第0章 プロローグ 1.謎の美少女転入生
プロローグ
また何時もの悪夢を私は見る。
夕焼けが赤く焦がす空を見上げながら、ブランコで遊んでいた。隣にいるのは金髪が綺麗な女の子。そろそろ両親がラボから帰ってくる時間。金髪の女の子は淋しげな表情で私を見つめる。
突如、空は巨大な炎の塊で血のように赤く塗り替えられていった。夕焼けよりも赤く空を焦がしてゆく。
太陽が落ちてくる。そんな感覚。
視界が眩しい光に包まれていく。
次の瞬間、両親が働いている巨大なラボが紙細工のように吹き飛び大爆発を起こす。猛烈な爆風が私と金髪の女の子に襲いかかる。ブランコから金網に吹き飛ばされた。
辺りは紅蓮の炎に包み込まれる。芝生も木々もラボの周囲すべてが煉獄の火の海と化した。
炎の中から、黒い外套を纏った人影が私たちの元へ歩み寄ってくる。
歩み寄ってきた男の口元は一文字に閉められていた。
そして男は私たちに語りかける。
「……来るが良い」
男は私たちに手を差し出す。
私は体が硬直して何も言えなかった。心臓の鼓動が激しく鳴り響く。頭が真っ白になった。
しかし、金髪の女の子は、男が差し出した手を取った。
男は金髪の女の子の手を取ると、そのままお姫様を抱えるように両手で抱き抱える。そして背中に茶色い翼をはやして空高く舞い上がった。無数の黒い梟のような形の影が男と女の子を包み込む。そして影は散逸してゆき、男は姿を消した。
紅蓮の炎に包まれた光景を私は声もなく見つめているだけだった。
私が日常の輪から外れた存在となった出来事の悪夢。
1
眩しい朝日が部屋の隅々にまで差し込む。まだ眠い瞼を閉じながら、俺は朝日を避けるように布団の中に逃げ込む。とっくに目覚まし時計のベルの音は鳴り終えている。
俺は朝が弱い。夢か現か判別つかない頭は未だ睡眠を望んでいる。
なんか騒がしいな。誰かが俺の夢の続きの邪魔をする。
「うるさい…… 黙れ……」
喋りたくもない。まだ俺は夢の続きに埋没していたい。誰にも邪魔されたくない。喋るだけで心地よい夢が遠ざかってゆきそうだ。
騒がしい声はいつまで経っても止まない。
「いい加減にしろ…… まだ眠いんだ……」
声のせいで夢がますます遠ざかってゆきそうになる。もう、喋るな。しばらくうるさい声を我慢した。すると再び夢の最深部へ落ちてゆきそうな感覚に陥った。
「いい加減にして! お兄ちゃん!」
叫び声とともに俺は薄地の掛け布団をはぎ取られた。
全身に太陽の日差しが当たる。太陽の匂いがしてくる。夢は完全に途絶えた。
「……俺は、低血圧なんだ……叫ぶな……」
「叫ぶよ! だってお兄ちゃん全然起きないんだもん! まだ新学期始まって間もないんだよ? ただでさえお兄ちゃんはズル休みばっかしているんだから、出席日数足りないと都立いけないんだよ? うちの家計じゃ私立は無理なんだからね!」
……母親が俺に小言する文言をすっかり覚えてやがる。この世話焼き小姑が。
「来年頑張ればいいだけの話だ……」
「その来年泣かないためにも、今のうちからでしょ! 私がいなければお兄ちゃん、絶対朝起きられないよ!」
小うるさい小姑、葵はそういうと、朝ごはん食べるよ、と言い、クルリと小さな体を回して俺の部屋を出て行った。
いい加減起きないと、確かに遅刻か。まだ夢の余韻を残した頭をあげて、ベッドから出た。日差しを体いっぱいに浴びて、ゆっくりと大きく背伸びした。
ダイニングキッチンで葵が朝食の準備にとりかかっていた。父親の仕事は土建屋で、今の現場は都内近郊にあるため、もうとっくに仕事に行っている。母親は朝からスーパーのパートに出かけている。よって、朝の支度は中学一年の葵が担当している。百四十センチほどの小柄で華奢な体格にはさすがに母親のエプロンは大きい。ダブダブのエプロン姿を振りまきながら、セッセと朝食の準備をしていた。
