24.熱を蓄える朝
「おい、ニール。
食べ過ぎじゃないか?」
「本当そう。
そんなに食べてこれから動けるの?」
「…問題ない。」
朝からこんがりと焼けた肉にかぶりつく。
部屋に漂う香ばしい香りは、朝ではなく夕食感満載だ。
気合いがそのまま食事にも現れてしまったような、優しい風が肌を撫でる気持ちの良い朝には似合わない食卓である。
「まあ、腹を痛めないようにだけ頼むぞ。」
「あははっ
ニールのお花摘み待ち勘弁だな。」
「人がまだ食べてるって言うのに、お前たちは…」
食事の時間にはよろしくない話に手の動きが若干遅くなる。
確かに、食べ過ぎて任務に支障が出るのは大問題だ。
サッと切り上げて、ヴァロン・ジェムと共に身支度を進めていく。
「お、ちょうどよかったニール。
この包帯の端を止めてくれないか。
少々短くしてしまって届かなくてな。」
「ああ、任せろ。」
まだ完全には治りきってない傷に清潔な包帯を撒き直していく。
全員が毎日騒がしいほどに元気だが、身体そのものはまだ付いて行けていない。
そんな状況が腹立たしく、焦りが付きまとう。
「ニール、ニール。
僕お願い。」
「ああ、……っておい。
最初からじゃないか。」
「だって片手じゃ巻けないでしょ?
いつもの事じゃん。」
「普段は巻くくらい自分でやってるだろ。」
少しも自分でやる気のないジェムがポンと包帯を投げ渡す。
いつも以上に緩い空気を感じ、1人で気を張っている事がバレているのかもしれない。
2人なりの心遣いなのだろうと、思わず口角が上がる。
「もう痛みもないし、動くことに支障はないんだがな…」
「そうそう。
もういちいち包帯巻くのも面倒だし、早く完治してくれないかな。」
「早く治したいなら肉を食べろ。
2人とも食が細すぎるよ。」
「そうは言ってもな…
まだ気持ちはあっても身体が追いつかんな。」
「ねー。
ちゃんと食べないから治りが遅いんだろうね。
ニールみたいに吸い込むほど食べられたらな。」
「誰が吸い込んでるって?」
少しムッとしてしまったが、任務前でも冗談が飛び交う穏やかなひと時が心を鎮めてくれる。
この2人がいてくれて良かったと思う瞬間だ。
傷の手当てをして制服を着ると、自然と背筋が伸びる。
昨日とは違う部分は、制服の上から武器に加えて防具を身につけている所だろう。
身嗜みが整った事で、改めて気合いが入る事を感じる。
「ニール、任務許可証は持ったか?」
「ああ、しっかり持った。」
「オッケー。
そしたら、もう忘れ物はないよね?」
昨日サリから受け取った任務許可証は忘れずに持っている。
3人の名前が書かれた大切な許可証だ。
今回の任務でもらうものは押印だけ。
何があっても備考欄に追記される事がないようにしなくては…
1枚の許可証に込められる気持ちはとても重たい。
「よし、行こうか。」
「ああ。
3人での任務は初めてだな。
よろしく頼む。」
「ニール、ヴァロン、全員無事が約束だよ。」
「もちろんだ。」
「承知した、約束だな!」
家を出て街の門へ向かって行く。
あの時の防具どころか服すらボロボロだった状況とは真逆で、整った装備を身につけている。
しかし、すれ違う街の人は門の方向へ歩く制服姿の3人を見てヒソヒソと話し始める。
教会の襲撃後にまた人間が襲われた事で、兵士を見る目が若干変わっていた。
それでも、人の目も嫌な記憶のある場所へ向かおうとしている現実があっても心は軽かった。
それに、どんな事を思われようと気にかける事は一切ない。
自分、家族、そして街の人を守るために戦うために兵士となったのだから。
色々と考えている内に次第に街を外れ、門が見えてきた。
「おう!ヴァロン。
もう任務に出るんだってな?」
「ああ、この通り万全だからな。
早速、押印を頼む。」
帰還した時に出迎えてくれた兵士だった。
交代制のはずだが、よくタイミングが合うなと思った。
許可証を差し出すと、それぞれ名前を呼ばれて返事をする。
問題がない事が確認できると、トンッと軽い音を立てて押印された。
まずは出発を認める上部へ、赤いインクの模様が浮かぶ。
このまま許可証は預け、帰りは下部へ押印される。
次に自分の手に戻ってくるのは帰還した時。
そして、最後はサリへ任務の報告と共に手渡す。
押印した許可証をペラペラと動かしてインクを乾かすと、ファイルの中に仕舞われる。
しっかりと預かった事を確認すると、こちらへ顔を向けて無事を祈る言葉がかけられた。
「全員無事に帰ってきてくれ。
次は戦果を上げて笑顔で帰ってくるお前たちを出迎えたい。」
「ああ、約束するよ。」
「おう。
俺たちが見えたらまた手を振って出迎えてくれ。」
「帰りも押印だけお願いね。」
「もちろんだ。
行ってらっしゃい。」
優しく送り出す声に背中を押され、街の外に出る。
まず向かう場所は、あの悪魔が集う教会があった場所だ。
3人で並び、しっかりと力強い足取りで先を進んで行く。
何をすべきかもしっかりと頭に叩き込んだ。
行方不明となった兵士アルマを探すべく、崩壊した教会へ向かって行く。




