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07.水鏡の処方箋

先ほどの川の水のように冷たく、ひんやりと暖かい自分の手のひらから熱が奪われていく。

胸が締め付けられ、グッと力がこもる。


その時、カサっとした妙な感触を仲間の手を超えて感じた。

不思議に思い力を解いて確認をすると、ぐしゃぐしゃに丸められた紙が現れた。

これは何だろうと、丁寧に腕を下ろして丸まった紙を広げる。






『絶対に迎えに来る。

見捨てない。生きろ。』






血で書いたのだろう。

赤黒く重ねて書き継いだような文字だった。

しかし、それは紙いっぱいに大きく力強く書かれていた。


顔を上げ、改めて2人の姿を見る。

負傷していたのは自分だけではなく、隊も大きな被害が出ていたのか。

瀕死の仲間を担いで帰る余裕も無かったのか。

『見捨てない』の文字に、置いていく選択をした他の仲間たちを責める感情はなかった。

ただ涙が溢れる。


顔をパンと叩き、2人の肩を優しく揺らすが反応はない。

間に合って欲しいと、身体を寝かせて呼吸確認する。

胸は動いているのだろうか、今の自分の目ではしっかりと確認ができなかった。


心臓の音を聞くため、胸に耳を当てた。

しかし、さっきまで無風だったくせに風に揺れる葉音や鳥の囀りが邪魔をする。


怒りが募り、思わず拳で地面を殴る。

痛みで我に帰り汗を拭った時、何かにズボンの裾を掴まれた。


ハッと見ると、それは弱々しくこちらを見つめる仲間だった。

一瞬で怒りの感情は吹き飛び、視線を重ねる。

ヒヤリとした手は変わらないが、確かにこちらの手を握り返す。


だが、まだ全てを喜ぶことはできない。

まだ1人、横たわったままの仲間がいる。

焦って同じく呼吸を確認しようとし、これでは無理なのだと胸の音を聞く。


まだ心臓は動いてくれているのか、汗を流しながら全神経を集中させる。

自分の唾を飲み込む音すらも鼓動に思えてしまう。


そんな自分を嘲笑うかのように更に強まる風。

ゆっくりと目を閉じ、胸から頭を離す。

風で乱れた髪を整えて、そのまま頬へ手を滑らせた。


血を流しすぎたのだろうか。

複数ある深い切り傷を見て考える。


目を覚ました仲間も放置はできないと、動こうとしている所を静止する。

自分よりは焼けて破れていない制服を一部使って、念の為に巻きつけ止血を行う。


お礼を言おうとする事すらも止めて、少しでも体力を奪われることはしないよう優しく問いかける。


介抱をしているうちに、気づけば夜が訪れる空色となっていた。

こんなに暑くても体の冷えた仲間がいる。

急いで身体を温めなければと、自分の疲労は無視して火を起こした。


意識を取り戻したからと言って安心はできない。

ここからの急変も十分にあり得る状況だ。

それでも、仲間と出会うことのできた喜びでひたすら働く。


元は服だった粗末な布を川で濡らし、顔を拭く。

持ち物から入れ物になりそうな物を見つけ、増水した川に水を汲みにいく。

水位が上がってきて若干濁っているものの、濾せば飲めそうだ。


何かで知っていた濾過の工程の記憶を絞り出す。

死なせる訳には行かないと、必死で介抱を続けて行く。

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