「あ、俺目玉焼きだけでいい」
「またそんなこと言って。ご飯食べないと途中ばてちゃうよ?」
「じゃあ、メザシも一本食べる」
「お味噌汁もね」
食卓に味噌汁を差し出してくる葵。
俺は胃に流し込むように目玉焼きを口に放り込んで、メザシを齧り、味噌汁を飲んだ。
「ちょっと、もっとちゃんと食べてよ」
「だってもう遅刻だろう?」
俺は口を拭い去り、バッグを抱えて玄関へ急いだ。
「あ、ちょっと、まって。私も行くの!」
葵は慌てて、エプロンを解き、パタパタと玄関までやってきた。
「そろそろ兄離れしろって」
「私いないと起きられないじゃん!」
葵は不貞腐れた表情で靴を履く。
玄関を飛び出て、階段を駆け降りる俺。パタパタと音を立てて追いかけてくる葵。
マンションのエントランスを出ると、そこには腐れ縁で幼なじみの片瀬美晴が仁王立ちして待っていた。
美晴は本当に物好きだ。小学校までは一緒に遊んだが、中学に入ってからは一緒に遊ぶことはないにせよ、毎日俺の通学時を待っている。美晴は同じマンションの一階に住んでいる。ちなみにうちは五階で最上階だ。もっとも、直で自宅まで来ないだけマシだけれども。
「おはよぉ。匠。まったく。君はまたあたしに遅刻させたいわけかなぁ?」
美晴が俺を睨めつけてくる。
「だったら先行けよ。みんなに誤解される」
「馬鹿ねぇ。もう手遅れと思うよ?」
美晴は首を傾げて、肩まである栗毛の髪を揺らしながら、両手を腰に当てた。
「俺が嫌なの!」
と言って、俺はまだ締めていなかったシャツのボタンをつける。
「ただでさえ、葵ちゃんみたいな子と一緒に登校しているんだから、カモフラージュにうってつけでしょ? ロリコンなのは真性なんだし。そっちの誤解のほうが痛いんじゃない? ね。葵ちゃん」
美晴は腰に当てていた手を解き、腕組みをした。中学二年生にしては豊満な胸が強調される。
「ふつつか者の兄がいつもご迷惑おかけします」
葵はしおらしく美晴にお辞儀をした。
「……いくぞ。遅刻だろ」
いつものことなので何も言い返せないまま、俺は二人を放って歩き出した。
校門を潜り抜け、遅刻は回避された。そこですかさず美晴に釘を刺す。
「いいか。美晴。門を潜り抜けたら俺から半径三メートル以内近づくなというルールは絶対に破るなよ」
「三秒ルールは適応されますか?」
葵がポツンと小鳥のように呟いた。
「落ちた食べ物じゃないから……」
「ハイハイ。分かっていますよぉ。気をつけますって」
美晴はそういうと小走りで下駄箱へ向かっていった。
「じゃお兄ちゃん、途中で学校抜けだしたらダメだからね!」
俺に注意するとそのまま葵もトコトコとはや走りで下駄箱へ向かった。
俺もそのまま下駄箱へ歩く。
遅刻間際の時間帯なので周囲は慌ただしい。そんな周りを眺めていると、ふと見知らぬ女子と目が合ってしまった。
「え?」
黒く長い髪の少女だった。背は俺より少し低いが女子としては高めで、すっきりした体系。足は長く細い。少し惹かれるところがあったので思わずその容姿に見とれてしまった。
しかし、視線が合った後、冷ややかな態度でそっぽを向いて、廊下のほうへ歩いて行った。
ただ、あの視線は鋭く、冷たくもあり、まるで俺を何かの容疑者を見るかのような様子でもあった。
そんな一瞬の出来事であったが、俺は何故か羨望に似たまなざしでその後ろ姿を見とれてしまった。規定の丈よりも短いスカートの下から見られる脚線美に俺は心を奪われた。美晴の健康的で少しふっくらした脚とは違った。
完全に心を奪われたかもしれない。この胸の高鳴りは一体なんなのだろうか。胸を劈く鼓動が全身に響く。
完全に一目惚れだった。
