表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/19

13.窓に隔てる生

見知らぬ白い景色の中で目が覚め、無事に帰ってくる事ができたのだと思い出した。

雨の冷たさで慌てて起きる事も、寝返りで石が身体に食い込む事もないのだなと、柔らかいベッドが心地良い。

ボーッと休息を堪能していると何やら話し声が聞こえ、そっと窓を開ける。


「お待ちください!

私も同行させてください!」


「いや、いい。

私1人で行こう。

病み上がりの中で何人も来客があれば疲れさせてしまうからな。」


「どうしても謝罪がしたいのです!

サリ軍隊長、お願いします。」


「謝罪をしなくてはいけないのなら、その役目は私であろう。

私が全ての責任を負っている。

お前はここで待っていてくれ。」


「…はい…

大変失礼いたしました…」


確かにサリ軍隊長と呼ぶ声が聞こえた。

まさかの来客に心臓が跳ね、何が起きているのだと頭をフル回転させるが、理解できない。


グルグルと考えている内に扉が開き、1人の男性が現れた。

ピシッと伸びた背筋、パリッとした制服、顔には薄い皺が見られるが髪型も髭も整えられていて清潔感がある。

登場と同時に部屋の空気はピンと張り詰め緊張が走るが、突然現れた高官にも身体はすぐに動いた。


裸足であることも忘れ、冷たい床の上に立ち敬礼をする。

その横では、ヴァロンとジェムも同じように背筋を伸ばして敬礼を行っていた。


入り口で数秒静止していたかと思うと、コツコツと足跡を立ててこちらへ歩み寄る。

静かな療養所に響く足音が、緊張感をさらに高めて行く。


「どうか楽な姿勢になってくれ。

無理はさせたくない。」


楽にしてくれと言っても、軍隊長の前でどうしたら良いか分からず難しい。

姿勢を崩せないまま3人の前まで到着してしまう。

そして立ち止まったかと思うと、勢いよく頭を下げた。

突然の事にあたふたとしている中、静かに口を開き始める。


「……本当にすまなかった。

謝って許される事ではないと分かっている。

それでも、今回の過ちを心から詫びさせて欲しい。

私の判断が全て誤りだった。

本当に、本当にすまなかった。」


「サ、サリ軍隊長どうか頭を上げてください!

俺は見ての通り大柄ですので、担いで帰るなど難しいでしょう。

それに、本来なら死んでいました。

だから間違った判断ではないと俺は思います。」


「そうです。

たまたま助けられたから生き延びただけで、もうあの世まで片足どころか肩まで浸かってました。

隊の被害、余力を考えて1人でも多く帰還するためには仕方のない判断ではないでしょうか。」


「それでも…まだ生きていた君たちを死んだものとしてあの場へ置いていった…

結果、ここまで生きて帰るだけの生命力があった事を見出せず、自分達を優先してしまった…」


「いいんです、俺たちは死んだも同然でした。

実際、指一本動かず心臓が止まる瞬間を迎える事しかできなかった。」


「兵士である以上、死を覚悟しなくては務まりません。

僕たち2人はあの戦いを自力で生き延びられなかった。

誰のせいでもない、自分の責任です。」


「……っ

生きて帰ってくれた事を心から嬉しく思っている。


やっと頭を上げたサリだったが、俯いたまま口を強く結び申し訳なさそうな表情をしており、あの時どのような状況で先導をしていたのかと想像をする。

自分ならどうしていたのだろう。

しかし、今ですら精一杯の自分に仲間を抱えて最適解を導くことは不可能だろうなと思ってしまう。


俯いていたサリが顔を上げ、体の向きを変えると視線を合わせてゆっくりと再度口を開いた。


「…ニールだったな?」


「は、はい。

お見せできるような顔ではないのですが、私はニールです。」


「そうか、ニールか…

2人を救ってくれて本当にありがとう。

そして、3人で無事に帰って来てくれた事は奇跡だ。

見つけ出せずにすまなかった…」


「いえ、私は作戦を無視して突っ込み、爆破に逃げ遅れただけの自業自得です。

隊を乱してしまい、申し訳ありませんでした。」


「いいんだ。顔を上げてくれ。

これ程までの重傷を負っている中でいい事ではないが、そのおかげで2人を救う存在となってくれた。

どれだけ感謝を述べても足りないほどだ。」


「それは結果論です。

隊を乱し、1人で勝手に吹き飛ばされて重傷を負ったことは事実です。

確かに2人を発見して介抱しましたが、決して褒められた事ではありません。」


「……そうか。

だが、重傷の中でも帰って来た事、2人を救った事は褒めさせてくれ。

死を覚悟すべき兵士と言えど、仲間を失う事は本当に辛い事なのは分かるだろう?

だから、よく帰って来てくれた。」


勝手な行動を咎められると思っていたが、逆にものすごく感謝をされ肩の力が抜けて行く。

この傷は本当に自業自得でしかないからだ。


しかし、帰還を喜んでくれている事は純粋に嬉しく、心が温まる。

そして、3人はベッドに腰掛けてサリは見舞い用の椅子に座り、あの時の話しをし始めた。


やはり、隊の被害は大きかったらしい。

複数の負傷者が出ており、教会の爆破が想像以上の威力で、吹き飛ばされた行方不明の兵士がいるとの事だった。

その兵士の名は【アルマ】

単独で教会に突っ込み、爆破に巻き込まれてそのまま行方不明になっていた。


まさに自分と同じ行動で耳が痛くなる。

目の前でパニックになっている悪魔を一網打尽にできると思ったら、身体が勝手に動いていた。

退避の合図も、爆破の合図も聞き逃して巻き込まれて行方不明。


しかし、教会の中にいた時の自分の記憶の中にアルマの存在はなかった。

無我夢中だった事もあるだろうが、人間は1人だったような気がする。

そのため、サリへ伝えられる情報が何もない。


その後もしばらく会話をし、道中での生活や悪魔に食われた少年を発見した事も話した。

回復したら家族の元へ送り届けたい事など、話したい事が多くて聞き取りにくかったとは思うが、何も言わずに聞いてくれた事が嬉しかった。


サリの方でも拐われた少年について調べてくれるとの事で、送り届ける許可を得る。

そして、またゆっくりと話そうと残して去っていった。


ふうと一息つき、ベッドから窓の外を眺めながら行方不明になっているアルマの事を考えていた。

赤く染まる夕暮れの空、窓には自分の顔が反射している。

その先に広がる無限の空を眺めながら、仲間が生きている事を願った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