三男坊、再び森に入る
川で出合った男、ウィリアムの村への道中、自己紹介がてら様々な話をした。
冒険者という世界中を旅する人とそれの援助をしている組合があるということ
この世界には魔術というものがあること
魔術は才あるものにしか使えず、使えれば平民からでも下級貴族になれるということ
ウィリアムには妻が居て7歳になる娘が居るということ
俺が故郷へ帰るための方法を探していること
ウィリアムは二週に一度村に来る行商人との交渉役のようなことをしていること
その行商人が三日後に来るのでそれについていけば街まで行けるということ
それまでウィリアムの家で厄介になるということ
その代わりに労働力を提供すると申し出たこと
森を抜け、村に着く頃には太陽も上がり始め、暖かくなっていた。
「ようこそ、アートドルフへ、なにも無い所ですし、短い間ですがゆっくりしていってくださいね」
異世界にきて初めて訪れた集落は村だった、絵本や童話で見たような茅葺き屋根のお家と畑、村の中央には広場が有り、その奥に他の家よりも二回りほど
大きい家があった、村長の家だろうか。
「さ、タダノブ、私の家はこちらだ、妻と娘を紹介するよ」
ウィリアムもそうだが、奥さん、エドヴィージェもとても良い人だ、愛する夫が連れてきたからって、金棒をもった見た事のない服を着た男(俺はワイシャツの下に柄物のTシャツを着て下半身はスラックスだった)が朝食の席に突然現れれば、少しは警戒するのではないだろうか、それがこの奥さん
「あらあら、しばらく賑やかになるわね」
だ、この家族の中で俺を警戒しているのは一人娘のジェミーだけだ、警戒というより人見知りの様な気がするが。
ともかくガチンコ漁法で手に入れた魚はエドヴィージュの手により塩焼きになって俺たちの胃に収まった、美味しかった。
働かざる者食うべからず、すなわち食ったからには働かねばなるまい。
「さて、ウィリアム。行商人が来るまでタダ飯を食い続ける訳にはいかない。知っての通り、魚なら何匹でも取ってこれるし、力と体力には
自信がある、俺に出来る事なら何でも言ってくれ。」
「タダノブの金棒は武器なんだよね? それじゃ、村の人たちと一緒に害獣狩りを手伝ってもらおうかな。」
アートドルフでは麦の何割かを税に、残りを自分たちの食用であるとか町への輸出用に使っているらしい。
その麦だが、種を撒いてから収穫するまで、ほぼ全ての期間その実や茎を害獣(純粋な獣だけでなく下等な魔物も含めるらしい)に狙われていているらしい。
そのため定期的に森へ入り害獣の数を減らしており、害獣の毛皮であるとか肉、牙などは行商人にそれなりの値段で売れるらしい、
麦を守れて収入にもなる、害獣狩りは一粒で二度美味しいのだ。
弓を持ったウィリアムと共に村の広場まで行く、広場には弓や槍をもった若い男たちが集まっており真剣な表情で何かを話し合っている。
その話しの中心にいる男にウィリアムが声をかける
「アーノルド、何かあったのか?」
アーノルドと呼ばれた男が応える
「ウィリアムか、そっちの男は誰だ?」
俺はウィリアムの世話になっている冒険者で今日の害獣狩りに参加するつもりだ、ということを伝える
「冒険者か、都合が良いときに来てくれた。実は森が妙に静かなんだ」
そういえば、こちら側に迷い込んできた時には小鳥のさえずりや、小動物の姿を見かけたが、夜に休憩したとき、そして今朝ウィリアムと出会った時には鳥も動物も見かけなかった。そのことをアーノルドに伝え、森が静かな事の何が問題なのか尋ねる。
「本来のこの森は、俺たちが狩っている害獣の他にも多数の動物や魔物がすんでいる。それらの姿が見えないということは今朝、タダノブの言っていた事が本当ならば昨日の夜からこの森に住む魔物より格段に強い魔物が森に迷い込んできた可能性が高い。」
この森に住む魔物は魔物の中でも動物に近いらしく、自分よりも強い生物の気配を感じると隠れるのだ、とウィリアムが補足してくれた。
「しかしそれなら森に入る必要はないだろう、害獣は麦を食べに来ないんだろ。何が問題なんだ」
俺の頭に浮かんだ疑問にウィリアムが答える
「害獣は問題無いんだけどね、その迷い込んできた魔物が問題なんだ、私たちで狩れる魔物ならば良いけれど手に負えなかったら。
危険な魔物が老人や女、子どものいる村に降りて来るかもしれない、組合に連絡して冒険者を派遣してもらいたいんだけど、もし今すぐ魔物がやってきたらとても間に合わないよ。」
森がどの程度の大きさか分からないが、俺が半日ほど歩けばこの村にたどり着くのだ、その強い魔物とやらがいつ村にやってきてもおかしくない
だろう。
「二、三人の少人数に分かれ森を探索する、魔物を発見することを第一として、無理に戦おうとはするな、危なく鳴ったら猟笛を吹け」
アーノルドの言葉で村の男たちが散り散りに森に入って行く、俺はウィリアムとアーノルドと三人で行動することになった。
どうでもよい話ですが霧崎四兄弟の名前は上から
仁義
礼智
忠信
考悌
です。