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38.混沌に誘われ①

ニール、ヴァロン、ジェムのいつもの3人の中にノウマスが加わった初めての任務。

至急との通達で、昨日話をされたばかりだが出発のために制服に着替えて行く。


それにしても、昨晩のあの頭が割れるような頭痛は何だったのだろうか。

気づけば眠っており、目が覚めると嘘のように痛みは消え去って体はピンピンとしていた。

むしろ、いつもより調子が良いのではと感じるほどだ。


そして、今回は4人でまた悪魔の教会へ向かうことになっている。

その理由は、今まで悪魔が人目につくような能力の使い方はしてこなかったためだ。

白昼堂々、それも兵士に能力をかけるなど今までになかった事態だ。


教会が壊滅し、悪魔側でも何かを仕掛けるつもりなのでは無いかと軍の上層部でも警戒が強まって、やられる前にやらなくてはと攻撃体制に移行しているらしい。


同じく教会の方面へ向かうが、前回と違うのはアルマの捜索でも瓦礫を漁ることでも無い。

悪魔の動向を探るべく偵察を行うことだ。

別のルートからも他の部隊が出るらしく、事態の深刻さが窺える。


「準備はどう?

そろそろ出る時間になるよ。」


「ああ、問題ないぞ。」


「僕も大丈夫。

行こっか。」


悪魔を発見次第、討伐するようにとの指示も受けている今回の任務は、緊張から自然と口数が少なくなり声色も低くなる。


「おい!準備はできたか?」


そんな静けさを破るように、ノック音と明るい声が室内に響いた。

待ちきれなかったノウマスが、走って迎えに来たと歯を見せて笑っている。

全身に力が入っていた緊張が少し緩んだ瞬間だった。


程よく力の抜けた顔で4人の視線を交わし、あの場所へ向かって家を出た。





---------------






たった数回ではあるが、気づけば歩き慣れたように感じる道のりを進んでいく。

大きな疲労を感じる事もなく崩壊した教会へ辿り着くと、すぐに違和感を覚えた。


身を潜めながら観察をすると、辺り一面にも散らばっていた瓦礫が撤去されて周辺が綺麗になっている。

違和感の正体とはこれだ。


未だに悪魔はここへ訪れているのだろう。

ならば、そう遠くない場所に新たな拠点があるはずだ。

そこを突き止める事ができれば、新たな作戦を結構する事ができる。


「…ニール、あれ見て。」


「何だ?………あっ」


ノウマスが小声で話しかけ、指を刺して視線を誘導する。

そして見えたものは、瓦礫をどこかへ運び出そうとしている悪魔だった。


今すぐにでもあの悪魔を切り殺してしまいたいが、今は耐えなくてはいけない場面だ。

あの悪魔の後を追い、新たな拠点を突き止めなければならない。


飛び出したい気持ちをグッと堪え、音を立てないようゆっくりと後を追う。

先へ進みながら二手に分かれ、お互いの様子を確認しながら息を潜めて悪魔の行く先を見守る。


しかし、そんな隠密行動が一瞬で戦闘に変わってしまった。




「忌まわしき悪魔を殺せー!!!」




前方から大きな声が聞こえたかと思うと、木の陰から兵士が飛び出してきた。

突然の出来事に悪魔も含めた全員の動きがピタッと止まる。


ハッとし動き出そうとした時には遅く、兵士が悪魔に向かって剣を振りかざす。


「「やめろ!!!」」


誰かと叫ぶ声が重なる。

その声の主は固まっている悪魔を守るように駆け寄って飛び込むと、血飛沫をあげて背中に大きな刃の跡を刻む。


「人間だ!!!人間がいるぞ!!!」


「すでに1人やられてる!!急げ!!!」


騒がしさに周りにいた悪魔が気づき、こちらへ向かってくる。

こちらは4人、そして仲間の部隊も4人、相手の悪魔は3人。

数ではこちらが圧倒的に有利だ。


「俺たちも行くぞニール!!」


「よし、僕は後方から援護するよ!」


人間と悪魔が剣を交え、静かな森の中に似合わぬ音が響き渡る。

どれだけ数でこちらが有利でも、悪魔は非常に恐ろしい能力を持っている限り油断はできない。


「ダメだノウマス!!目を見るな!!」


「くそっ…」


剣を弾かれ体制を崩した悪魔にノウマスが切り掛かるが、それが罠だった。

振りかぶった腕の間から覗く顔に視線を合わせられ、一瞬ノアマスの動きが止またかと思うと、次は仲間に向かってその剣を振るう。


仲間の部隊へ向かって一直線に走り、縦横無尽に剣を振り回し暴れる姿は普段の笑顔が眩しいノウマスとは全くの別人だ。


「ジェム!!そっちに行ったぞ!」


「うわっ

嘘でしょ!?」


「ニール!!!頼む!!!」


