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カオスクロス(学園超能力シリアスバトル小説)  作者: なりあき0079
第1部 混沌の始まり
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4.魔人との遭遇







 深夜一時を回った護国寺の境内で、俺と美晴は、十五メートルほど距離を取り、対峙している。静寂の空間に一筋の風の切り裂く音が鳴り響く。


「いくぞ、美晴」


「どぉぞ」

 美晴は気だるい態度の姿勢で応じる。


「俺の〝力〟だってパワーアップしてるんだ。舐めてると怪我するぞ」


「オーケー。じゃあ始めてよ」


 俺は美晴に意識を集中させる。向き合う美晴に力を込める。美晴の髪の毛がざわめき靡く。服や短いスカートが揺さぶられ靡く。力は俺から美晴へ向け直線上へ。チラチラ美晴の青と白の縞パンがチラつく。美晴は少し身構える姿勢で俺の〝力〟の前哨を耐える。


「……!」

 美晴へ向けて、力を解放した。


「……え?」

 地面に砂塵が舞った。力がヒットしたならば、美晴は吹き飛ばされるハズだ。しかし、向かい合っていたはずの美晴の姿はない。すると背後から声が聞こえた。


「力を込めるインパクトの瞬間が読みやすいかなぁ。これじゃいくら経ってもあたしを捉えることは無理ねぇ」

 美晴は俺が力を解放する瞬間に俺の背後にテレポートしていた。


「クソ! 今回も捉えられなかったか……」

 俺は悔しくて両掌で両膝をバンと叩いた。そのまま俯いた姿勢で、

「どうすれば、そのインパクトの瞬間を明確に正確に、読まれにくくできるんだ! 力は三カ月前よりも遥かにパワーアップしているハズなんだ!」


「あたしの力と君の力は、少し性質は違うと思うからなんとも言えないけど、君は君の力を少し雑に使っていると感じるかなぁ。その辺じゃないかな?」

 美晴は腕組みをして豊満な胸を強調する。


「雑?」


「うまく言えないけど、君はただ闇雲に力を放出させているだけのような気がするのさ」


「でも、力を解放するまでは、確かに、明確に美晴を捉えているんだ。なのに何故こうも簡単に回避されるんだ?」


「君の力は、たぶん重力に関係するものだと思う。上下の力だったら、対象を上から押しつぶしたり、いつも君がやっている悪戯のように下から上に押し上げたり、今みたいに直線状に吹き飛ばそうとしたり。力が強くても、雑。考えなしでやっている。この辺を直さない限り、あたしには勝てないわ」

 美晴は腕組みをしたままの姿勢でそう言った。


 俺は美晴の顔を見上げる。



 俺がこの〝力〟を手に入れたのは、今年の五月頃だった。それとなく、女子のスカートめくりなどにこの力を使ったりしていた。そして美晴に何度かやっているうちに、美晴にばれた。美晴もほぼ同時期にテレポートの〝力〟を手に入れていた。

 初めは、空き缶を押しつぶしたり吹き飛ばしたり、そんな程度だった。しかし、美晴とのこの深夜の〝練習〟を繰り返していくうちに、力の威力は高まっている。今では放置されている軽自動車一台くらいなら押しつぶせるまでに成長した。むろん力の加減はできる。ただ大きなパワーを込めるためにはそれなりの時間を要する。大きな力になればなるほど溜めの時間が必要となってくるのだ。

 この三カ月ほどの〝練習〟で、確実にパワーは増大していた。しかし、何度繰り返しても、完全に美晴を捉えきることはできずにいた。


「どうする? もうやめるぅ?」

 美晴は腕組みを解き、腰に両手を当てて問う。


「いや。あと二、三回やってみよう」


「今の君だと何度やっても同じだと思うんだけどなぁ」

 といいながら、美晴は距離を取りに歩こうとした。


 その時、俺は周囲の異変に気がついた。


「なんだ? この霧は?」

 黒い霧が辺りに立ち込めていた。視界は限りなくなくなっていた。その様子にやはり美晴も気づいたようだ。


「東京の都心でこんな黒い霧? なんなの?」


「分かるわけないよ! ただ、この霧は、異常だ!」


「なんだか、気持ちが悪い……こんな感覚初めてだわ……」


「美晴! なにか、黒い影が! 見ろ!」

 俺は境内に繋がる階段のほうを指差した。


 薄らと人の影がこちらへやってきていた。影はやがて輪郭を示した。黒い外套を纏った男だった。男はゆっくりとこちらへ近づいてくる。俺は膝から下が震えだしてきた。麻痺に似た感覚が俺の両足を襲う。

 美晴を見た。美晴は顔が青ざめている。身体は硬直し、俺の右手を両手でギュっと握りしめて離さない。


 分かる。これは尋常な出来事ではない。本能がそう告げる。コイツはマジでヤバイ。

 やがて男の顔が霧の中でも見える位置まで、彼は接近してきた。


(どうすればいいんだ? うろたえるな! 新庄匠!)


