プロローグ
物書き初心者ですが、少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。
透き通るような美しい声があたりに響く。
『あるところに、年若き美しい女王様と彼女を支える一人の騎士がいました』と。
そう。
これは、イーリスに伝わる昔々の物語。
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「セレス様、セレス様。大精霊セレス様」
少女特有の、舌っ足らずの高い声が私に響く。
「今日はね、お父様とおじさまとカノンと一緒に北の丘まで遠乗りに行くの!」
喜々として話す少女の様子に、私の口元が思わずゆるむ。
雪の降りしきるこの季節だというのに、まるでここだけ春が来たかのようだ。
けれど次の瞬間、少女の表情に影がさす。
「最近ね、おじさまとお父様疲れているみたいなの。だから、本当は、今日の遠乗りやめようかと思ったの。遊んでもらえないのは寂しいけれど、お父様たちに無理して欲しくはないの。」
優しい子だ。自分のことよりも、他の人を大切にすることを知っている。
それゆえ、その瞳が曇るのは悲しい。
「だからね、だからね!今日、おじさまが行こうって言ってくれて、本当に嬉しかったの!」
ぱっと、唐突と言えるほどのタイミングで、少女の顔が輝く。
本当に嬉しいのであろう。
期待に輝く瞳が眩しく、この瞳がいずれ涙で曇るであろうことが、とても悲しいことのように感じられた。
と。
ふと、口をついて出そうになった言葉を飲み込む。
私は何を言う気だったのだろうか。
今、少女が事実を知ったところで何になる。
その瞳が曇るのが、早くなるだけではないか。
私は口をつぐんだ。
知らなくてもいいことだ。
知らない方がいいことだ。
私の葛藤の間に、少女は彼女の父に呼ばれ、嬉しそうに駆けていった。
――――願わくば、その瞳の輝きが一分でも、一秒でも長からん事を。
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