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10.砂を噛まずとも

運良く仕留められた兎の肉を焼いて食べながら、今日1日の過ごし方を考える。

今の所、食料の確保はなんとかなっているが毎日必ず確保できるとは限らない状況だ。


何より、少しでも先に進められれば…

2人に無理をさせる事はできないが、このままの状態では治るもの治らない。


「そろそろ動こうか」


「ああ、いつまでも同じ場所で空を見上げるのにも飽きたからね」


「な、何してるんだ2人とも」


起き上がり、荷物の整理を始めていたヴァロン、ジェムの2人を止める。

人が悩んでたと言うのに、さっさと荷物をまとめ身だしなみを整えていく。


前向きな気持ちでいてくれる事は本当に嬉しい。

今の状況に諦めず、ともに歩みを進めようとしてくれているのだから。


「おい、ジェム

左腕が動きにくいんだろう?

少し待て」


「自分でできる。

………ほら見ろ」


「力が入らなくて掴めていなかっただろう。

そんな得意げな顔をされてもな…」


「うるさいよ

いいから、早く準備をしたらどうだい。

お前の髪型なんか誰も見てないんだから。」


「はあ…

傷より心が痛いな」


「それだけ喋れるなら大丈夫じゃないの?」


目の前で繰り広げられる会話をぽかんと見つめる事しかできない。

そして肩が震えだす。


「さ、先を進められるのは嬉しいけど…んんっ

もう少し休んでもいいんだぞ?……フッ」


「おい、笑われてるぞジェム」


「どう考えてもヴァロンの事でしょ?」


口角を上げるなと自分に言い聞かせ、2人に声をかけるが堪えきれておらず、更に追い討ちをかけられ腹が痛い。

笑いで腹圧がかかり、単純に負傷した傷が思い切り痛む思いがけない事故だ。


この2人と一緒にいて自分は大丈夫だろうか…?

そのうち笑いすぎて死ぬのでは?と、違う心配が頭に浮かぶ。


いや、この2人だからいいのだろう。

何があっても乗り越えられそうな気がする。

本当に心強い仲間達で、それまでの孤独が嘘のようだ。


仲間と落ち合う、街に帰るんだと強い意志はあったとは言え、たった1人で痛みや孤独に耐えながら変わり映えのない道のりを歩き続けていれば少しずつ心は削られて行っただろう。

しかし、この2人のお陰で全てが吹き飛んでいったような気がする。


「とにかく、本当に先を進むのかって聞いてるんだよ。」


「俺は問題ない。

むしろ、このまま横になるか座ってるかしか出来ずにいたら尻が地面にくっつきそうだ。」


「それは僕も同じ。

ここで命を削られるくらいなら、少しでも街の近くで力尽きたいかな。」


「大丈夫、2人のことは俺が守るから、途中で絶対に死なせることなんてしないよ。」


「俺たちの命の恩人はどこまでも頼もしいな。

それでも、これからは少しでも力になりたい。

今はこの通りだが、すぐに回復して見せる。」


「今日も明日もずっとこのままって訳には行かないよ。

迷惑かけるだろうけど、進みたい。」


「……何回も確認してごめん。

行こう。

少しずつでも進もう。」


ボロボロの身体とは裏腹に、強く力の籠った声が覚悟を固める。

2人の腕を肩に回し立ち上げた時、思ったより身長の高いヴァロンと、差ほど変わらないジェムが目の前にいた。


力が抜けて転んだり、よろけたりもしない。

しっかりと自分の足で立っている。


軽く足踏みをし、パンパンと服を払う。

ただ2人が自分の目線と同じ高さにいるだけで喜ばしい。


「もう尻が限界だ。爆発するとろこだった。」


「まあ、お尻じゃなくて悪魔は爆破してきたけどね。」


「それで俺が笑うと思ったのか?」


「ちょっとしたブラックジョークってやつ。」


「はあ…

おい、ニールの顔見てみろ」


「あ、イケメンが台無しだね」


どこまで軽口をたたくのか。

ヴァロンは呆れているが、ジェムのブラックジョークは自分も思った…

釣られて言わなくてよかったのかもしれない。

これほど元気なら、あっという間に街まで帰れそうな気すらしてくる。






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焚き火を踏み消し、行こうと号令をかける。

まずは2人の数歩ほど後ろで足取りの観察を行っていく。


やはり予想通りで、足取りは思わしくない。

それでも、少しずつ確かに進んで行くことはできている。

振り返れば拠点としていた場所も視認できる距離ではあるが、もうしばらくすれば見えなくなるだろう。

2人の体重を預かって地道に進んで行く事も考えていたが、そんな心配は全く要らなかった。


2人の背中はとても頼もしいものだ。

完治した時には手合わせをお願いしたいと、これからの楽しみが湧いてくる。


休憩を挟みながら、都度進むべき方向の確認も行う。

日記に書かれている情報を頼りに、太陽の位置などから方角を決める。


かなり体力を消耗していると思うが、会話にも表情にも曇りはない。

全員で同じ事を思う一体感が足を踏み出す力になる。


もう後ろから様子を見守る必要もないだろう。

それでも、いつでも支えられるように2人の間に入り、歩幅を合わせて歩きだす。


初めて肩を並べる事ができた嬉しさで静かに笑みが浮かび、1人で照れくさくなって頬に熱を感じる。


誤魔化すように2人の背中をトンと優しく叩き、建物ひとつ見えない広い大地を強く踏み締めた。

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