35.憎しみも棄て置いて②
必死の形相で門の前へ現れた3人を見て、門番が驚愕していた。
しかし、その様子から何かあったのだろうと察し、手早く手続をしていく。
出発前はあれだけ思いを込めていた任務許可証をサッと受け取り、印を確認することも無く本部へ向かって急ぐ。
今は出発時の思いよりも、アルマの事で頭がいっぱいで余裕がなかった。
「…何かあったようだな。」
3人の姿を見て顔をしかめたサリが誰よりも早く口を開いた。
それもそうだ。
帰路では簡単な仮眠をとるだけで、少しでも早く帰ろうと歩き続けて足元は砂埃や汚れで煤けていた。
明らかに報告に訪れるような身なりではなく、息を切らし余裕のなさが伺える。
アルマへ頭突きをして額から血を流れた血を拭っただけで手当てもしていないヴァロンもいる。
どこからどう見ても慌てていることは一目瞭然だろう。
「…至急のご報告があり、このような状態で参りましたことをお詫びいたします。
とにかく早くお伝えしなくてはと…」
「いい。
構わない。
それで、何があった?」
「はい…
任務通り、教会へ足を運び残置物などの捜索をしておりました。
結果、教会には目ぼしいものはなく、爆風で飛ばされていることも考えて少し離れた場所でも捜索を続行しました。
そして、その時に…」
あの時のアルマの顔が思い浮かぶ。
俺の目を見ていたはずなのに視界に俺は入っていないような…
そのまま突き抜けて、むしろ何も見ていないのではと感じる異様な視線。
ヴァロンの体当たりも、頭突きを食らっても怯みもしなかった。
どう考えても、あれはやはり…
「その時…
行方不明となっているアルマを発見しました。」
「…っ!」
アルマを発見したと伝えた瞬間、サリの目が大きく開いた。
大きな声を出したり、詳細を問い詰めようとする素振りは一切なく、驚き唇を噛み締めている。
「…アルマを発見する事はできましたが、こちらに攻撃を仕掛けヴァロンが負傷しています。」
「い、生きていたのか…?」
「…生きていたとは違うかもしれません。」
「それは……っ
そうか…悪魔か…」
「恐らくですが…」
かなりの日数が経過しているが、どこかで生きている事への希望を持っていたのだろう。
誰だってそうだ。
死んでいて欲しい訳じゃない。
「子どもの悪魔を発見し、思わず追ってしまいました。
その子どもを守るかのようにアルマがこちらへ走ってきて、ヴァロンが守ってくれたから俺たち2人ほとんど無傷でいる事ができました。
そして、一度アルマを捉える事はできたのですが、とても強い力で暴れていました。
でも、焦点が合っているかいないのかも分からない変な視線だった事を覚えています。
暴れる力も2人がかりで抑えきれないほどで、ヴァロンが頭突きをしても怯む事がありませんでした。
力づくて抜け出され、悪魔の方へ駆け寄って行きました。」
「お前たちは悪魔とは戦ったのか?」
「いえ、アルマと交戦中に大人の悪魔が集まってきてしまい、隙を見て逃げ出しました。」
「…よく帰ってきてくれた。
悪魔の出現情報もなく、任せられると思って任務に出したつもりだったんだが…」
「俺たちが悪いんです。
教会での探索なのに離れたから…」
「だが、そのお陰でアルマを見つけてくれた。
いい結果ではない可能性が限りなく高いが、それでも見つかった事はなによりだ。」
悪魔との戦闘になりかけた事を3人で謝罪する。
しかし、サラはそれを咎める事はなかった。
アルマを見つけた時のことを思い出しながら、サリも含めて4人で膝を突き合わせて紙に書き出す。
「何か、会話をする事はできたのか?」
「いえ、ずっと無言のままでした。
目も合わなくて……本当にただ操られてるだけみたいな…
そんな印象でした…」
「そうだろうな…
あいつが…そうか…」
サリの拳に力が入っている事が分かる。
2人は親密な関係だったのだろうか。
仲間が行方不明となり、やっとの再会だと思ったら既に生き絶えており悪魔に使役されていたなんて聞きたくなかっただろう。
部隊が違うアルマの事を詳しくは知らないが、帰りを待つ仲間がたくさんいた筈だ。
所属している人間は、悪魔に対して強い憎しみを持っている者がほとんどで、アルマも悲しい過去があったのではないか。
そして兵士になる事を目指し、実際に配属されて戦っていたと思ったら、悪魔に使役されて人間を襲う側になってしまった。
悔やんでも悔やみきれないだろう。
アルマの身体を取り返し、丁寧に埋葬をしてやりたい。
サリがボソッと漏らした言葉には悲しみの色が滲んでいた。
「全力で取り返しましょう。
いつまでも悪魔に使役されるなんて、関わりがなくてもアルマの本望じゃない事くらいは分かります。」
「そうです。
取り返すために協力してくれる仲間が沢山いるでしょう。」
「うんうん。
僕たちはその仲間の1人です。」
「…ああ、そうだな。
悪魔がアルマを囮にして人間を襲ってくる可能性もある。
なんとしても取り返そう。」
「「「はい!」」」
サリへの報告を終え、家へ帰る。
気が抜けるとドッと疲れが押し寄せ、今はとにかく眠りたかった。
「ん?
玄関の前になんか置いてある。」
「ああ、本当だな。
なんだこれは。」
「なんか温かいよ。
…あ、クッキーが入ってる。」
玄関前に置かれていた紙袋の中身を確かめると、クッキーが入っていたらしい。
家の中に入って、テーブルに広げてみると一緒に手紙も入っていた。
「ジェム、君宛にカルミナから手紙だよ。」
「ラブレターか?」
「うーわ出た出た。
そのからかい飽きたからね。」
見舞いに来たが留守だった事、体調を気遣う内容が記されていた。
ヴァロンがラブレターと揶揄っていたが、丁寧に3人の事を案じてくれている。
帰るまで毎日様子を見に来てくれていたのだろうか。
まだほんのりと温かいクッキーから愛情を感じる。
「これはお礼しないとダメだよジェム。」
「指輪でも買った方がいいんじゃないか?」
「本当にお礼はしなきゃ。
次会ったら家の場所も聞いておかないと。」
見事にヴァロンのからかいを無視し、適当に会話をしながらも、就寝の準備を整えていく。
やっと汗も汚れも落とせた身体はとてもすっきりしているが、気持ちは晴れなかった。
しかし、ほとんど寝ずに帰路を急いだ疲労状態に、久々のベッドが早く来いと誘っている。
まだ陽が落ちきってはいないものの、吸い込まれるように眠った。




