16.呼び声の還る場所
「ジェム!!ジェム!!いるのか!!?」
数日後、無事に退院が決まった3人はジェムの家で過ごす事に決めて荷造りをしていた時、療養所に兵士が訪ねてきた。
「ジェム!!ヴァロンも!!
ようやく会えた…!」
ジェムの両肩を掴み、よかったと涙を流している。
あまりの勢いに呆気に取られていると、その様子に気がつきあたふたと慌て出した。
「…っすまない。
突然現れて1人で感極まって……どこまでも勝手だよな。」
「い、いや、突然すぎて驚いただけだ。
気にするな。」
「…
ねえ、どこまでも勝手ってどう言うこと…?」
「…俺は2人に許されない事をしてしまった。
どうか謝らせてほしい。」
涙を拭い、姿勢を低くしたかと思うと額を床につけて土下座をした。
何事かわからず、次はこちらがあたふたと慌て出してしまう。
「おい、何をしてるんだ!
それこそ勝手な事だろう!やめてくれ!」
「そうだよ、説明してくれなきゃ分からないって!」
「すまない…本当にすまない…
俺は…あの時ジェムを担いで歩いていた…
しかし、比較的軽症な俺も腕を骨折して太ももをやられて血が止まらなくて…
進みながらも全員が消耗していく状況で、息のなかったジェムとヴァロンを……くっ…」
ポツリポツリとあの時の状況を話し出した。
そこで分かった事は、教会を制圧した事を手放しに喜べない現実だった。
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教会を爆破して辺りが静まり返った時、倒れている兵士が複数人確認できた。
衝撃に耐えきれず軽く吹き飛ばされた者や、悪魔との交戦で負傷していた者だ。
悪魔の生き残りがいない事を確認しながら手当を行なっていたが、その中で特に重症だったのがヴァロンとジェムの2名で、仲間たちが必死に止血をしていた。
それでもなかなか出血が止まらず、どんどん顔が青ざめていき呼吸も浅くなっていく姿をただ見ることしかできなかった。
目の前の命を助けようと尽力する傍ら、教会を制圧した事を喜ぶ感性や涙する嗚咽が響き渡る。
そんな耳障りな音に怒りを感じながら、持てるもの全てを使って手当てを続けていた。
しかし、2人が目を開ける事はなく、最悪の事態が訪れるのではと感じた。
それでも希望は捨てきれず、一緒に帰る事を選択した。
行方不明の仲間の捜索、負傷した仲間の手当てなど、思った以上に撤退の足取りが重く時間がかかった。
瀕死のヴァロンとジェムを寝かせながら、他の仲間の手当てにも奔走しなくてはいけない状況がもどかしくて怒りを募っていった。
そして、皆んなで助け合いながら2人を担いで歩いていた時、呼吸音が聞こえない気がした。
足を止めて呼吸や心音を確かめたが、生きている事を感じられる温度はなかった。
涙を流す仲間たちにかけられた命令は、2人をここに置いていく事だった。
更に告げられたのは、万が一にも悪魔に使役されないように遺体の首を切り離せと残酷なものだった。
そんなことが出来るわけがなく、必死に抗議した。
何度も何度も同じ話を繰り返し、この間にも他の仲間だって負傷して苦しんでいる事に気がつく。
誰もが時間を惜しむ今、いつまでも立ち止まってはいられなかった。
そこで、悪魔は死後硬直が始まる前の遺体でなくては操る事ができない事を思い出し、あと数時間このまま一緒に歩みを進める事を許された。
しばらく担いで歩き続け、大きな木に2人を寄りかかるように座らせて手紙を握らせた。
2人の姿を見て助からないと分かってはいても、ほんの少しの希望が捨てきれず、どうか生きていてほしいと願った。
例え命尽きていたとしても、絶対にここにこのまま捨て置く事はしない、何があろうと迎えに来ることを約束を己の血で書き誓った。
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「…やっと仲間たちも動けるようになったから、2人を迎えに行こうとしていたんだ。
本当にずっと後悔していたから。
無理やりにでも担いで帰ってきてたら…って。
帰ってきたって聞いた時はすぐにでも駆けつけたかったんだけど、行方不明のアルマの捜索任務があって今戻ってきたところだったんだ。」
「何も気にすることはないさ。
隊として当たり前の判断だ。
恨んでなどない。」
「そうそう、無理が祟って共倒れさせる訳にはいかないのに、それでも担いで進んでくれてくれただけで有り難い事だよ。」
「ありがとう…ありがとう…っ
……ニールが2人を助けてくれたこと、心から感謝してる…
サリ軍隊長からも話は聞いていたんだ…ありがとう。」
深々と頭を下げ、静かな療養所に嗚咽と鼻水を啜る音が響く。
どうか頭を上げてもらおうと声掛けをしようとした時、勢いよく姿勢が直りグシグシと顔を拭う。
そしてまた大きな声を発した。
「…っ!
すまない!挨拶もしないで失礼した!
ノウマスと言う。
ジェムとヴァロンとは同じ部隊に所属しているんだ。
改めて、本当にありがとう。」
「俺は何もしていないよ。
ほんの微かに燃えていた命が、生きるために自力で大きくなったんだ。
2人の生命力だよ。」
「……ニールがその2人の消えかけた命の炎に、たくさん薪をくべてくれたんだ。
それに、ニールの事も見つけ出してあげられなかった。
申し訳なかった。」
「いいんだ。
俺はこうして新しい仲間ができた事がすごく嬉しいんだ。
どうか友人としてこれから仲良くしてくれ。」
「…ああ、もちろんだ!
これから退院なんだろう?
早速荷物持ちに使ってくれ!」
「ははっ
友人を荷物持ち扱いは流石にしないよ。
……でも、このカバンをお願いしようかな。」
「ああ、任せてくれ!
ジェムもヴァロンも何でも持つぞ!」
熱く騒がしいノウマスに元気を吸い取られるような気さえしてしまうが、憎めない笑顔から仲間を大切に思う人柄を醸し出している。
ジェムの家で世話になる事を伝えると、本人がいるのに先頭に立って道案内をし始めた。
とても張り切っており、心から生還を喜んでくれている事が伝わる。
そして、家に着くなり「妹が心配するから!」とそそくさと帰っていった。
礼を述べる隙も与えぬほど嵐のように去って行く背中を見送り、次回会った時はお礼をしなくてはと考えながらゆっくりと荷解きを始めた。