こんな感覚は初めてだ。胸の鼓動を放置しながら、俺はその女子が歩いて行った先をただ見つめるだけだった。
でもどうせ、あんな美少女に相手にされるわけないよな、と心を切り替えて教室へ向かった。
教室にギリギリで飛び込む。まだ教師は来ておらず、教室は雑談で賑わっていた。
俺が席に着くとほぼ同時に教師がやってきた。そして教室は一時の静寂に包まれる。
教師は教壇につくと、コホンと咳払いをした。すだれ禿げが眩しい。
「えー。新学期になって三日目ですが、本日は転入生を紹介します。さ、どうぞ入って」
担任の教師、田沢がそういうと、教室のドアが開いた。
あ、下駄箱で見かけた女子だ。
その女子が教室へ入り、黒板の前に歩み寄ると、教室中はざわめいた。
「それでは自己紹介お願いします」
教師に促されて、その転入生は姿勢を正した。両手をスカートの前に置き、軽く会釈した。
「君島葉月です。よろしくお願いします」
どことなく冷めた口調であったが、澄んだ透き通る声だった。
前髪は赤いカチューシャで止められ、眉毛まで伸びている。こうして全身を正面からまじまじと見ると、短いスカートと長く細い脚線美が相まって、スタイルの美しさが際立つ。あまり比較したくないけれども、美晴は健康的な標準体型で、出るところは出ているし、腰のくびれも引き締まって、コケティッシュな女の子の魅力がある体型だ。それに対してこの転入生は、胸元は出ているとはとは言い難いけれども、細身で美しく、全身と顔のどのパーツも完璧できめ細かく揃っている。あまり言いたくないが、美晴を可愛いと形容するなら、この君島という女子は、綺麗という形容が似合う。
さっきの初対面の時、鋭い眼光とどこか冷淡な視線を感じたわけだが、実際、俺は一目でこの君島という転入生にどこか惹かれるものを感じた。
教室の男女問わず、ほぼ全員が、君島葉月の一挙一動に注目しているようだ。
「それじゃ、新庄。お前の隣、空いているだろう。そこを君島の席にしようか」
田沢はそう言って、転入生に机の位置を指でさして示した。
はい、と言うと君島葉月という転入生は前を堂々と向いたまま誰にも媚びずに俺のいる席のほうへやってきた。
その一時間目は、俺は君島に気を取られて授業に集中できなかった。終始頬杖を突きながら、右隣の君島の顔を見つめていた。
綺麗だった。もうそれ以外の言葉は見つけられなかった。美晴のパンチラを見るよりも、君島の真っ直ぐな黒い髪の毛を見つめるほうがドキドキした。明らかに校則違反と思われる短いスカートの丈からこぼれる太股も魅力的だった。細くしなやかな脚線美だ。
俺はただボーっと君島を見つめていた。
そんな刹那、君島の黒板を写す手が止まった。そして険しい表情へと変化した。俺は思わずハッとして顔を君島から逸らした。そりゃ、ずっと見つめられたら、気が散るよな、と思いながら、恐る恐るもう一回君島のほうを向こうとした。
そしたら視線が合った。
(う、ヤバ……)
やっぱり見つめていたのはばれていたか。俺は自然と顔が真っ赤になり、そのまま君島の目を見つめた。心臓の鼓動が止まらない。こっちはこんなに苦しいというのに君島は、澄んだ表情で、一瞬、口元に笑みを浮かべ、左手の人差し指を自分の口元に当てた。
え? 彼女、何を言いたいんだ? 一瞬の疑問が俺の脳裏を過るとともに、君島は再び真面目な顔で視線を黒板へ戻していった。
正直、理解できない。初めは今朝下駄箱で出会ったときは、疑い深いような冷たい視線で俺を見つめ、そして今度はからかう様に、にっこりとしつつ人差し指を口元に当ててきた。
彼女が来て最初の休み時間が始まった。
これは即戦力だとみなしたのだろう、うちのクラスの中心的な女子グループが君島の机を取り囲んだ。君島はぼんやりと頬杖を突いてその様子を窺っていた。僕はただその様子を傍から横になりながら眺めていた。
