雨道
気がついたとき、僕は濡れていた。
暗い空から冷たい雨が降り、辺りには色とりどりの円が散らばっている。
「・・・・・・寒い」
僕は歩き始めた。行く宛もなく、ただ気の向くままに
帰りたいという感情は出てこなかった。
それ以前にどこへ帰るのか、まるで最初からなかったかのようにわからなかった。
水溜まりに映る自分の姿は惨めに見え、揺れる水面が自分を映すのを拒んでいるようにさえ思えた。
体が自分を慰めるように震え始め、僕は雨に当たらない場所を探し始める。
しばらく歩くと、少し先に駄菓子屋の屋根が見え、自然と足を速めた。
「いらっしゃい、おやぁずぶ濡れじゃないか。ちょっと待ってね」
駄菓子屋のお婆さんが奥からタオルを取ってきてくれて温かい生姜湯と一緒に差し出してくれる姿を見ていると、自分の震えが止まっていることに気がついた
「あったまるよぅ」
「ありがとうございます。いただきます」
できる限りの笑顔でお礼を言うと、お婆さんもニッコリとした顔でゆっくりと店内に戻っていった
タオルを首から掛け、生姜湯を一口飲み込むと、身体がぽかぽかしてくるような感じがした
濡れた髪を拭きながら、ぼーっと世界を見てみると自分一人がその外にいる感覚に陥った。
人の足並みは皆違うようで、同じ目的を持ち『帰りたい』と物語っていた
僕は今、みんなを見ている。
けど、みんなは僕を見ていない。
優越感のようで、全く逆のような感じがし、虚しくなった僕は歩き出そうとしていたとき
一人の少女がこっちを見て笑っていた
体に合わない大きな赤い傘をさして笑っていた
僕の目は少女を否定した。
僕の頭は少女を肯定する。
少女はゆっくりと右足を前に出す
少女はゆっくりと左足を前に出す
――歩いている
当たり前のことを認識するまでにとても時間がかかった
その間にか、少女は僕の隣に移動していて、憐れむような、嘲るような、ただ純粋な笑顔を向けてきた。
「ねぇ、あなたの話を聞かせて」
傘をくるくると回し、少女は笑う
その目は優しく微笑む
その口は優しく笑う
「僕は――」どこか不気味に思いながらも、僕は語り始める
少女は奇妙でも、悪意は見えなかったからだ
思いのままに言葉を紡ぐと、少女は楽しそうに笑った
「ありがとう。あなたもいろいろ辛いんだね。伝わってきたよ」
「お前にはわからないだろうがな」そう言おうとして、やめた。
少女が笑っていなかったからだ
笑っていた少女はどこか不気味だったが、笑っていない少女は酷く大人びて見えた
「私はあなたじゃないから本当の辛さはわからないよ。けどね『言葉』っていうものがあるんだから、誰かに何かを伝えればいいんだよ。今、私にしたみたいにさ」
少女は笑った
純真無垢な少女のように
空を見上げるといつの間にか雨が止んでいた
いつしか街から赤や黄などの色が消え、黒や灰に身を包んだ人々が足早に動いている
「帰ろう」
そう思った。
隣を見るとそこには赤い傘しかなく、月の光が赤さを強調していた
タオルとコップをお婆さんに返して前を向く。
僕はゆっくりと右足を出す
僕はゆっくりと左足を出す
街という世界の外側にいた僕は今、黒や灰の人々に紛れていく
それぞれの人がそれぞれの道を歩むように
僕もまた、僕の道を歩み始めた
初めまして、読んでいただきありがとうございます。
まだまだ未熟者なので、ご感想、ご指導等いただければ嬉しく思います
ここはこうしたほうがいいよ。
ここはなんでこうしたの?
こんなの絶対おかしいよ!
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