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Aqua tale  作者: 仁木 真尋
2/2

はじまり

+++




あの忌まわしき日から10年。



私は、『あの日』の丘に立っていた。



父の丁度10回目にあたる命日の日。



私は父の好んでいた白い花を捧げ持ち、歩を進める。



そして目的の物の前で立ち止まる。



それは、他人にとっては何の変哲も無いただの岩。



けれど、私にとっては何よりも大切な『特別な物』。



父の墓。




+++




私の父は、王だった。



世が世なら、私は王女という立場だったのであろう。



いや。事実、姫と呼ばれていた時期も存在した。



目に映る何もかもが、自らの周囲の物全てが、美しく汚れのないものだと信じていた。



そんな夢のような日々―――。



けれど、そんな日々も悪夢とともに終わりを告げた。



私の10歳の誕生日。



王と言う立場の父と、政治全般を取り仕切る、父の片腕と呼ばれた叔父。



いつも忙しく、それこそ休みなどないのではないかと思えるほど働き詰めの二人。



そんな二人がその日、私のたっての『お願い』のために、わざわざ休みを取ってくれた。



誕生日のお願い。



『みんなでピクニックに行きたい』



それは、誕生日という特別な日のお願いにしては、なんてささやかなものだったのだろう。



そんなささやかな願いを、父と叔父は快く受け入れてくれた。



『そんなものでいいのかい?』と。



そしてその日、私は父と叔父、いとこのカノンと一緒に北の丘まで遠乗りに行った。



楽しい1日になるはずであった。



少なくとも、私はそう思っていた。



けれど、そんな希望は儚く散った。



北の丘に着いた私たちを待ち受けていたのは、数多の刺客。



彼らは父の姿を認めると、脇目も振らずに駆け寄り、剣を振りかざす。



―――ほんの一瞬の出来事だった。



一瞬で、白い大地が朱色に染まった。



『イヤーっ!!!』



目の前の光景が信じられなかった。



純白に緋色をまき散らしながら、転がる丸いもの。



首から上を失い、くずおれる体。



そして―――



父の命を奪った者に跪かれる、叔父。



何故?ナゼ?なぜ?



ひたすら泣き叫び続ける私に、叔父は冷たい瞳をむける。



『遺恨を残すと面倒だ。やれ』



次々と振り下ろされる刃。




+++




「レイラ様」



ふと、呼びかけられて瞠目する。



「ルドヴィックか」



「左様でございます。レイラ様のお戻りがあまりに遅いため、お迎えにあがりました」



「そんなに遅かったか?」



「はい」



まじめくさった調子に、けれどそれが事実なのであろうと予想がつく。



自分で思っていたよりも、ずいぶんと長い間思考の底に沈みこんでしまっていたらしい。



「大丈夫ですか?」



心配そうな瞳に、問題ないとだけ答える。



そう、全く問題はないのだ。



やっと、待ちに待ったチャンスが訪れようとしているのだから。



「そうですか。ならば、良いのです。陛下の無念、必ずや晴らしてみせましょう」



力強く頷く。必ず成功させてみせる。



「父上、必ずやよい知らせを持って参ります」



岩に向かって宣言すると、踵をかえす。



もう振り返らない。



次訪れる時は自らが王となった時だ。



そう、心に固く誓って。






.


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