志が無かったとしても・・・
「そんな悲しそうな顔をしないでくれよ、僕は自分から望んで死の壁を超えたのだから。」
「あぁそうですね申し訳ない、つい自分の物指しで、物事を判断してしまう、凡人の悪い癖ですね。」
「本当にベール君は変わらないね。変わり者として周りから煙たがられていた僕にまったく変わらずに接してくれる、君は本当に変わってない。」
何でしょう微妙にディスられている様な気がしないでもないのですが、
「ベール君、僕はこの同窓会を最後に自分の張った結界の中に引きこもる事に決めているんだ。後はしたかった研究をやり続けるよ。」
「そうですか、ワタクシでは理解することもままならない様な研究に没頭なさるのでしょうね。」
死の壁を超えたがる方は大勢いますが、成功される方の大半が寿命を気にしないで研究したいというマニアさんと聞いています。
「それでお別れに君にある物を貰って欲しいんだ。」
「おやっ何でしょう?」
「秘密、既に君の屋敷に届いてる筈さ。どう使おうと好きにして良いからね。」
彼は意味深にそう言い残すと他のクラスメイトの方に歩き去って行きました。
ワタクシが同窓会から帰り自室に入って見ると自室の机の上にそれは置かれていました。
普通の人が見れば、なんの事もない汚い古本に見えるでしょう。
しかし魔術師の目で見れば、それは恐ろしい程の魔力を秘めた魔道書に見えるはずです。
正直ワタクシ程度の魔術師では近づく事も難しいシロモノです。
その本の横には1通の手紙が添えられていました。
「ベール君へ、君がこの手紙を読んでいる頃、僕はこの世界を去り別の次元にシフトしている事だろう。この研究を始めた頃の僕は長命者になり寿命に縛られず魔術を究めたいと思っていたんだ。本当だよ。しかしいざ不死の身体になってみるとあれほど燃え上がっていた情熱は消え去り残ったのは虚無感だけだったよ。どうやら肉体は不死になったが精神の方は不死に適合出来なかったらしい、僕は自分の精神が壊れる前に自分で自分を処理することにしたよ。不死者を殺せるのは不死者だけだからね。この本には僕が研究した死の壁を乗り越える方法が書きしるされている。そして僕はこの本を君に託したい、この本を燃やすのも公開するも君次第だ、なぜこんな気持ちになったのか正直僕にも分からないんだ。恐らく不死者のイタズラだ、どうか君の好きにしてくれ、さようなら。」
・・・出来るか!
何この重い展開!つーかこんな爆弾、人に渡すな!
ギャ〜どうすんのよこんな物間違って見つかった日には間違いなく極刑ですよ。
しかし仮にも魔術師がこんな貴重な本を燃やすって・・・ムリムリムリムリ無理だから〜!
あぁもう絶対ワタクシが悶絶してるのをあの世で楽しんでるに違いない!
胃が〜誰が胃薬プリーズ