36.逆さまの明暗①
3人であらためて本部を訪ね、サリと共にアルマの状況について整理をしていた。
これからどう動くべきか、何をするべきか、考えなくてはいけない事が山ほどある。
「悪魔はアルマを利用して人間を襲う可能性がありますよね…」
「ああ、今考えられる一番恐ろしい事態だろう。
アルマは警戒任務でよく街に出向いていたから、顔を知っている市民も多いはずだ。」
「顔が知られているからこそ、悪魔に操られて街に出没したとしても誰も気づくことができない…」
「だから恐ろしいのだ。
普段の勤務態度でも、物腰柔らかく人々と接しているとの記録もある。
誰にも警戒されない立ち位置だろう。」
奇襲作戦の後も悪魔の被害は発生している状況だ。
もしかしたら、その中にアルマが関わっている物もあるかもしれない。
そして、悪魔による被害の特徴であるものの1つとして、目撃者は襲われた本人のみ。
戦う術を持たないただの人間が悪魔と遭遇すれば、都合よく操られるか食われるかのどちらかだ。
今起こっている被害の中にアルマが関わっているものがあるかなど分からない状況で闇雲に探したところで、まず見つけることはできないだろう。
悪魔自身も危険を冒して襲いに来ている中、森で出会した時のように簡単に我々に姿を見つけられるようなヘマはしない。
こちらから悪魔の根城へ出向き、直接対決をするしかないだろうか。
だんだんと言葉数が減り、シンとした時間が多くなりはじめていく。
そんな沈黙を破ったのは、慌ててドアを叩く大きな音だった。
「サ、サリ軍隊長…!!
ニックが…ニックが…!!」
こちらの返事も待たず、息を切らしながら部屋の中へ飛び込んできた兵士。
ニックと名前を繰り返し、非常に焦っていて自分自身もこちらも何が怒っているのか状況が飲み込めない。
「まずは落ち着ちつけ!
焦るのは分かるが、正確な状況報告をする事も兵士の勤めだ。」
「は、はいっ!!」
額から流れる汗を拭い、グッと焦りを飲み込む。
しっかりとサリの方向を向くと、状況を告げた。
「警戒任務に従事しておりましたレオです!
突如ニッ……同僚が暴れ出し、手がつけられない状況になってしまい…
現在は応援が対処しており、至急現場の確認と対処をお願いします!」
「承知した。
すぐに向かおう。」
「俺たちも行かせてください!
人手は多い方がいいでしょう。」
「ニール…!
みんな頼むよ!ニックが大変なんだ!」
全員でニックと呼ばれる兵士の元へ走って向かう。
現場へ到着して見えた光景は、ニックは仲間へ向かって剣を振り回している姿だった。
型も何もなく、力任せに振り回し飛び掛かる姿は兵士になど見えない。
「ニック!!お前は何をしているのか分かっているのか!!」
サリが大声で詰め寄るが、ニックにその声は届いていないように見えた。
焦点が合わない目は深い赤に染まり、サリへ向かって闇雲に剣を振り切り付けようとしている。
「くそっ…
悪魔の仕業だろうな。」
「あ、悪魔ですか!?!?」
「ああ、君はこのような状態の人間を見るのは初めてか?」
「は、はい。
まだ街中の警戒任務しか受け持った事がなく…」
「そうか、よく見ておけ。
これが悪魔の能力の1つだ。
街のどこかに悪魔がいて、目が合ったせいでこうなっている。」
「じゃあ、もうニックは…」
「安心しろ。
殺されて操られでもしない限り元に戻る。
目があって思考を奪われるのは一時的なものだ。」
「よかった…」
「気を抜くなよレオ。
まずは捕えて動きを封じるぞ。」
「はい!」
周囲にいた市民たちを遠ざけようとするも、怖いもの見たさに群がる野次馬が邪魔をする。
しかし、市民を守るのも我々の勤めである以上、安全な場を作るために人員が割かれてしまう。
そんな状況など関係のないニックは気持ちの悪いほどに赤い目だこちらを捉え、一直線に切り掛かる。
どうにか受け止める事ができるも、限度のない力にどんどん押し込まれていく。
「ニール!そのままでいろ!」
サリの声が聞こえ、歯を食いしばり負けじと力を込める。
しかし、急にニックが離れたせいで行き場のなくなった力が空を切った。
「くそっ!」
突然の動きに、ポンメルで打ち付けようとしていたサリの攻撃の威力がが半減してしまう。
その隙を狙って、ニックがサリヘ剣を振りかざした。
「避けてください!!」
必死に駆け寄るヴァロンとジェムだが、惜しくもニックの方が早かった。
しかし、体制を立て直したニールがサリの体を力いっぱい押して剣から遠ざける。
ニックが振り下ろした剣の刃はサリの方へ食い込み、走ってきたヴァロンによって地面に押さえ付けられる。
飛び散る血が顔にポツポツと当たる感触が気持ちが悪いほど鮮明に伝わってきた。
口の中にまで入ってきた血は鉄の味がして自然と顔がグッと歪み、思わず吐き出すと地面に赤いシミがじわじわと広がって染み込んでいく。
「サリ軍隊長、大丈夫ですか!?」
「すまない、このままではニールに当たると思って一瞬力を抜いてしまった。」
切られた制服から血が滲み、赤黒いシミを作っていた。
そして、ヴァロワに捉えられたニックはアルマの時のようにただひたすらに暴れて脱れようとする姿と重なる。
「ニックを捕らえろ!」
サリの号令とともに一斉に動き出しニックの手足を縛り拘束していく。
ざわざわと騒がしく囲み、ニヤニヤとしながらニックを見ようと覗き込む市民を仲間たちが怒鳴り飛ばし遠ざける。
「いい加減にしろ!!これは見せ物じゃないぞ!!」
「なに偉そうな口聞いてんだ!
悪魔にやられた情け無え兵士の面を見てやろうとしたんだろうが!」
「っ!
この野郎!!」
「兵士が俺をやんのか!?
市民を殴るのか?切るのか?」
「っ……」
「やめなさい。
今はやるべき事があるだろう。」
サリが静かに語りかけその場を収める。
そうだ、今はニックを本部へ連れて行き能力が解けるまで隔離をしなくてはいけない。
市民との口喧嘩に時間を割くのは無駄だ。
「よく聞いてください!
見ての通り、我が軍の兵士が悪魔の能力により我々へ攻撃を仕掛けてきました。
これは、悪魔と目が合い思考を奪われたためのもの。
今1番重要なことは、この街に悪魔が紛れ込み兵士へ能力を使ったということです。
どこかに悪魔がいます。
すぐにこの場を離れ、家へ帰り絶対に施錠を忘れないでください!」
サリが野次馬の市民達へ状況を伝えると、更にザワザワと話す声が大きくなるが、1人また1人と減っていき人だからは小さくなっていった。
「早急に警備を増やさなくてはならない。
すぐに本部へ戻るぞ。」
縛られてもなお体をよじって暴れるニックを担ぎ、本部へ向かって急ぎ足を進めた。




