34.憎しみも棄て置いて①
川辺まで来ることはできたが、さらに深く森へ入っても何の収穫もない事が悔しい。
せっかく3人で任務を任されたのに、このまま手ぶらでサリの元へ報告に行かねばならないのか。
「帰るしか無いんだろうか…」
「ここまで来て何もないとなると、仕方ないとしか言えんな。」
「アルマ〜どこだよ〜」
そう話していると、ふと背後に何か気配を感じた。
やはり、何か声が聞こえる…
ヴァロン、ジェムと視線を交わすと、背中を合わせて警戒を行う。
しかし、風が森の葉を揺らす音だけが聞こえ、しばらく経っても何も起こらない。
顔を見合わせ、警戒をしながら辺りを探す事にした。
「気をつけろよ、悪魔かもしれない。」
「ああ、分かっている。」
「ゆっくり行くよ…」
姿勢を低くしながら周囲を見回していると、人影が目に入った。
額に汗が流れ、思わぬ遭遇に緊張が走る。
行方不明の兵士であるアルマか、悪魔か、ないとは思うが同じ人間か…
その瞬間、少し強めの風が吹いて森の葉が大きく揺れる。
葉に遮られていた陽の光が差し込むと、人影の中で小さいながらも確かに赤く煌めく光を目撃した。
そして、その光はすぐに遠ざかっていく。
…悪魔だ。
逃すわけにはいかない。
くそっと漏らしながらも力強く剣を握った時、草陰からヴァロンが飛び出して人影に向かって走り出した。
「ヴァロン!!」
大きく叫ぶが遅く、ジェムと一緒に草陰から飛び出る。
その時、人影の中から誰かがヴァロンへ向かって突進してきている姿が見え、3人の動きが一瞬止まった。
あの姿は間違いなく俺たちと同じ兵士の制服だ。
そして、あの青髪…
行方不明になっているアルマではないだろうか。
動きが止まった隙を狙ってアルマがヴァロンに体当たりを食らわせる。
「ヴァロン!!
おい!あんたアルマだろう!!何をしてるんだ!!」
「…」
「おい!聞こえているのか!」
ヴァロンの大きな身体に体当たりをしたと言うのに、本人は何のダメージも受けていないようでスッと立ち上がりこちらを見ている。
「ヴァロン、大丈夫か!!」
「ぐっ…ああ、問題ない。」
「問題あるでしょ!
なんで勝手に飛び出すかなあ!」
食らった本人は地面に転がり、腹を抱えている。
しかし、それでもすぐに立ち上がろうとしていた。
その場を去ろうとするアルマを捕まえて俺とジェムの2人がかりで取り押さえるが、振り解こうと暴れる力が凄まじい。
「くそっ
逃すかっ!!」
「ニール!!頑張って…っ!!」
アルマは声もあげず、ただ一点だけを見つめながら暴れ続けている。
この様子を見て密かに感じた。
アルマは先ほどのあの悪魔に使役されているのではないかと。
「お返しだ、食らえ!!!」
大声と共に、ゴツンと大きな音が響いた。
ヴァロンが暴れるアルマに向かって頭突きをしたのだ。
しかし、一瞬も怯む事なくもがき続けている。
やはりおかしい。
そう思いたくないが、やっぱり…
確信しかけていた時、奥からさらに人影が見えた。
加勢しに来たのだろうか。
このままでは非常にまずい…
もがくアルマを押さえつけながら必死に考えていた時、威勢のいい声が誰かを呼ぶ。
「なぁにしてたんだロディ!
いねえと思ったらこんな所で!」
中年っぽい髭を生やした悪魔が、ガハハと笑いながらドシドシ歩いて向かってくる。
一緒に、ゾロゾロと男の悪魔ばかりが現れ、冷や汗が流れた。
「嘘だろ…」
「ニール、これまずいよね…」
つい力が緩み、アルマが腕の中を抜け出して走り去ってしまう。
しかし、追いかける余裕などなかった。
「いやー、この辺は何もないだろう?
他の奴らも待ってるし早く行くぞ。」
緊張で固まる俺たちを気に留める事なく、ヘラヘラと話しかけている。
そして、他の悪魔も頭をポリポリと掻く仕草をしたり水を飲んだりと、こちらへ攻撃を仕掛けてくる様子はなかった。
なぜ誰も敵意を向けない…
丸腰だからだろうか…?
体のどこを見ても誰1人として武器を持っている様子はない。
戦う術がないから、この雰囲気のまま逃げようとしているのか…
それとも、俺たちを油断させる罠か…
今の状態なら3人で一気に攻撃を仕掛けることもできる。
でも、相手の策にハマれば全滅だ。
ここは引くのが懸命な判断だ。
アルマの事をサリへ報告する義務がある。
無茶はできない。
「ニール、準備できたよ。」
「わかった。
タイミングを見て矢を放ってくれ。
相手が気を取られた隙に離れよう。
ヴァロンもいいな?」
「ああ、大丈夫だ。」
小声で話しながら逃げる隙を伺っいると、先ほど見つけて追いかけて来た悪魔も姿を現した。
まだまだ少年の体格で、顔を確かめようとするもアルマの背に阻まれてしまう。
ジェムを2人の体で隠し、タイミングを図る。
…悪魔がまた1歩足を踏み出した。
「ジェム!」
「よし、いくよー!」
ジェムの放った矢が放たれる。
その辺の草を縛りつけた異様な塊が飛んでいき、悪魔も気を取られてその動きを追う。
そして、視線が外れた瞬間、3人で一気に駆け出した。
「おい!待て!!」
背後から叫ぶ声が聞こえる。
見るな、振り返るなと心の中で繰り返しながらひたすらに走る。
汗が滲み、呼吸がどんどん苦しくなって行く。
それでも止まる事なく走り続ける。
お互いを見失わないよう横目で存在を確認しながら、前へ前へと何度も足を踏み出し地面を蹴った。




