23.追い風の行方
サリからの呼び出し状を受け取った3人は軍本部へ訪れていた。
パリッと整った制服は、軍から新たに支給された物だ。
療養中に伸びた髪も切り、新品の制服に袖を通すと自分のものでは無いような気がしてしまう。
キッチリと整えられた身嗜みの中に浮かぶ傷跡はまだ痛々しいものの、背筋を伸ばしてサリの元へ向かう。
「失礼します。
ニール、ヴァロン、ジェム、参りました。」
「おお、来たか。
わざわざ来てもらってすまない。」
何やら書き物をしていたサリが手を止め、こちらを見ると優しく微笑む。
「…サリ軍隊長、先日は大変申し訳ありませんでした。
新しい装備が嬉しくて、思わず狩りに出た結果が負傷して帰るという失態に…」
「本当に申し訳ありません。
反省しています。」
「僕も含め、誰も止めず調子に乗っていました。
申し訳ありません。」
すぐに装備をもらい狩に出た時の事を謝罪する。
本来であれば数日早く任務に入る事ができていただろう。
サリから任務の話を聞いてから、その事をずっと考えていた。
「いや、私の渡すタイミングが悪かった。
誰だって嬉しくてすぐに使いたくなるだろう。
私だって我慢できずに試し切りだと言って上機嫌になるだろうからな。」
「お気遣いに感謝いたします。」
「さあ、この話はここで終いにしよう。
今回の任務についての説明をさせてくれ。」
そう話を進めるサリの表情はどこか悲しげだった。
聞いていた通り、この3人でアルマの捜索にあたる事が今回の任務だ。
崩壊した教会跡、その付近の捜索は一度終えていて、悪魔の姿はない事の確認もできているらしい。
しかし、見落としの心配やあの川辺までは捜索できていないとの事だった。
そこで吹き飛ばされた本人が今回選抜され、何か手掛かりだけでも見つけられたらとの説明を受ける。
現時点でも目撃情報すらなく、遺体も見つかっていない。
…最悪の事態が起こってなければいいが。
悪魔が牙を剥くこの世界で1番最悪な事は、悪魔に食われることより操られる事だ。
死後硬直が起こる前の新鮮な状態であること、心臓に損傷を負っていないこと、この条件が満たされれば魂のない操り人形として悪魔を主人として動き出す。
「遺体が見つかっていない現状、ニールより遥か遠くへ飛ばされてしまったか、見落としているか、すでに悪魔に食われたか、それとも…」
「悪魔に使役されているか…ですよね。」
「…ああ、そうだ。
何も手掛かりがなく確定ではないが、すでに悪魔側に付いてしまっている可能性も頭に入れておいてくれ。」
「…はい。」
「分かりました。」
「…もし、アルマを発見てしまった場合はどうなりますか?
回復も進んでいますが、僕たちが戦う事の許可は頂けるのでしょうか。」
「今回はあくまでも捜索だ。
戦闘は望ましいことではないが、もちろん許可はする。
しかし、くれぐれも無理はしないでくれ。
逃げる事も戦略だ。」
説明の中で、何度も逃げる事の大切さを説かれた。
持ち物などの遺留品を持ち帰るだけでも立派な戦果だと、とにかく戦う事は避けて欲しいとの気持ちが痛いほど伝わる。
「それでは、ニール・ヴァロン・ジェムの3名に、行方不明の兵士であるアルマの捜索任務を任せる。
出発は明日。
頼んだぞ。」
「「「はい!」」」
大きく返事をすると、サリから任務許可証を手渡される。
この許可証は任務へ発つ兵士の名が記載されており、最初は街の門で許可証に記載されている者の人数と名を確認して押印をもらって外へ出る。
そして、帰還時も同じく名と人数を確認し、押印をもらってから街に入らなくてはいけない。
最後に押印のある許可証を提出して任務完了となるのだ。
更に、帰還時の押印欄の横には備考欄があり、これは出発時と人数が合わない時などに状況を書き込むスペースだ。
行きより増える事はほぼ無いが、減る事は起こり得る。
誰が何故いないのか、簡略的に記載して提出をしなければいけない。
この3人も備考に書かれていたことだろう。
この許可証は、押印だけで備考欄には何も記入されていない綺麗な状態で返したいなと思いながら見つめていた。
本部からの帰り道、アルマのことを考えながら歩く。
言い方は悪いが、耳にタコができるほど今回は捜索であるという事を強調していた。
もし悪魔に使役されているアルマを見つけたとしても、元凶の悪魔を探すような真似はするなと言う事だろう。
我々からの正確な状況の報告、そして討伐部隊を向かわせる思惑があると予測できる。
「なあ、もしアルマを見つけたらどうする?」
「…それはどのアルマの事を言っている。」
「僕は、生きているなら連れて帰る。
あの時のニールがしてくれたみたいに。
もし、もしも遺体だったとしても同じ。」
「悪魔に使役されていたら…?」
「…サリ軍隊長は俺たちに逃げる事も戦略だと何度も言っていたな。
今は状況に応じてとしか言えない。」
「うん、僕も同じかな。
積極的に戦いには行かないけど、逃げるために戦うはアリでしょ?」
「そうだな。
本人を見つけられなかったとしても、有益な情報を持ち帰ろう。」
傷跡が残る腕を太陽にかざす。
照らされた輪郭がくっきりと浮かび上がる。
…以前より細く見える腕がとても頼りなく感じた。
最悪の場合は剣を握って戦うことになるのに、この手でしっかりと掴んで振るうことはできるのだろうか。
とにかく明日に備えて少しでも体力をつけるべく、たくさんの食料を買い込んで帰宅した。




