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視点が重要である理由
小説において視点が重要なのは、技術的な理由ではない。
登場人物に感情移入させ、読者の共感を得るためである。
読者は物語そのものに共感するのではない。
物語の中にいる誰かの視点を通して、出来事を体験することで共感する。
視点が定まっていなければ、読者は立つ場所を失う。
視点が安定している小説では、読者は一人の登場人物と同じ情報しか持たない。
だからこそ、その人物の判断に迷い、その感情に巻き込まれる。
これは感情移入の基本構造である。
逆に視点が揺れると、共感は分断される。
誰の感情を追えばいいのか分からなくなり、読者は物語から一歩引いてしまう。
物語は「読むもの」から「眺めるもの」に変わる。
文学賞狙いの小説では、複雑な構成よりも、視点の一貫性が重視される。
それは、共感の持続が作品の評価に直結するからである。
視点とは、単なる語りの位置ではない。
どの人物の恐れを恐れと感じ、どの選択を切実なものとして描くか、その覚悟の表明である。
登場人物に感情移入させ、共感を得ること。
そのためにこそ、視点は重要なのである。




