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18.その輝きを瞳に映して

体力作りのために街の中を走っていた。

暑い日差しが照りつける中、汗を滲ませ息を切らしながらひたすらに走る。

汗で張り付く服が気持ち悪い。


もう2時間は走っただろうか。

大きく息を吐きながら水筒の蓋を勢いよく開け、口につけて真上に傾ける。

しかし、1滴2滴ポタポタと滴るのみで既に中身は空になってしまっていた。


クソッと小さく悪態をつき、肩で息をしながら小走りで家へ向かう。

服もそうだが顔に張りついた前髪が痒くとても気分が悪い。

無造作にかき上げ、空に向かって深呼吸をしてみる。


太陽に温められたぬるい空気がなんとも言えない。

早く頭から水を被ってしまおうと、帰る速度を早めた。


家のすぐそばまで辿り着いた時、少し先にサリと1人の兵士がこちらへ向かっている姿が目に入った。

何かあったのだろうかと考え、髪と姿勢を直してサリの元へ走る。


「お、お疲れ様です!

本日は任務でいらしたのでしょうか?」


「おお、ニール。

楽にしてくれ。

今日は3人に用があって訪問したんだが、忙しかっただろうか。」


「いえ、リハビリにこの辺りを走っていただけです。

…暑さで早めに切り上げて帰宅していた所でした。」


これは少し嘘である。

水筒が空になるまで2時間は走っただろう。

そんな汗で湿った姿を見たサリが口を開く。


「そうか。

無理せず程々に。」


「はい、体調に合わせて頑張ります。」


「いい心がけだ。

ヴァロンとジェムも走りに出ているだろうか?」


「えっと、2人はまだもう少し安静にするよう伝えているので家にいるはずです。

どうぞお入りください。」


「失礼する。」


歩きながら話していると玄関まで到着し、キィとしなる扉を開いて招き入れる。

おかえりーと気の抜けた声を上げていた2人だが、入ってきた人物がニールではなく突然サリが現れて驚く表情を見せるも、すぐに直立して挨拶をしていた。


サリと共に来ていた護衛と思わしき兵士にも入るよう促すが断られてしまう。

暑い中で大きな荷物を抱えており、重いだろうと思うが気にするなど言われてしまい強く勧められなかった。

待機している兵士には少し悪いと思いながらもドアを閉じた。


「…早速ですが、本日はどのようなご用件で?」


「ああ、そうだった。

3人の体調について聞きたくてな。

あれからどうだろうか?」


急な訪問の理由は体調を伺うためだったようだ。

復帰の時期を見定めるのか、それとも約束を無視して無理をしていないか監視するためか…

まあ、後者が優先だろうとは思いながら話を続ける。


「俺はこの通り、外を走れる程に回復しております。

早く復帰をしたいと思う気持ちは変わりません。」


「俺たち2人はまだ完全に傷が塞がった訳ではないですが、動く分には支障ありません。

近いうちにニールと一緒に外を走ったり、体力作りをしたいと思っています。」


「僕もいつでも訓練に戻れるよう、しっかり身体を整えて行きます。

どうしても腕の訛りが気になってしまって復帰した時の心配はありますが、すぐに万全にしてみせます。」


「…そうか、体は順調なようでなりよりだ。

療養が長くなっている以上、訛りが気になるのは当たり前だ。

私も昔は怪我をしても早く復帰させろと騒いでいたからな。

気持ちは分かるぞ。」


笑い話を交えながら、しばらく話を続けていく。

やはり、数日ですぐに復帰をさせる事は難しいらしい。

しかし、そんな落ち込む3人に思いがけない贈り物があった。


「待たせたな、例のものを出してくれ。」


急に立ち上がったサリが玄関を開き、待機していた兵士に告げる。

その合図と共に大きな荷物を抱えた兵士が家の中に入り、荷物をテーブル置くと、ゴトンと低い音が響き重量のある物なのだと知る。


そしてテーブルいっぱいに広げられた荷物を解くと、現れたのは明らかに未使用の剣と弓だった。

自分の中に出てきた思いは、単純に『格好いい』

新しいおもちゃを見つけた子どものように見つめて目を輝かせていると、サリが話しかける。


「隊への復帰はまだ早いが、もう少し休んで多少狩りに出て運動をする程度なら問題ないだろうと思い持ってきた。

3人には大きな負担をかけたお詫びの気持ちでもある。

受け取ってくれるだろうか?」


1つの剣を鞘から抜き、銀色に輝く刀身が姿を見せた。

それにしても、お詫びの気持ちとしては充分過ぎるほどではないのだろうか。

そう思う気持ちはあるが、目の前で吸い込まれるほどの輝きを前に断る選択などなかった。


「…受け取っても良いのであれば、ぜひ頂戴いたします。」


「そう言ってもらえて助かる。

復帰をする頃には自分の物として身体に馴染んでいるだろう。

無理をするべきではないのは絶対であるが、皆が待っているぞ。」


皆んなが待っている…

その言葉がとても心に響く。

自分たちの復帰を待っていてくれる仲間たちがいる事が嬉しかった。


それぞれが受け取った事を確認すると、サリと兵士は去って行く。

突然の贈り物に気持ちの高揚が収まらず、早速自分でも剣を抜いて刀身を見つめる。


やはり、銀色に輝いてとても美しい姿が目に映る。

切先に目線を動かした時、何やら彫刻がされている事に気がついた。

ゆっくりと指を滑らせながら確認をすると、ニールと名前が書かれているではないか。


…あまりの衝撃に固まってしまう。

こんなものを作らせるのには、どれほどの金がかかるのだろうか。

必ず戦果をあげて、期待を裏切るような事はしてはならないと気が引き締まる思いがした。


ヴァロン、ジェムも同じように名前が刻印されており、改めてサリの思いをしっかりと受け取ったと同時に、早くこの手で使いたい気持ちが抑えられない。


しかし、まずはサリの言った通り自分の物としてしっかり慣らすことが先だ。

これは狩りに出るしかないと目を輝かせて一致団結し、早速荷物の用意を始める。


準備を整えて剣を携えた時、なぜかもの凄く重みを感じた。

物理的なものではなく、剣に詰まる思いだろう。

寧ろその重みが心地よく思う。


3人は家を出て、街の門へ向かって歩き出した。

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