 男の口元が微笑で緩んだ。そして、

「……重力使いに、物質転送か。……すばらしい〝異能〟の持ち主どもよ」

 黒い外套の男は、少ししゃがれた口調でゆっくりと言葉を紡いだ。


 見た目は三十代くらいか? でも何故だかそれ以上に老齢のような気がする。黒い霧のせいか、あまりよく見えないが、肌がかさついている。まるでミイラのようにも思える。


 とにかく考えろ。コイツはやばい。雰囲気に飲み込まれそうだ。傍の美晴をチラっと見る。もう完全に飲み込まれている様子だ。まるで蛇に睨まれたアマガエル。ここは俺がしっかりしないと。


「あなたは誰なのです? 何故、俺たちの力を知っているのです?」

 俺はとにかく、時間稼ぎとばかりに質問をした。


「……我は〝混沌〟そして闇の世界を司る調停者なり。 ……汝、我に忠誠を誓え」

 混沌? 調停者? 忠誠? 俺には具体的に分からない言葉をこの男は紡いだ。


「忠誠?」


「……我に忠誠を誓うか! ……少年!」


「え?」


「……忠誠を誓わんとするならば、我の元へ来るがよい」


「何故!」


「……我の司る闇の世界を守護せんとする尖兵として忠誠を誓うのだ!」


「……」

 美晴を見てみる。もう目が虚ろだ。まずい。


「……さあ、我の元へ来るがよい。少年たちよ……」

 男の言葉には催眠効果もあるのか? 


 俺の意識はこの黒衣の男に吸い寄せられていってしまいそうだ。言い知れぬ恐怖と陶酔感に包まれていく。

 そして美晴は俺の右手にしがみ付いていた両手をほどき、一歩、黒衣の男へ歩みだす。


「美晴! 目を覚ませ!」

 俺は美晴の右手を俺の左手で掴み、歩みを止めた。


「え……あ、あたし……?」


「もっと自分をしっかり持て! 美晴!」

 俺は美晴の両肩を掴み、前後に激しく揺さぶった。


 すると、黒衣の男は、

「……心酔すれば、何も恐れるものはない。少年。汝、我に身を委ねるのだ……」


「お前は、敵だ! 押しつぶしてやる!」

 俺は〝力〟を黒衣の男にかける。インパクトの瞬間を読まれないよう、全身全霊をかけて、今持てる俺の最大級の力をかけた。


 そして黒衣の男を捉える。


「いけぇ!」


 土煙が男を包み込んだ。

 手ごたえはある。

 確実に俺の〝力〟は黒衣の男に直撃したハズだ。

 けれども、男はそのまま直立していた。


「え……? ヒットした感触があるのに……」

 俺は愕然とその男の余裕の表情を見つめる。


「……世は不条理なり」

 黒衣の男はそのまま、俺らの元へ歩みだしてくる。


 駄目だ。震えが止まらない。全身震えだしてきた。足の感覚がない。


「ああぁ――!」

 恐怖で思わず叫んでしまった。


 血の気が失せて世界が真っ白になりかける。

 恐怖で全身に鳥肌が立つ。

 生まれて初めてだ。これが、恐怖というやつか。

 死への直面。これから待ち受けるものは、確実に死。

 逃げることも戦うことさえ叶わない。

 思考は完全に逃れられない死にまとわりつかれた。


「駄目……飛べない……! 霧のせいで飛ぶ正確な位置が分からない!」

 正気に戻っていた美晴はテレポートで逃げようとしていたようだけれども、それも叶わないみたいだ。


 もう終わりか。そんな刹那、遠くのほうで銃声が響いた。


 (銃声? なんでこんな真夜中に?)


 銃声が数発木霊する。まるで俺を誘うかのように。

 何かのシグナルのように銃声は一定間隔で鳴り響いた。


「美晴、聞こえたか?」

「うん、聞こえた!」

「視界に頼るな。銃声の聞こえたほうを意識して飛ぶんだ!」

 誘いの銃声は鳴り響く。

「オーケー! 把握。飛ぶ!」

 美晴はそういうと、俺の手をしっかりと握りしめて、銃声のする方角へテレポートした。


 飛んだ先は護国寺霊園の入り口だった。


「視覚という感覚に頼り切っていたかなぁ。元は慣れ親しんだ土地だし、銃声のおかげで逃げられたみたいだね」

 美晴は大きく深呼吸をする。胸が揺れた。


「でも、あれだけの発砲音、誰も気づかないなんておかしくないか?」

 俺と美晴はホッとしながら見つめ合う。


 すると、

「おかしくはないわ。ポテンシャルによって引き起こされる音はポテンシャルフォルダー以外聞こえないわ」


「え?」

 俺は背後を振り返った。


 そこには、銀色の拳銃を握り締める、君島葉月がいた。


「話はあと。あの魔人相手に無事でなによりだけど、用心にこしたことはないわ。人気の多い池袋の繁華街まで逃げるのよ」

 君島はそういうと、俺の手を取り、全速力で走りだした。引っ張られてそのまま走る俺と美晴。


 走っていると、君島の右手に握りしめられていた銀色の拳銃はフワっと消えた。


「君島、今のは?」

「話はあと。今は逃げるのが先決」

「ポテンシャルって何なんだ?」

「しつこい!」


 とにかく、俺らは池袋の繁華街を目指して走り続けた。

 怪しく地上を照らす満月。排気ガスで汚染された空でも星々は煌めいていた。


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