31.不意の余白埋めかねる①
身体が重い…痛い…苦しい…
ハアハアと息を切らしながら、前へ前へと進んでいく。
「だめだ……
でも、このままじゃ見つかる…」
とうとう膝をついてしまい、流れる汗を拭う。
とにかく逃げなきゃと足にグッと力を込めようとした時、背後から足音が聞こえた。
やばい…
サッと血の気が引き、先ほど人間の声が聞こえた時を遥かに上回る緊張が走る。
もう駄目だと目をギュッと閉じた。
「やめろ!!離せ!!」
脇の下に手を入れられ、身体が持ち上げられそうになった。
力一杯暴れ、その手を振り解こうともがく。
バタバタ手を動かし、身体を捻り、どうにか逃れる事ができた。
「あれ…?」
地べたに転がってその人物の顔を見ると、それは先ほどからしたはずの兵士だった。
手を差し伸べ、身体を起こす手伝いをしてくれる。
「あ、ありがとうございます…
………さっきの…さっきの成功したんだ…!」
死んだ人間の身体に悪魔の血を流し込むと、自分の操り人形として使役できる…
この兵士で実践した時は何も起こらず、失敗したのだと思っていた。
しかし、時間を置いて効力を発して僕の元へ来たのだ。
「…初めてできた……
よし、あっちに連れて行ってもらえますか…?」
そう告げると、無言で僕の身体を持ち上げて歩き出す。
さっきまで痛くて苦しかったはずなのに、初めて使役に成功した嬉しさで痛みなど忘れていた。
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しばらく進むと、仲間の悪魔達とボロボロの状態で落ち合う事ができた。
「おう、ハロルド。
無事だったか…」
「…はい。
他のみんなは生きてるの?」
「分からねえ。
今いるのはこの6人だけだ。」
「…っ
そっか…」
「あの時、ハロルドが知らせてくれたのに信じてやれなかった…
すまない…信じていれば逃げ出せたかもしれないのに…」
「…いいんです。
もう…今更だから…」
「っ…
すまない…
でも、クルォール・クリスタルだけはどうにか持ち出す事ができた…これを守らないと…」
せっかくの再会でも、その空気はとても重苦しかった。
無事が分かったのは僕も含めて6人。
その中にロデリックさんはいない…
自分が燃えていても逃げ出さず、鋭い眼差しで再び燃え盛る教会に飛び込んで行く瞬間を見たのが最後…
無事であって欲しい…
「ここにいても仕方ない。
俺の家に行って治療しよう。」
1人が名乗り出て全員で歩き出す。
誰もが火傷や切り傷で酷い有様になっており、回復には時間がかかりそうだ。
その中でも動けるものが人間を襲いに行き、少しずつ力を蓄えていく。
ある程度動けるようになると、すぐに教会の復興や仲間達の埋葬をし始める。
大人達は毎日のように崩壊した教会と行き来を繰り返しており、とても忙しそうだ。
しかし、そんな極限状態だからこそ争いも起こる。
「お前は自分だけ食べられればそれでいいのかよ!!」
「仕方ねえだろ!!
俺だって限界なんだよ!!
満足に飯食えなくて、やっとありつけたと思ってもこんだけ人数がいりゃ分け前が少ねえんだからよ!!」
「それは全員同じだ!!
今は協力しなきゃ何もできない事ぐらい分かるだろ!!」
「うるせえな!
たかがガキ1人食ったくらいで文句言いやがって。」
「ガキ1人だろうが分けられる分は分けようって気持ちすらないのか!!」
「ああ、無いね!!
あんなチビじゃ1人でも腹一杯になりゃしねえ!!」
醜い争いだ。
大の大人が1人抜け出して人間を狩り、独り占めをしたらしい。
こんな会話を聞いていられず、兵士を連れてあの川辺へ向かって歩く。
かなり回復してきており、普通に歩くくらい平気になっていた。
「何も無い…」
あの川辺へついて周辺を捜索したが、以前見たもう1人の倒れてた人物は消えていた。
仲間なのか、人間なのかも分からなかったが、仲間なら逃げ切る事はできたのだろうか。
もし救う事ができていたら…
そんな後悔を抱きながらも、静かな川辺に腹の音が鳴り響いた。
食べ物で醜い言い争いをしていたが、確かに今の状況はかなり厳しい。
子どもだからと多めに分けた与えてくれるものの、とても十分な量とは言えない状況だ。
それに、僕が弱ってしまえばこの能力も弱まってしまう。
せっかく兵士を捕まえる事ができたのだから、有効に活用したい。
「一緒に狩りに行きましょう。
僕も力をつけて、みんなにお土産を持って帰らなきゃ。」
僕の思うがままに動いてくれる兵士へ話しかける。
「はい、そうしましょうか。」
全く同じ口調で兵士が返事をした。
この兵士名前や元の人格など全く分からない。
熟練の大人達はターゲットとなる人間を観察し、生きている時とほとんど変わらないような状態にする事ができる。
そして、罠にかかったかのようにその人間の周囲に集まる人達を襲っていく。
しかし、僕はこの兵士のことを何も知らない。
見た目や声は違って当たり前だが、まるで自分と話しているように感じる。
一緒に組んでいたロデリックさんならもっともっと上手なのだろう。
「よし、行きましょう!」
これからも自分が生きるために、そして仲間達を生かすために狩りにいくことを決意した。
自分と仲間が瓜二つの兵士を連れ、川辺を後にする。
1人でもやってみせる。
やればできるはず!
そう自分の心を焚きつけ、兵士に抱えられながら人間の住む街へ向けて進み出した。




