奥山人見と死んだ幼馴染 ∼恩田ミコじゃホラーになりえない∼
こののべ かたな と申します
15歳になったばかりの初めての冬。
幼馴染であった恩田ミコが亡くなった。
自殺や他殺を肯定するようなものはなく、自室で眠るように亡くなっていたらしい。
彼女を愛する周囲が悲歎に暮れるなか、僕にぶつかりたいんじゃないかと思えるようなタイミングで彼女は僕の目の前に現れた。
「人見くん、どうしよう?あたし死んじゃったみたい」
生前と何ら変わらない姿で、彼女はそう言い放った。
僕はいわゆる『見える人』であった。
これは僕こと奥山人見が、死んだはずの奥山ミコと共に暮らした短い日々を綴った物語である。
とある朝。
僕はコンビニに入る。
軽く口にできるものを購入したかった。
何気なく利用しているが、コンビニの使い勝手の良さにはいつも感心してしまう。
僕は異世界転生したら必ずコンビニを作ると決めている。
気持ちレベルは「何としても」だ。
「あたしも何か買っていい?」
「だめ。ミコがお腹空くのはおかしい」
「おかしくないもん。私、人見くんにしか見えないだけで他は生きている人と変わらないよ」
ミコは顔を近づけながらそう反論した。
そうなのだ。
ミコは僕にしか見えないだけで、お腹も空くし、物に触れることもできる。
本当に幽霊なのかと疑ってしまう。
こんなケースは今までなかった。それともなかっただけか。
「ミコは成仏することだけ考えてなよ」
素っ気なく答えた僕に、
「人見くんの意地悪」
と拗ねるような様子を見せるミコ。
「意地悪で結構」
チョコチップクッキーを手に取った僕がレジに向かおうとした時だ。
「人見くん!」
「どうしたの」
「クッキーは割れるものだし、ボールは跳ねるものだよ」
「何が言いたいのさ」
意味が分からない。
「私はサンドイッチの具なんて気にしないよ」
意味が分かった。サンドイッチが欲しいのかよ。
遠回しにも程がある。
きっと気持ちレベルは「何としても」なんだろう。
苦笑いを浮かべてしまった僕。
何か楽しいから、もう奢ってやった。
とある放課後。
部活をやっていない僕は、今日もスルスルと下校する。
両親は仕事が忙しいため、夕食の準備は自然と僕が受け持つことが多くなった。
しかし献立を毎日考えるのは面倒くさい。
僕が夕食は自炊しようか出来合いのものを買ってくるかで迷っていると
「得意だから任せて」とミコが謎の発言を。
「料理ってできたっけ。そんなイメージなかったけど」
「人見くんは私の事を知らなすぎるよ。私の調理レベルはSクラスなんだから」
「それは知らなかった」僕は棒読む。
「僕の鑑定レベルはスモールクラスだね。じゃあ買ってくるね」
「スルーしないでよ。本当に得意なんだってば」
引き留めるミコ。
「何作ろっかな」
ミコは嬉しそうに冷蔵庫の中を覗いているが、僕には大した材料があるとは思えなかった。
錬金術じゃあるまいし。
目ぼしいのはジャガイモと豆腐くらいか。
ミコは調理の邪魔だからと僕を居間に追いやった。
1時間後、ミコが僕を食卓に呼ぶ。
「グラタン・ドフィノワだよ」
バターの香りが鼻腔をつき、マカロニが入っているのが見えた。
「豆腐のティラミスだよ」
無言にもなる。
錬金術かよ。思ってもいなかったようなものが出てきた。明らかに家になかった材料まで入っているぞ。
それにドフィノワって聞いたことはあるけど、どんなものかは知らなかったよ。
「ほら早く感想を聞かせて。大切なのは味だし」
ものは試しと一口食べて、思わず僕は顔を上げることになった。
ミコのドヤ顔が目の前にある。
5分後、僕のお皿は綺麗に空になっていた。
ちなみに家になかった食品に関しては「できる女は秘密を持つものなのよ」と教えてくれなかった。
あまり深く考えない方がいい。
だってミコなのだから。
とある風呂上がり。
「ふぇ~タオルがふかふか」
お風呂から上がったばかりのミコは僕のベッドの上で寛いでいた。
着ているものもパジャマに変わっている。
幽体というのは、そのあたりが大変便利だと思えた。
胸元を開けて着崩しているのは意図してのことだろう。
はっきり言って、僕も型通りに男だ。
実際そんな目のやり場に困りながらも、気にしていない風を装うための僕は日課の柔軟運動を行っていた。
ミコが不思議そうに尋ねてくる。
「人見くんはいつも何かしら身体を動かしているよね」
「帰宅部だからね」
気にしない風継続。
「普通、逆なんじゃないの」
「小さい頃からの習慣なんだよ。いざって時にすぐ身体が思い通りに動くことって大事だとは思うし」
だから気にしない。
「ふ~ん」
くそっ!気になんて
「興味あるんだったら一緒にやってみる?」
僕の理性はミコの胸元に負けた。
「教えてくれるの?」
身体を乗り出し、嬉しそうにミコは答えた。
一度敗北を認めてしまえば後は勝利のために突き進むのみ。
僕は両手を背中の後ろで組んで、身体の軸を作るストレッチを教えてあげた。
エッチじゃないのにエッチになるポーズだ。
そのはずだった。
「何か身体がむぎゅむぎゅしそうだから」
ミコがいつもの装いに戻って、始めようとする。
確信犯だった。
僕は誘い出されたのだ。
「やっぱり自然体が一番だね」
ミコがニヤニヤしながら言う。
「僕の拳は今、人の血に飢えている」
今さらだがミコは自他共に認めるカワイイだ。
自分の容姿を少なからず自覚しているのが腹立つ。
二度の敗北を認めることのできない僕は、ここで一年に一回あるかないかの饒舌さでミコの説得を試みた。
しかし
「明日できることは今日やらないんだもん」
内心はニヤニヤしているはずのミコは素っ気なく答えた。
それからしばらくの間、僕の呼び名はムッツリさんになったのはまた別の話である。




