08.帰路を焚く
仲間が眠りについた時、このまま目が覚めない恐怖を感じた。
うつらうつらと頭が揺れるが、自分も一緒に眠る事はできずにいた。
頭が後ろに傾き、コテっと倒れる。
目だけは絶対に閉じないと斜め上を見上げて気力で耐えていた時、目に何かが入って痛みが走った。
こめかみから流れた血が、視界を赤に染める。
吹き飛ぶように眠気は覚め、異物を追い出そうと自然に涙がボロボロと溢れる。
そんな中、意識の戻らないもう1人の仲間が視界に入った。
この瞬間に流れた涙は、何の涙だろうか。
血が入って痛いから。
救えない悔しさから。
どっちもだろう。
深いため息が漏れる。
下を向いていると肩が震えてきた。
仲間を見つけた時の安堵と同時に、瀕死でいた事の衝撃が大きすぎた。
このまま1人であれば、仲間を見つけるためだけにひたすら歩みを進めていただろう。
これだけの重傷を負っているのに、一緒に生きて帰る事は出来るだろうか。
もし、それが叶わなかったら?
今眠っているのに、そのまま目を覚まさなかったらと考えてしまい、耐え難いほどの恐怖に襲われた。
流れる血と涙を乱暴に拭う。
たとえ2人とも命を落としたとしても、置いて進む勇気を持てる気がしない。
孤独に沈む中で出会ってしまったのだから。
感情が溢れ、意識のない仲間の肩を掴む。
ギュッと力を込め、目を覚ませと大声を出してしまう。
血も、汗も、涙も、ポタポタとだらしなく流しながら縋る。
ひとしきり泣き続けて我に帰った時、顔が色んなものでベタベタになっている事に気がつく。
乾いた部分が痒い。
濡らした布で拭き、眠っている様子を見る。
大丈夫だ、生きていると安堵し、ゴクゴクと水を飲んだ。
気づかない内に風は収まり、静かな夜が訪れている。
焚き火から何かがバチっと爆ぜ、仲間の元へ飛んでいく。
髪が焦げてしまったが、顔への直撃は避け余計な火傷を負わさずに済んだ。
木の枝で払い飛ばそうとした時、ゆっくりと目を開く瞬間を目撃した。
それは、意識がなくとも諦められなかった仲間だ。
思わぬ事態に動きが止まってしまう。
またバチッと爆ぜた時、目を見開いて顔を覗き込む。
目が合い、意識が戻ったのだと嬉しさに唇を噛む。
握った手は弱い力だが握り返された。
2人を介抱している内に夜も明けてくる。
パチパチ燃える焚き火を眺めながら、これからどう3人で進んでいくかを考え始めた。
立ち上がる事ができない男2人を担ぐ事は厳しい。
無理に進まず、休ませるべきだろう。
だが、その間の風に晒されっ放しの環境や、衛生的な治療道具がない事は大問題だ。
ほっとした事で忘れていた痛みが身体を走り、更に重なる疲労と眠気で最適解を導き出す事ができない。
それでも、全員で生きて隊と落ち合うか、街へ辿り着かなくてはならない事はしっかりと頭にある。
まだ気が抜ける状況ではないが、皆で生きて帰りたい。
自分が2人を率いなければならない重い責任感が、心を強く焚きつける。
静かな夜更けに柔和な火の音を立てていた焚き火が小さくなった事を感じ、新しい枝を火にくべた。




