冷暖房完備
「はぁーい、右手に見えますのがぁ当社のおすすめの教室、RX-4520ですよ~」
やけに明るい声のガイドはそう言って右手を挙げた。ちなみに明るいというのはかなりポジティブに表現した言い方で、実際の所馬鹿っぽい。ガイドの制服だとか言う、身体のシルエットがあらわな激ミニのスカートがそれに拍車をかけている。
――2XX3年、世界はビッグデジタル時代を迎えていた――
「えーとですねぇ、このRX-4520の特徴はですねぇ、まず何より、えーとレイダンボウカンビでございます。とはいいましてもぉ、レイダンボウカンビと言う単語は既に2000年代には使われていまして、今さら何を化石のことのような事を言いますかというとー……?」
馬鹿っぽいと心のなかで毒づいていたが、それは間違いだ。これは完全なる馬鹿だ。これで一流企業の製品案内ガイドが務まるのは世も末だ。
しかし本当のところはそうではない。このガイドは冗談で選ばれたのではなく、真剣に選ばれた結果だ。なにせこのガイドは生きていない。すべてが電子パーツとプログラムで出来ている……そう、ロボットだ。正確性は疾うの昔に研究され尽くした分野で、いかに自然に間違いを犯すか、というのが売りな最先端の粋だった。
最もどんな自信作だろうと、商品の案内に使われると心穏やかにいられない。
「24時間1年間365日、温度を20度、湿度60%で保つだけじゃあありません。なんとなんと、ボタンひとつで急速冷凍、ゼッタイレイドまで10分です!これはすごいですよう~。もちろん、従来製品同様100度まで調整するのもボタンひとつで可能となっております。こちらはカイリョウを重ねて、3分で到達するようになってオリマース」
周りの観客からオーと言った声が響く。
「音声認識や、遠距離の動作ももちろん用意してございます。生徒さんが勝手に動かさないように、先生方を登録して、登録者だけが動かせるようにシテイもできマス」
これが今年流行の教室なのだ。
見学者は皆おもいおもいに購入する教室を吟味するのだった。