クラスの男子たちも他の女子たちも、その女子グループのファーストコンタクトを見守るかのようにして様子を窺っている。つまり教室全体が今、君島の一挙一動の成り行きを見守っているわけだ。
グループリーダーの女の子が色々と話題を振りまいてゆく。しかしいくら語りかけられようが君島は無反応である。すると、
「相手にしない」
ポツンと君島が呟いた。
「え?」
グループリーダーの女の子が思わず口に出す。
「あなたたちのことよ」
君島は満面の笑みを浮かべて、その女の子を見つめて言い放った。
「ちょ……」
グループリーダーの女子は狼狽した表情となり、言葉に窮した。
一瞬で教室が凍りついた。そのまま女子のグループは物言いたげな表情をしたまま無言で去っていき、再び教室がざわめきだした。
「相手にしないだってよ……」
「お高く止まってやがんな」
「でも美人だぜ?」
「無理無理、お前じゃランク高すぎだって」
「でもちょっと言い方っていうのがあるわよね」
教室はたちまち、君島への悪意に満ちた感想で溢れかえっていった。その様子を何もなかったかのように再び頬杖を突く君島葉月。
俺はその様子に何故か耐えきれなくなって立ち上がり教室の外へ出た。すると、腕組みをしながら美晴がそこに背を壁にして凭れかかったまま立っていた。
「あれは、フォローしようないかな」
美晴が片目を閉じて俺に振る。
「悪意の渦中だよ」
俺はそのまま美晴と向き合い呟いた。
すると今度は君島が教室の外へやってきた。目線が俺らと合う。
「何故こうも簡単に敵を作る?」
俺はすれ違ってゆく君島に対して言わざるを得なかった。いや。聞かざるを得なかった。
「……、それが私のやり方よ」
一瞬訝しげな表情を浮かべたが、その後にっこりと口元に笑みを浮かべてそう言うと君島は長い髪の毛を靡かせながら去っていった。
昼休みになり、俺は一服しに校舎裏へ向かった。
そこは校舎と技術科室と塀で区切られており、一種のたまり場として機能していた。
案の定先客がいた。吉田と横井、そして東条浩平だ。吉田と横井は所謂、橋本グループの連中だ。うちの学年の不良グループで、俺も属している。一方の東条は四月に転入してきたのだが、ルックスもよく、女子受けしやすいのだが、何故か男子からは距離を置かれており、橋本グループにいいようにされている。しかし、何度殴られたり小突かれたり、蹴飛ばされても、現金だけは渡さない。いいようにサンドバックにされる存在だ。
「よう」
俺は気さくに吉田と横井に声をかけた。
「あ、新庄か。何しに来た?」
吉田が東条の襟首を掴みながら呟いた。
「ここに来たってことは、ひとつしかないよな?」
と言い、俺はタバコの箱をポケットから取り出した。一本取り出して口元に咥えた。
この様子だとまた東条はいいようになされるがままだったな。何故逃げたり、抵抗したりしないのだろうか?
「お前らもどう?」
俺はタバコの箱を吉田と横井に差し出した。すまないな、と二人とも言い、タバコをそれぞれ取り出した。それに安物のライターで火を灯してやった。
「で、東条、お前はどう?」
「僕は、吸わないよ」
毅然とした口調で言い放った東条。
「なら、ここはこういう場所だから帰れよ」
俺がそういうと何事もなかったかのようにズボンの土埃を叩いて、東条は無言のまま去っていった。
はじめまして
せいや0079と申します
・正直、自分の作風は古いと感じてます
・無駄に熱いです
・恋愛描写があまりうまくありません
・ただ、バトルシーンに関しては力を注いでいます
・一応パンチラなどのサービスカットもあります
・基本シリアスで進行します
どうか忌憚なきご意見ご感想よろしくお願いします