三男坊、VS異世界の魔物
ウィリアムとアーノルドと共に辺りを警戒しながら森を進む。
今朝は脇の果実や魚に気を取られ意識していなかったが、確かに動物の気配がしない。
「アーノルド、タダノブ。あの木を見ろ」
ウィリアムの視線の先には俺の頭の辺り、つまり180センチ弱程の高さで真っ二つに折れた木があった。
「森に迷い込んでくる魔物であの高さの木を折れる力を持った魔物、オーガか」
アーノルドの顔色が変わったその時、甲高い笛の音が聞こえてきた。
「何処かの組が出会ったようだ、オーガが相手なら逃げることも難しい、援護に行くぞ」
ウィリアムとアーノルドを追って笛が鳴った方へと走り出す。
見えた、村人とオーガだ。
オーガは人間より三回りほど大きい枯葉色の巨人だった、その巨人は拳を振りかぶり傷ついた仲間を庇う男にに襲いかかる寸前だ。
「ウィリアムッ」
アーノルドが呼びかけるより先にウィリアムが走りながら矢を番え――――撃つ。
矢は風を切りオーガに刺さる、拳を振り下ろす邪魔はできたが、致命傷には程遠い。
だが、俺にはそれで十分だ。
オーガに矢が刺さり、こちらに注意を向けた瞬間、加速する。
一歩踏み出すごとに確実に速度を上げていく、一歩、一歩、また一歩。
そして最高速に達した俺は、速度を殺さずにオーガの脇腹にバットの根元を当て、すれ違いざまに――――引く。
肉を断つ確かな手ごたえを感じオーガとすれ違い、両の踵でブレーキをかけ、振り返る。
こちらに背を向け、絶叫するオーガの左の脇腹には今しがた俺が付けた切り傷がある
しかし、それもコイツを絶命させるには至らなかったようだ
「ウィリアム、怪我してる奴等を連れて村に戻れ、コイツは俺が引き受ける」
オーガから目を離さずにウィリアムに伝える
「任せても良いのかい、タダノブ」
「コイツを引き留める位何の問題もない、コイツの死体を村に持って帰るのには、人手が必要だな」
ニヤリ、とワイルドに格好よく笑ってやる。
オーガ越しで俺の顔なんぞ見えちゃいないだろうが。
「分かった、なるべく早く戻ってくる、無理はしないでくれ」
ウィリアムとアーノルドそして名も知らぬ男が怪我をした男に肩を貸し遠ざかって行く。
遠ざかるウィリアムたちを追えば、後ろから俺に狩られるということが分かる程度にはこの魔物は賢いようだ
賢くても、俺に狩られるという事実に変化はないが。
オーガが振り向き飛びかかってくる、手負いにしてはかなりの速度だが避けられないほどではない、
飛びかかる巨躯を左側に一歩前へ出て避け、今度は右の脇腹を斬りつけてやる。
両の脇腹を斬られよろめくオーガの腰にバックハンドでグリップを叩き込む。
普通の動物名なら、今ので背骨が折れていてもおかしくないのだが、このオーガという生物、中々にタフなようだ。
怒りに我を忘れてか、それとも至近距離へ入り込まれるのを警戒してか、オーガは左右の手を振り回し向かってくる
駄々っ子なら可愛い仕草だが、こいつは二メートルを超える筋肉の塊だ、洒落にならん。
次々と繰り出される連撃を避け、左側に回り込む、そして伸びきった右手めがけバットを
「――――破ッ」
大上段から振り下ろす。
振り下ろした数拍後、ボトリ、と音がしてオーガの右手が落ちる。
文字通り‘叩き斬る’というやつだ。
そしてオーガの胸を狙い
「――――脆」
突く。
バットで貫かれたオーガは何かを呻きながら息絶えた。
それがオーガの中で意味を成す言葉かどうか俺には分からないが、息絶えた。
それから暫くしてウィリアムとアーノルドが村の男たちを連れてやってきた、このオーガ一匹でかなりの金になるから
明日明後日は害獣狩りはしなくてよい、みたいな事を言っていた。
久しぶりの命のやり取りで酷く疲れた、まだ日は出ているが村に戻ったら少し休ませてもらおう。
バットに斬撃や刺突属性が付きます、ファンタジーだから
走ったまま弓を打つことができます、ファンタジーだから
大弓で小船をぶち抜く武将がいます、残念ながら現実です