27.灰の空に誓う声②
「アルマ、お前も軍に入るんだってな?」
「ああ、両親の仇を取るって決めたんだ。」
ヒョロヒョロと言われた身体はどこにも見当たらないほどに成長し、ついに18歳になった。
アイビー・ロッジの卒業を1週間後に控え、支給された新品の制服を大切に壁にかけて待ち侘びていた。
悪魔を自分の手で殺すと心に決めてから、俺は自分なりにできる努力をして来た。
本を読むより体を動かし、出された物は残さず食べ、泣く事もなくなった。
そして、入隊の日を迎える事ができた。
新人が整列し、前には上官が並んでいる。
何人かの新人になぜ入隊したのかと質問をし始め、皆が口を揃えて「悪魔に家族を殺された復讐」だと言っていた。
同じ境遇の人は多いのだなと声がする方を見つめていると、サリと言う軍隊長に俺も同じ質問をされた。
「自分は両親を悪魔に殺されました。
両親の仇を取るため、恨みを晴らすために兵士になりました。
仲間達と手を取り合い、悪魔を倒して見せます。」
そう言った事を覚えている。
この時は、仲間と協力して悪魔を殺すのだと真っ直ぐ前を見ていたはずだった。
訓練が始まると、想像以上の辛さに毎日身体が悲鳴を上げていた。
多くの同期達が自分より優れいる事を痛感させられる。
走る速さも、走れる距離も、剣技も、全て下から数えた方が早いだろう。
それでも諦める事なく必死に食らいついた。
陽気に話しかけて関係を築き、教えを乞う。
恥もプライドも何もなかった。
差があるのなら埋めるだけ。
そのためなら何だってする事ができた。
ついに任務に参加できるようになると、俺は張り切って誰よりも先に切り込んだ。
目の前に憎き悪魔がいる事が許せなかったからだ。
どんな場面でも俺が切り口を開くと決め、切り込み隊長として嬉々として突っ込んでいく。
相手が1匹だろうが5匹だろうがやる事は変わらない。
自分がきっかけを作る事で仲間の闘志を燃やしてやるとすら考えていた。
いつしか剣の腕前は誰よりも上達し、教えを乞う必要もなくなっていた事に気がついた。
そして、その事実が更に俺の復讐心を増幅させた。
とある警戒任務中、家族と思われる悪魔数人を発見した。
父親と見られる体格のいい男、母親らしき女、そして息子であろう青年と足元のおぼつかない幼児。
今回は警戒任務であって不必要な戦闘はしないよう求められていたが、憎き悪魔を前にそのまま去る選択肢など俺にはなかった。
「アルマ!!止まれ!!!」
そう叫ぶサリの声を無視して一気に距離を詰める。
微動だにしない父親と見られる体格のいい悪魔を狙って剣を振りかぶった瞬間、男と目が合い身体が動かなくなった。
そんな固まった俺の顔面を鷲掴みにし、地面に叩きつける。
激しい痛みに襲われ、呻き声を上げるが倒れたまま動くとができない。
「立て!!そこから逃げろ!!」
「アルマさん!!早く!!!」
サリや仲間が叫ぶが、指の先すら動かない。
揺らぐ視界の中、言葉は理解できるのに身体が全く言う事を聞いてくれなかった。
「おいそこの兄ちゃん、こっち来いよ。」
急に頭の中に男の声が流れると、それまで動かなかった身体が勝手に立ち上がり、剣を握っていた手を離す。
自分の意思ではない事は分かっている。
しかし抗う事ができない。
「やめろ!!アルマ何をしている!!」
勝手に足が男の悪魔の方へ向かう。
ニヤリと笑った男が、他の仲間には目もくれず一直線で俺に向かって走る。
そして男の影が目の前に迫っている事を感じると、腹に鋭い痛みと燃えるような熱さが突然現れた。
痛みの先を確認しようと目線を下げると、自分の腹は男の持った剣に貫かれていた。
意識すると、更に比べ物にならない程の痛みに意識が朦朧とする。
脂汗が滲み、腹は燃えたぎるように熱いのに背中から身体が冷えて行く感覚が気持ち悪い。
しかし、この痛みで自分の意識がハッキリと戻った。
こいつを殺す、殺す、殺す…
目の前にいるこの悪魔を殺す事しか頭にはなかった。
そう思うと不思議と身体中の痛みが消え、自然と笑いが溢れる。
携えていたもう一本の短刀を抜き、悪魔の胸目掛けて突き刺す。
体制を崩し、半歩下がった瞬間を逃さず渾身の力を込めて体当たりをした。
倒れた悪魔を睨みながら、見下ろしていた時、視界の端で子どもを抱えて逃げる女の悪魔の姿が見えた。
絶対に逃しはしないと、まずは目の前にいるこの男を始末しなくてはならない。
こちらに向かって手を伸ばそうとする動きを遮り、全身に力を込めて切った。
返り血が身体に跳ね、生温かさが気持ち悪い。
力の抜けた体格のいい男が、絶命してもこちらを睨んでいるように見えた。
そして逃げようとしている女を視線で探した時、倒れている姿が見えた。
弓兵が放った矢が太ももに突き刺ささり、這ってでも逃げようとした一直線の血の跡と繋がっている先で背中に剣が突き刺されていた。
ーー俺の獲物なのに。
ふと湧いた思いだった。
憎き悪魔を仲間が殺してくれたのに、何故か気分が悪く不愉快な気持ちでいっぱいだった。
残りの悪魔は俺が殺らなければと、ギリギリ歯を食いしばる。
しかし、どこを見ても青年と子どもは見当たらなかった。
「くそっ
逃げられたのか!!」
悔しさが溢れ思い切り木を殴る。
しかし、その勢いは弱く力がこもっていなかった。
フッと身体の力が抜けて地面に膝をついた時、ゴスゴスと重い足音が近づいて来て身体が浮いた。
全ての体重をサリに任せ、胸ぐらを掴んで持ち上げられていたのだ。
「お前は何をやっているんだ!!
今回は警戒任務だと言っただろう!
不要な戦闘はしない事が前提のはずだ!」
「…あ……ぇ…?」
「命を顧みないお前の戦い方を矯正しようと警戒任務に当たらせたのに…!
なぜお前は分からない!
何度言ったら理解してくれる!!」
言い返したいのに視界が曇って力が入らない。
真っ直ぐ刺すほどに自分の目を見つめられている事は分かるのに焦点が合わずにぼやける。
自分の身を案じる優しさの混ざった怒りだと言う事は分かったが、その声もどんどんと籠って聞こえにくくなる。
怒るなら殴ればいいのに。
俺の戦い方が嫌なら隊から外せばいいのに。
そんな反抗的な言葉は頭の中で流れるのに発する事ができない。
ひたすら頭の中で言い返しているうちに意識が遠のき、最後までサリの言葉を聞く事はできなかった。




