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22.その心に届かぬ微熱②

小さなラピスラズリがあしらわれたネックレスと、可愛らしい花瓶が丸いテーブルの上に置かれている。


ガタンと玄関から扉を開ける音が響き、数本の花を手にしたガレリアが帰宅した。

まっすぐテーブルの方へ進み、花瓶を手に取る。


水を入れて摘んできた花を綺麗に生けると、その花瓶をゆっくりと持ち上げてテーブルに置き戻す。


「お姉ちゃん、今日もいい天気だよ。」


小さく呟く声は、ラピスラズリが煌めくネックレスへ投げかけられていた。


コンコンとドアを叩く音に顔を上げて出迎えると、そこにはカルミナの姿があった。


カルミナとは幼少期からの付き合いだ。

お互いをミーナ、リリーと呼び合い親しくしている。

そんな親友のミーナは、数日前まで酷くやつれていた。


密かに慕っているジェムが任務に出たきり帰って来ず、やっと帰還したと思った部隊の中には姿がなかったのだ。

迎えに行くと言ってフラフラと街の門の前へ行ったり、軍の本部前まで行ったり、食事も取らず日に日にやつれて行き、とうとう倒れてしまった。


ミーナのお母さんが止めても聞かず、限界が来たミーナの目にはクマができていて唇はカサカサとしていた。


そんなミーナは、今はとても元気で笑顔を見せている。

ジェムが生きて帰ってきたと知った途端、水を得た魚のように途端に元気を取り戻し、こんな姿は見せられないと慌てて身嗜みを整えていた。


ジェムが全ての元気の源だったのだと、私とミーナの母は思わず苦笑いをしてしまう程だった。

だが、いつものミーナが戻ってきてくれた事は本当に嬉しかった。


「いらっしゃい。

ジェムの所にはもう行ってきたんでしょ?」


「うん。

リリーも心配してたよって伝えたし、差し入れもしてきたし!」


「そっか。

一緒に行けなくてごめんね。

今日は…ね。」


「分かってるから大丈夫だよ。

それでね…」


今日の出来事を話すミーナは止まらない。

話に聞くだけでも重傷だったんだなという事が伝わってくる。


ニール、ヴァロンと聞き慣れない名前も出てくるが、質問をする隙も無いほどによく喋る。

…聞いている限り、同僚の兵士なのだろうなと推測ができて、どうにか話の流れを掴んでいく。


差し出した紅茶にも口をつけず、やっと合うことの出来たジェムを思い浮かべるかのように何度も目を閉じる。

本人は密かな片思いとしているようだが、私にもミーナの母にもバレバレだ。

そんな恋心の滲む思い出話はとても甘い。


「今度はリリーも一緒に行こう。

ジェムも会いたいって言ってたから。」


「そうだね。

私も久々に会いたいな。」


「もちろん、マリアさんも一緒にね?」


「…うん。」


そう言い、とっくに湯気の上がらなくなった紅茶にやっと口をつけた。


「ねえ、ミーナ。

よかったら一緒にお菓子でも作らない?」


今日はいつもより少し寂しくなる日。

誰かと一緒にいたくて、理由をつけて引き止める。


「わあ、いいね!

…クッキーでもいい?」


「あら、もしかして失敗しちゃった?」


「むーーっ

し、、ぱいでは無い…多分。

ちょっとジェムには甘すぎたかもって…」


「ふふっ

甘さ控えめで練習しよっか。」


口を尖らせて目を逸らすミーナが微笑ましい。

ミーナと一緒にいると心穏やかな時間が流れる。

…でも、今日はいつも以上に夢見が悪いだろうと、夜なんて来ないで欲しい気持ちが強まった。






---------------






クッキーの甘いにおいを纏ったミーナが帰宅すると、家の中はとても静かになった。

冷め切った紅茶に口をつけて飲み込んでも味がしない。


…今日は姉のマリアの月命日。

マリアは悪魔の餌食となり死亡した。


たった2人の家族を大切に支え合って来た。

そんなマリアはジェムの事を好いていて、ジェムもマリアの事を好いていただろう。

気持ちを口に出す事は無くても、お長いを見つめる視線を見ていれば分かる。


マリアがこの世を去ってから、ジェムとは距離を置くようになった。

よく似た姉妹、マリアの面影がある私を見ると一瞬辛そうな表情をした場面を見てしまったから。


そして、ミーナはそんな2人を今でも気遣っている。

自分の恋心を誰にも告げず、私にすら話そうとしない。

まるで三姉妹のように仲良くしていた自分たち。

マリアも私の事も傷つけないようにと思っているのかもしれない。


ジェムには新しい人を見てほしい…

いや、むしろミーナの魅力に気づいてほしい。

顔や行動は隠しきれていないが、それでも健気に友達として支えるミーナが報われてほしい。


ぐるぐると考えていたら、いつの間にか眠る時間になっていた。

無意識に食事も家事も済ませていたようだ。


マリアの形見であるラピスラズリのネックレスを身につけてベッドに潜る。

ドクドク鼓動する心臓の音がうるさいほどによく聞こえて煩わしい。


月命日になると、あの日の光景が頭から離れず胸が苦しくなる。

今日もやっぱりダメらしい。


鮮明に頭の中に流れ、決して忘れるなと言わんばかりに何度も何度も頭に焼き付けられて行く。

この苦しみから抜け出す事はできるのだろうか。


……この手であの悪魔を殺す事ができれば、少しはこの気持ちも晴れるのかもしれない。

忌々しいあの悪魔の声が頭の中を駆け巡る。

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