ひたすらに走り回って剣を振り回すノウマスだったが、ギラギラと光る赤い目でジェムを捕らえ一気に走り出した。


キイイィィンと剣が重なる甲高い音が耳をつんざき、ノウマスの重い一撃を受け止める。


「くっそ…ノウマス覚えてろよ…」


プルプルと震えるジェムの腕では、いつまで耐えられるか分からない。

そして、今の状態では先を読む事もできず突拍子のない動きに対応できるのかが問題だ。


「ジェム!負けるなよ!!」


大声で呼びかけると、若干押されていた姿勢がピンと伸びて力が入るのが分かった。

ノウマスに怪我をさせたくはないが、とにかく動きを封じて元凶の悪魔を倒さなくてはいけない。


ジェムの元へ駆け寄り、のしかかるように剣を押し付けているノウマスの足を払った。

よろけて体制を崩した瞬間を見逃さず、ヴァロンが地面に組み伏せる事に成功する。


しかし、抜け出そうとする力は凄まじいようで歯を食いしばりながら押さえつけている様子を見ると、長く耐える事は難しいだろう。


ノウマスに能力をかけた悪魔はどこにいる。

他の部隊も必死で戦っている状況で、ノウマスとそれを押さえるヴァロンで2人も戦力が削がれている事は非常に辛い。


「いたぞ!!あいつだ!!」


声の先を辿ると、物陰から様子を伺う悪魔の姿が見えた。

存在に気づかれると、焦った顔をして背を向けて走り去っていく。


「ジェム!!!」


「うん、分かってるよー!」


指示をするまでも無く、逃げる悪魔に素早く狙いを定めている。

少しの弛みもなくピンと張り詰めた弓から目に見えない速さで矢が放たれると、走っていた影は地面に向かって倒れる瞬間が見えた。


「ダメだ、逃げるぞ!」


「くそっ…

ただの餌の分際で…」


倒れた悪魔の元へ向かおうとしていた時、劣勢に追い込まれた悪魔が隙をついて逃げ出し始めた。

しかし、それぞれを追いかけようと散り散りになりそうな部隊を見た兵士が止める。


「やめろ!!全員止まれ!!!」


「は!?

今がチャンスでしょう!!」


「ここでバラバラになってどうする。

追いかけた先にまた悪魔がいたら死ぬだけだ。

1人で殺されて操り人形にされたら?

俺たちは気づけず、この森の中で全滅だろうな。」


「あっ…」


「そもそも、ここは尾行が正解の場面だった。

悪魔の新しい根城を発見できたかもしれない。」


「……すみませんでした…」


「2度と勝手な真似はしないでくれ。

今回の隊長は俺だ。」


そう、今回は尾行するべきだった。

まさか仲間が悪魔の前に飛び出すとは思わず、ノウマスが能力にかけられてしまっている。


「おっと、すまない。

ニール達へ言っているわけじゃないからな。

だが、今回みたいに有事の際は協力してくれると嬉しい。」


「ああ、もちろんだよ。

まず、俺たちは弓で仕留めた悪魔をやってくる。

また合流しよう。」


「頼んだぞ。」


仲間を背に先ほどの悪魔の元へ向かって行くと、地面に血溜まりを作っており、ツンと鉄の匂いが鼻をつく。

しかし、そこに悪魔の姿はなく血溜まりがそこにいた事を示しているだけだった。


確かに漏れ出す命の跡を追っていくと、肩口から絶え間なく血が溢れ力なく倒れている悪魔がいた。


自分たちと何ら変わらない肉体があり、同じ言葉を話すのに生き方が違う悪魔。

なぜ人間を食わねば生きて行けないのだろうか。


あまりの見た目の違いのなさに、一瞬躊躇いを感じてしまった。

しかし、目の前にいるのは人を餌とし、都合のいい駒とする忌まわしい悪魔だ。


「ニール?」


「……」


こちらを呼ぶ声に気付いてはいたものの、返事をせず背中から心臓目掛けて剣を突き刺した。

どんどんと広がっていく血溜まりは、次第に足元にまで達そうとしている。


「行こうか。」


「うん、そうだね。

ヴァロンの所に急がなきゃ。」


悪魔を倒したはずなのに両手を挙げて喜べない思いを感じながら、来た道を引き返して行く。

果たして、ノウマスの能力は解けているのだろうか。


「お、無事に帰ったか。」


「ニール!ジェム!

本当にすまなかった…まさか悪魔の能力にかかるとは…」


ピンピンとした2人の出迎えにやっと笑が溢れた。

ちゃんとノウマスの能力も解けたようで、とても小さくなって反省をしている。


周囲からは変な空気も感じず、悪魔は完全に去っていったのだろう。

場所を変えて休息を取り、また動き出さなければ…


荒れた地面、その上に落ちる鉄臭い血や表面に傷のできた木が悪魔との戦いの跡を残している。

ここに安全な場所などないのかもしれないが、少しでも休める場所を求めて歩き出した。

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